そのいち!
「ねぇもう一回弾いて~」
目を輝かせた雪先輩にそうねだられる。
なぜ俺がこんな場所でギターを弾いているのかというと
事の発端は昨日の夕方というにはちょっと早い、そんな時間にさかのぼる。
最近親と仲が悪い。
俺も親に似て頑固な性格なので我が家では一旦喧嘩になるとものすごく長引くのだ。
喧嘩の理由は・・・まぁ今は関係ない。
それで俺は家にいるとたいそう居心地が悪く、
近くの河川敷で小学生から使っているギターを弾いていた。
自慢じゃないが俺は結構ギターが上手い。
コンクールで優勝とかもした。
河原でギターを弾くなんて漫画でしか見たことなかったから、そういうのにちょっと
憧れてたんだよな。
今思うとそれが俺の生活を大きく変えるきっかけだった。
俺が一番気に入っている曲がサビに差し掛かったとき、
「うわぁーギター上手いね。君いくつ?」
気が付くと俺の前に三人の女子高生?がいた。
そのうちの茶色い髪の奴がそう聞いきた。
今時にしては珍しく髪は腰の辺りまで伸びている。
「・・・15だけど」
「じゃ私のほうがひとつ年上だね!でもギターは君のほうが上手いかも~」
「かもじゃなくて雪より絶対この子のほうが上手いよ」
「さっちんのいじわる~」
さっちんとかいう奴も会話に入ってくる。
ていうかこの雪って子もギター弾いてるのか。
「そういえば、足りないギター、この子に弾いてもらったら?」
雪(一応年上だから先輩か?)が言う。
「無茶言うなよ!この子中学生!また男!」
そう黒髪の奴が叫ぶ。いや、15の高校生だっているだろ。まぁ中学生なんだけど。
どうも話の展開についていけない。足りないギター?
「何の話?」
俺が言う。
「私たち軽音部なんだけど、今度演奏する曲のギターが一人足りないんだ~
君、お願いできない?」
「だから無理だって!」
黒髪が言う。
「なんかそこのねぇちゃんが無理って言ってるけど」
「大丈夫だよ美鈴ちゃん。何とかなるってー。
ここで会ったが百年目だよ、ねぇ君、お願い!」
「そんなに緊急なんですか?」
「うん、ちょーきんきゅー!」
考える俺。でも家になるべく居たくないし、いい暇つぶしになるか・・・
「いいっすよ、どこで練習します?」
「いいのか!」
と黒髪(以後美鈴先輩)
「私たちの学校の部室で!」
嬉しそうに雪先輩が言う。
「待って。学校って高校ですか?俺、中学生なんですけど」
無茶ってこのことか。
「何とかなるよ。ダイジョブダイジョブー」
本当かよ・・・
「何高校ですか?ここから近いんですか?」
「すぐそこだよ。若葉高校」
若葉高校・・・あーあそこか、確かにここからチャリで5分でいける距離だな。
ってちょっと待てよ!
「あそこって女子高じゃ?」
「うんそうだよ。見つかると厄介だから気をつけて来てねー」
当然のように雪先輩が言う。
無茶ってこのことかver2
「無理ですよ!もし堂々と入ってったら俺変体扱いされます!」
思わず叫んでしまう。
犬を連れたおばさんがジロジロと見てくる。
「何とかなるよ。ダイジョブダイジョブー」
「さっきと言ってること変わってないよ!小島よしお好きですね!」
「裏に普段誰も使ってない裏門があったよな。」
とさっちん先輩。
「そんなのあったっけ?」
「おまえ在校生だろ!」
とさっちん先輩が雪先輩の頭をたたいて突っ込む。
漫才を見ている気分だ。
「じゃ、裏に門があるそうなのでそこから来てください。」
「分かりまし・・・いや、でもな・・・」
運が悪けりゃお縄だろ。まだ前科者にはなりたくない・・・
「ダイジョ」
「てか最初は私達と学校の前で一回待ち合わせしていく方がいいんじゃない?」
美鈴先輩が話に割り込んできた。
「・・・(絶句」
うわ、明らか雪先輩傷ついてる・・・でもネタかぶりすぎだし、仕方ないだろ。
この人結構面倒くさいな。
「それがいいです。なに俺忍び込むこと前提で話してたんだ・・・」
「でも待ち合わせしたりするのは最初だけな。最初に部室の場所とか覚えろよ」
とさっちん先輩。
「え、2回目からは結局俺忍び込むんですか・・・?」
「そだよ。毎回待ち合わせするとかめんどいし。明日4時半学校の前でー」
「・・・分かりました。今日はもう帰ります」
「じゃーねー。ちゃんと来てねー」
チャリをこぐ俺の背中に向かって雪先輩が言った。
そういえば自己紹介さえしなかったなーとか考えながら帰りたくもない家に帰る。
今日、これ以上話す事は特にない。
親と目合わせないようにメシ食って風呂入って寝た。テレビはあまり見ない。
そんで次の日の放課後。
いつものように友達とだべりながら帰る。
こんな日に限ってゲーセン行かねぇ?とか誘ってきやがった。
一日遅いっつーのとか心の中で毒づきながら断る。
俺の家からチャリで飛ばして15分で到着。
駅前にチャリを停めて学校まで歩く。
近くで見たのは初めてだな。さすが高校、俺の中学より全然広い。
5分くらい早めに来たはずなのだが、雪先輩達はもう校門前で俺を待っていた。
雪先輩が俺に気づき走ってくる。
「来てくれて感謝だよー!」
満面の笑みだ。
「へ~。マジで来てくれたんだ」
とさっちん先輩も歩いてくる。
この人、俺が来ないと思っていたのか・・・?
