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魔術戦艦  作者: 境康隆
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プロローグ

 第2回GA文庫大賞(後期)1次落ち、及び第17回電撃小説大賞1次落ちの作品に、修正を入れたものです。

 敵の描写は、少々残酷かと思いますので、苦手な方はお避け下さい。

プロローグ


 艦の断末魔はいつも哀しい。

 その身を覆い隠してくれる海のない、宇宙の艦なら尚更だ。

連撃艦(れんげきかん)耶律阿保機(やりつあぼき)〉! 音信途絶えました!」

 ドラクルとまで恐れられた歴戦の勇者、冷血中将――ゲオルゲ・ミリャでもそう思う。

 帝国軍第十七艦隊所属連撃艦〈耶律阿保機〉は、その命運が尽きたのだ。

 操舵不能になったと思しき艦に、ゲオルゲはちらりとだけ視線を送る。もちろん自らが乗る戦艦〈ヴラド・サード〉の艦橋のモニター越しだ。

 士官の告げる僚艦の最後を聞きながら、ゲオルゲはその中の惨状を想像する。

 〈耶律阿保機〉は敵の放った使い魔に、集中攻撃を食らっている。

 もう反撃もままならないようだ。

 艦首に付けられた帝国軍の紋章――金色の獅子が、敵使い魔の攻撃で音を立てて割れた。

 もちろん真空中である宇宙空間では、音が他に伝わるようなことなどない。

 だが魔術的な気で覆われている戦闘宙域では、不気味なもの、不快なもの、恐ろしいものは、その気を波立たせるように広がり、人々の精神に直接伝わってくる。

 そう、それは例えば沈みゆく艦の断末魔だ。

 聞こえてくるのは、その阿鼻叫喚の最後の叫び。

 いや、それは実際は艦のものではない。その中で運命をともにした者達の叫びだ。

 おそらく既に、退艦命令が出されていることだろう。

 しかし多くの者が逃げ遅れて、新たな叫びを上げているようだ。

 その証拠に、次々と生き残った者の脳裏に、新しい断末魔が届けられてくる。

 そして気を伝わってくるそれは、耳を覆うことすらままならない。

 たとえ生き残っても、血で滑る鉄の床を脱出艇へと逃げ惑うのは、困難で、それでいて腹立たしい。その脱出の怨嗟の声がやはり気を通して伝わってくる。

 ゲオルゲも、幾度となく経験した。地球周期で四十八になるまで、よく生きながらえているものだと、ゲオルゲは自分のことながら、そう思う時もある。

 時に煌歴一六三年。宇宙における人類開拓領域の九分の四を占めた、神聖煌輝帝国は更なる覇権を求めた。ゲオルゲの仕えるこの帝国は、その巨大すぎる体を少し身じろぎするだけで、周囲の国々との軋轢を引き起こした。この戦いはそんな衝突の一つだ。

 もちろん一度起こった争いで、帝国が引くことなどない。帝国の名の下に、力で相手を押しつぶして行く。

 この帝国の二つ名である『獅子の帝国』の名にふさわしい、百獣の王の勇猛さそのままにだ。

 帝国の威光。それだけで多くの人命が捨てられて行った。

 惑星の自主。それだけで多大な死体の山が築かれた。

 獅子の帝国はそれでも覇を求める。それは皇帝の威光の為だ。

 初代皇帝から第七代皇帝まで。一人の例外――内向帝と揶揄された先々代――を除いて、皇帝は帝国の版図拡大に最大限の意欲を燃やした。

 今は資源小惑星を巡る攻略戦だ。敵国が一個艦隊を防衛に回した資源小惑星に、帝国軍第十七艦隊が攻め込んでいる。

 そして戦局は明らかに、獅子の帝国軍第十七艦隊に傾いている。

 そう、今まさに沈み行かんとする連撃艦〈耶律阿保機〉以外は――

 その〈耶律阿保機〉に異形の使い魔が、雪崩を打って襲いかかっている。

 また一つ、小さいが間違いようのない断末魔が、ゲオルゲ達の耳に届けられた。

「主砲展開。どこでもいい、派手に撃ち抜くぞ」

 その嫌な気を打ち払うかのように、

「〈耶律阿保機〉への、せめてもの手向けだ」

 冷血中将ゲオルゲ・ミリャは、凛としてそう命じた。


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