カラーに染めて
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
先輩は、自分の持ち物はちゃんとチェックしてます?
いや~、以前にかばんの中身がちらっと見えたとき、プリントとかごっちゃり入っていたじゃないですか? いったい、いつから入っているものだかって、ちゃんと把握できてます? そもそも使う機会があるんですか?
断捨離の精神は広く知られていますが、ものが多くなればなるほど、管理が大変になると考えれば一理ありますね。
ひとつひとつに、しっかりと気を配れる数量には限りがある。管理がおろそかになるならば、何かが入ってきてもすぐには気づかず、延々と放置されてしまう恐れも出てくるでしょう。
芽を摘みとられないようにするための知恵のひとつ。しかし、それでも邪魔され続けていたら、強引な手がいつ飛び出てくるかわかりません。
わたしが以前に体験したことなんですけれども、聞いてみません?
ラッキーカラー。
占いにあまり興味がない方でも、耳にする機会は多いのではないでしょうか?
この色を持つ何かを持っていると、その日は幸運に恵まれるといったことが説明されているでしょう。
幸運、というだけで具体的な内容について触れないのは、占いごとのミソですね。あいまいに話しておけば、あとは受け手側の解釈次第となります。あからさまにラッキーなことが起こらず平々凡々だったとしても、それは本来なら受けるはずだった不幸を受けずに済んだ……ともいえますからね。
要は、気の持ちよう。前を向ける力になることこそが、占いの大きな役目なのかもしれませんね。
おっとっと、ラッキーカラーそのものの話に戻りましょうか。
私自身は、そこまで占いに関心がなかったんですよね。誰かから話を振られれば、相応にあいづちを打って話を合わせることはあります。でも、自分から積極的にかかわるかというと、さほどでもなくって。
ラッキーカラーの情報なども、誰かから聞いたりテレビなどでやっていたりするのを、ひょいと見る感じですねえ。
そして一度知っちゃうと、知らないことにはできませんから、つい考えの片隅がその思考回路に縛られてしまう。このような制約が苦手なのかもしれません。
その日は、学校へ向かうときに近くを通る電気屋さん。そのショーウインドウ内のテレビで拝見しました。
私たちの地元だとラッキーカラーは一週間継続タイプでして。たまたま私の星座のラッキーカラーはピンクだったわけです。
ピンク。個人的には、あまり好きな色じゃないのですよね。
というのも、前々からランドセルをはじめとした持ち物について「男は黒系、女は赤系」みたいな雰囲気がありまして。そこから派生する色のイメージからして、ピンクもまた女の子が使うものという空気が漂っていました。
実際、男子のあいだじゃピンクは毛嫌いされていましたねえ。女っぽくてみっともないと。わたしは女ではありましたが、そう押し付けられたイメージが好みじゃなく、男っぽい色合いや服装を選ぶときは多かったですね。
ですから、ピンクがラッキーカラーといわれても、眉をしかめてしまいます。今日だってハンカチをはじめ、その手の色のものを持っていないし……と、そのまま学校へ向かったのですが。
「ね、背中にゴミついてない?」
そう声をかけられることが、頻発しました。
自分では確認できず、相手にとってもらうことがほとんど。それを見て、わたしは首をかしげてしまいます。
はじめのうちは糸くずなどで、移動しているどこかでくっついてもおかしくないかなあ、とは思いました。しかしそれが、桜の花びららしきものがくっつき出すと、気味悪くなりますね。
季節は6月。葉桜さえもほぼ全滅している有様なのに、いまさらソメイヨシノの花びらがどこからか流れてくるなんて、まず考えられません。
――本格的に、誰かのいたずら?
おかげで、放課後までずっと背中をはじめとする、体中のそこらを気にする羽目になりましたよ。
で、対処に追われるわたしに、目ざとい誰かが教えてくれたわけです。「それ、ラッキーカラーのピンクじゃない?」と。
いわれてみれば、ここまでくっついてくるのは全部ピンク色のゴミばかり。そうと判明すると、気の毒がっていた空気が一変して、「はがさないほうがいいんじゃないの~」などと茶化してくる雰囲気になっていく。
わたしの嫌いなパターンでした。勝手に自分たちだけ盛り上がって、茶化されるこちらの不快さなど考えてくれない。向こうはネタでいじっている感覚かもですが、こちらがご遠慮願いたい時点で、もはやネタでもいじりでもないんです。
かえって意地になるわたしのリアクションが楽しかったのかもしれませんが、実はクラスにはもうひとり、わたしと同じ星座の子がいたんですね。
その子もあまり占いに興味がなく、外から見た限りではラッキーカラーのアイテムを身に着けてはいません。今も我関せずとばかりに、ぺらぺらと本のページをめくっています。
あの子だって、わたしみたいにいじられてしかるべきなのに……と不条理にストレスをため込んでいましたよ、ええ。
そうして、ようやく迎えた放課後。
またしつこく絡まれるより、さっさと帰ろうと昇降口へ向かうわたし。着いた時にはもう、外へ出ている子がいました。先ほどのわたしと同じ星座かつ、マイペースな彼女です。
特に親しいわけでもないし、と靴をしっかり履きなおしたわたしは、彼女がすっかり見えなくなるタイミングで外へ出たんですが。
即、濡れました。
天気雨に降られたとかじゃありません。頭上から降ってきた、水塊にやられたんですよ。後頭部から背中にかけて。
持ち歩いているタオルで、さっと髪を拭いてみると、これまたピンク色。最後までまとわりつくかと思いましたよ。
頭上を見やります。位置的に、確かに昇降口より3フロア上は美術室の窓がありました。色付き水がこぼれる可能性は、なきにしもあらずですが、わたしはもはやうんざりです。
ののしってやる気も、「ありがと~」などと皮肉を返してやる気にもなれず、足を早めてとっとと帰宅することしか考えられなくなっていました。
そうして、学校の敷地外へ出たときです。
先ほどの子が、校舎からは影になる位置のバス停で、本を開きながらベンチに腰を下ろしていました。おそらく、これから用事があるのでしょう。
わたしはそのまま彼女の前を通り過ぎちゃおうと思ったのですが……ふと、強い風に背中を押されました。とっさに踏ん張らなければ、つんのめってそのまま倒れてしまいかねないほどの。
どうにかこらえましたが、このときの風はまるで砂利でも混じっているような、痛さを伴っていました。実際、服のあちらこちらが破け、隠せていない肌の部分には細かな切り傷らしきものができています。
想像した以上の被害に目を丸くしましたし、ふと、あの彼女は大丈夫だったのかと、振り返っちゃいました。
彼女は、いなかったんです。でも、バスは来ていませんし、おそらく歩いて立ち去ってもいない……と思いました。
ベンチ下に、彼女が呼んでいた本の「残骸」が落ちていたんですよ。ずたずたに刻まれて、もはや紙片といったほうがよい状態ですが、かろうじて形を保っていたカバー部分から判別がつきました。
そしてベンチの上には布片といくらかの赤い斑点……その生地が、先ほどの彼女の着ていた服と同じものであると気づくのに、時間はかかりませんでした。
もう、その後は夢中で逃げましたね。どうにか家へ帰り着いて服を脱ぐと、あの濡れた部分ははっきりとピンク色が浮かんでいました。洗濯しても、ちっとも落ちる気配を見せずにそのまま雑巾行きとなってしまいます。
くだんの彼女ですが、翌日以降からもう二度と学校へ姿を見せることはありませんでした。
そして、あの時間に美術室を使っていた人も、いくら尋ねてみても分からずじまいだったんです。