「ここに来てくれたからにはメンバーとしてよろしく!」
と気合の入った美鈴先輩の声。
「よろしくお願いします。でもまずは部室行きません?」
下校中の生徒が俺に注目しているのが分かる。
「そだねー、私達と一緒とはいえ先生とかに見つかったら色々大変なので裏門から行こー」
雪先輩が元気に歩き出す。
ぐるーと半周、これか。錆び付いた門がある。
「へーこんな門あったんだー」
と雪先輩の感嘆の声。
「この門、鍵とか掛かってんじゃないですか?」
裏門とはいえその可能性は充分にあるはずだ。
「どだろ。私も開けたことないしね」
そう美鈴先輩が言いながら門を開けようと試みる。
ギギギー
ドラクエのラスボスの扉と同じような音を発しながらそれは開いた。
「無用心な学校だな・・・」
空けた張本人の美鈴先輩が言う。
いざ、女子高へ。
先輩方の話によると軽音部の部室は2階の突き当たりにあるらしい。
俺が一人で来るとなると結構面倒な場所だな・・・
「軽音部の部室ってことは音楽室か何かなんですか?」
「違うよー普通の空き部屋使わせてもらってるの。音楽室は吹奏楽部とか合唱部が使ってるからー」
部室までは雪先輩が先に廊下に生徒がいるか確認後俺達がすばやく移動するの繰り返し。
まるでなにかの潜入ミッションのようだ。
幸い放課後だからか特に誰とも会わずに部室の前に到着。
「まぁ入ってよ」
美鈴先輩の言葉通り俺は部室に足を踏み入れた。
想像とだいぶ違う・・・
俺の想像ではたくさんのギターが並んでたり、トロフィーだのなんだのだったんだが、
まず目に飛び込んできたのがぬいぐるみ、ここは軽音部の部室だよな・・・?
いすを勧められテーブルに着く。
「これからこの部屋は君の部室でもあるのだよ!」
雪先輩が胸を張って言う。
「あの、俺先輩方の名前も知らないんですケド・・・」
「あれ?そうだったっけ?じゃぁ紹介しなきゃね。まず私ボーカル兼ギター、
紺野 小雪です。。ヨロシク!次、さっちん」
雪だと思っていたけど小雪だった・・・以後小雪先輩。
「おー、私はキーボードの日下部 幸。よろしくー」
あぁそれでさっちんか、納得。
付け足しておくとさっちん先輩はやたら背が低い。
俺に比べれば小雪先輩、美鈴先輩も低い方だがさっちん先輩は140cm台だと思う。
「私は田村 美鈴ベースです。よろしく」
美鈴先輩は長い黒髪をポニーテールに結っている。
「私たちは全員1年!そして美鈴ちゃんは我が軽音部の部長さんでーす!」
小雪先輩が誇らしげに言う。
「1年生で部長なんですか?」
「あー、この学校って軽音部無くて今年美鈴ちゃんが作ったんだよ。」
高校で軽音部が無いところなんてあったんだな・・・
みんな自分の仕事は終えたという顔で俺を見てくる。
そうか、俺の番か。
「西中学3年 坂元 太一です。小学1年からギターやってます。よろしくです。」
なんとか噛まずに言い終えた。俺は肝心のときに噛むからな。
学芸会の主役は噛みまくって今でもトラウマだ。
「確かに君は太一ーって顔してるね~」
意味の分からんことを言い出す小雪先輩。
「ホントに助かったよ~どうしてもギターがもう一人必要だったんだー、ありがとう!」
小雪先輩にぐわしと手をつかまれ縦にぶんぶん振られる。
「メンバーは3人だけですか?」
辺りを見回しながら尋ねる。
「後1人ドラムの男の子がいるよ。まだ来てないけどそろそろ来るんじゃないかなー。
自己紹介はあー君が来たら本人からで。」
男もいることにちょっと安心。てかあー君?あだ名か・・・?
