牡丹灯篭(改)AI併用
原典の中国『牡丹燈記』のように、女が既に白骨化している、
男を無理やりあの世に連れて逝くというストーリーにはしておりません。
三途の川の対岸。あの世の側の船着場、通称 彼岸渡船場。
いつも薄靄がかかって、1年中彼岸花が咲いている。
お露はそこに、牡丹燈籠をそっと傍らに置いて、長い間座っていた。
死んでから何十年たったのだろう。時の流れはこちらではゆるやかで、
けれど現世の年月は容赦なく過ぎていく。
彼女は掟を破らなかった。
「寿命が尽きていない者を、無理やり連れてきてはならない」。
怨霊や悪霊はそんな規則を嘲笑うというが、お露は違う。
新三郎と、こちら(あの世)でちゃんと結ばれたい。
強引に奪うような真似をすれば、地獄に堕とされるか、
魂ごと消滅させられて二度と会えなくなるかもしれない。
それが怖かった。だから待った。
新三郎が、ちゃんと天寿を全うする日を。
その頃、現世では、新三郎はもう80を越えていた。
妻は20年以上前に、息子夫婦もその後に亡くなった。
孫やひ孫は遠い都会に暮らしており、年賀状すら途絶えて久しい。
古い家に1人、静かに暮らしていた。
夜毎、枕元に美しい女の幻が立つようになった頃から、
新三郎は薄々気づいていた。もうすぐ自分の番だと。
若い頃、たった一夏、情を交わしたお露だ。
あの娘は、病で早くに死んだはずだった。
けれど今、夢の中でお露は変わらぬ笑顔で囁く。
「もうすぐ、ですね」
その頃、あの世では。
冥界の奥深い殿舎で、お露は重鎮の家臣に呼び出された。
黒い烏帽子に緋の袍を着た、厳めしい男だった。
「そなたの想い人…新三郎の命は、今宵で尽きる」
家臣は低い声で続ける。
「あの男は現世への未練が深すぎる。浮遊霊となり、地縛霊となり、
周囲に災いをもたらすやもしれぬ。ゆえに、そなたにお迎えを命ずる」
お露の胸が、激しく高鳴った。何十年も待ち望んだ言葉だった。
彼女は最後まで聞かず、牡丹燈籠を手に立ち上がった。
「待ってました!」
家臣が何か言いかけたが、お露はもう走り出していた。
燈籠の火が、嬉しさに震えるように揺れた。
新三郎の家で何が起きたかは作者も知りません(^^;)
翌朝。隣家の婆さんは、新三郎が起きてこないのを不審に思って、
障子をそっと開けた。布団の中で、新三郎は穏やかな顔で息絶えていた。
最期に苦しんだ様子はなかった。
まるで、待ち人との逢瀬を夢見て、そのまま旅立ったように。
その胸の上に、季節外れの牡丹の花びらが、薄紅色に散っていた。
枕元には、一枚の紙が置かれている。女の、懐かしい筆致だった。
俗名 新三郎
同 お露
婆さんはそれを見て、静かに手を合わせた。
古い恋の物語を、ぼんやりと思い出しながら。
現世で新三郎の葬儀が行われていた頃。
三途の川のこちら側の船着場に、二つの影が並んで立っていた。
一人は白髪の老人だったはずが青年時代まで若返り、
もう一人は変わらぬ若い娘の姿。
お露が新三郎の手をそっと握ると、彼は照れたように笑った。
「待たせて、すまなかったな」
「いいえ。やっと、来てくれました」
牡丹燈籠の火が、二人の影を柔らかく照らした。
「船頭さん、お願いします」。
「2人合わせて12文、確かに。ほな、逝きましょか」
やがて2人を乗せた船は、ゆっくりと川の向こうへと進み始めた。
もう、誰も待つ必要のない道を。
十万 億土の~ ラブ ストーリー 来世の キミと♪(終)