「男の人?ここ女子高ですよね?」
「あー君もスカウトした助っ人です!」
ドラムが助っ人ってどうなんだろう・・・てかこのバンド助っ人多いな。
「じゃ3人で部活作ったって事ですか?そんな少人数で作れるもんなんですか?部活って。
俺の中学では5人以上の部員と顧問が必要とかでしたけど」
「君の中学と私達の学校も似たようなもんだよー。最低5人の部員が必要なの。
顧問は居たほうがいいけど生徒会が認めれば別に居なくてもオッケー」
小雪先輩が言う。
「じゃ後2人の部員は?」
「なんとか頼んで名前だけ貸してもらってるんだー。その2人はたぶん卒業まで1回も来ないと思う。
全然音楽とか興味なさそうだし・・・」
ずいぶん無理やり作ったんだなこの部活・・・
「それじゃ楽譜貸してもらえますか?目ぇ通すんで」
「あーはいはい楽譜楽譜~」
棚をあさり始める小雪先輩。
10分経過。
「どんだけかかっとんじゃ!」
さっちん先輩がどこからかハリセンを取り出して小雪先輩に突っ込みを入れる。
「ここに置いたんだけど~美鈴ちゃんとギター見つかったらこの楽譜渡そうねって。」
「一週間ぐらい前の事だけどね。」
と美鈴先輩。
「お、ギター見つかったんだ。」
男の声。振り返ると髪を金に染めた美少年がそこに居た。
「見ない顔だね。どこの高校?」
「ち、中学生です。西中3年 坂元太一です。」
「へー。俺、井上 大輝18歳。よろしく」
このバンド年齢ばらばら~。
「そうだ、あー君渡り鳥の楽譜知らない?」
「そのあだ名やめろっつってんだろ。楽譜?一昨日俺に預けたじゃん。」
ホラ、と楽譜をカバンから取り出す。
「そういえばそうでした。」
てへっと小雪先輩。
「雪の物忘れは天下一品だよな。」
ため息交じりに美鈴先輩が言う。
そんなに酷いのか・・・
「であ、改めてどうぞー」
楽譜を手渡される。
随分テンポが速い曲だな。
「この曲、先輩たちが作ったんですか?聞いたことない曲ですけど。」
「そだよ。作詞が私で作曲が美鈴。」
とさっちん先輩。
「舞台発表はいつなんです?」
「2週間後。」
「マジですか!?すぐじゃないですか!」
「だから『ちょーきんきゅー』って言ったじゃん。」
けろっと小雪先輩が言う。
ここまで緊急だとは思わねぇだろ普通・・・
この曲を2週間で完全に弾くのは相当難しいんじゃないか?
大丈夫か、俺。
「ちなみにあー君をスカウトしたのも4日前です。」
ホントぎりぎりだな、このバンド・・・
「あー君やめいといっとるだろうが!」
大輝先輩が雪先輩の頭を叩く。
「ちなみに何であー君なんですか?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。別に苗字が阿部とかでもなかったし・・・
「『い』の上だからあー君だよー」
「初日の自己紹介以来ずっとだぜ。今までこんなに嫌なあだ名つけられたことねぇよ」
たしかにそのあだ名は酷い・・・
でも、俺も気に入ったのであー君先輩に決定。
「太一、ギターどれくらい弾けるの?なんか弾いてくれよ。」
あー君先輩がイスに座りながら言う。
「私も、もう1回聴いてみたいな。河原でやってた曲やってよ。
あれ昔流行った曲だよね。私も好きだった。」
美鈴先輩からリクエストが入ったので一通りそれを弾いてみた。
・・・で、冒頭の会話に至る。
「先輩方はそれぞれ何年くらい音楽やってるんですか?」
そう尋ねてみる。
「私は小学1年からだな。ピアノ習ってったんだ。
美鈴が軽音部作るって言うからその流れで私も入った。」
とさっちん先輩。話によるとさっちん先輩と美鈴先輩は小学校からの友達だそうな。
「俺も小1年からだな。最初はギターにあこがれててギターやりたかったんだ。
でも親がドラムやってて俺もドラム始めたんだ。最初は嫌で仕方なかったよ」
と笑いながらあー君先輩。
「私は中学2年からだよ。ライブであこがれたのがキッカケだね」
と美鈴先輩。
「私は今年からだよ!」
元気よく小雪先輩が言う。
「じゃ、一回あわせてみようよ」
あー君先輩がそんな事を言い出した。
「無理に決まってんじゃないですか!俺、この楽譜5分前に初めて見たんですよ!」
「あー君のくせに良いことゆー!」
小雪先輩も加わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、合わせてみました。
もう目も当てられませんでしたよ、ええ。
大丈夫か!軽音部!
初めて書いてみました。
感想、アドバイスをお待ちしています。