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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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5.日記を読む

 終業式を終えた体育館は、蒸し風呂のようだった。先生方の話も半分どころか四分の一くらいしか頭に入ってない。

 下校のチャイムが鳴って全校生徒がざわついた瞬間、俺は「やっと解放された」と心の中でため息をついた。


 テストの結果は、まあまあ。赤点は回避できて、順位も可もなく不可もなくという感じ。このくらいなら、母さんからガミガミ言われる心配もないし、俺としても一安心だ。


「これで、あとは将棋に集中できるな」


 夏休みは部内リーグ戦の開催日と、市の小さな大会以外は自由参加。つまり、部室に行かなくても自宅で将棋の勉強を進められる。

 エアコンをつけた涼しい部屋で、ネット対局を繰り返しながら将棋の研究を練り上げていくつもりだ。

 俺にとって最高の夏休みプランだ。

 とはいえ、今日は部活に顔を出す日。終業式が終わると、俺はその足で部室に向かった。


 冷房はまだ効ききってなくて、空気にじめっとした熱が残っている。窓際の席に座り、部員たちが来るまで時間をつぶそうとスマホを開いた。 と、その時。画面に本のアイコンが目に入った。


「日記アプリか」


 ああ、そういえばあったな。最初に見つけた時に色々調べて、結局一度しか開いてなかったっけ。なんとなく放置していたけど。まあ、暇だし。

 俺は気まぐれで、日記アプリを起動した。

パッと画面が切り替わり、そこには幾つかの日記が並んでいた。最初の頃とは違って、もういくつか更新されているらしい。といっても、毎日書かれてるわけじゃないようで、二日飛んだり、一行しかなかったり。中身も本当にメモみたいな走り書きが多い。


「んー、なんだこれ。ほんとにただの日記か?」


 指でスライドして追いかけていく。


『昼飯はパンとスープ。肉が入っててうまかった』


『あの丘は景色がよくて風が涼しい。涼しいの最高!』


 日付はすべて現地時間なのかは分からないけど、文字だけ見ると、普通に異世界観が漂っていた。最初の日記で「異世界に来たー!」と叫んでいたくらいだし、これは相手がノリでふざけてるのか、本気で書いてるのかどっちなんだろう。

 気づけば俺は夢中でスクロールして、日記を追いかけていた。中身は雑談みたいなものばっかりなのに、不思議と読み進めてしまう。


「まあ、暇つぶしには悪くないな」


 部室の時計はカチリカチリと音を刻んでいる。俺は机に腕を突っ伏してスマホを手にし、開いた日記アプリをスクロールしていった。

 最初の日記は、前にも見た『いやっほー!異世界に来たーーー!!』の短いやつ。7月10日付けのあれだ。あの時は冗談半分の落書きだと思ったけど。毎日、日記を書くタイプじゃ無いようで、間隔あけて書かれている。


7月12日

『360度地平線で何も無い。とてつもない広さの平原だ。水も食料も見つからず、行き倒れ直前になった。キャラバンに拾われ助かった。道っぽい所を歩いていたのが良かった様だ。キャラバンの馬は、馬じゃなくて痩せたサイみたいな生き物だった』


 痩せたサイって想像しにくいな。とても広く場所を何日も彷徨って倒れる直前とは、ハードなスタートに感じる。

 異世界に行く時に神様と会話したり、特殊な能力やアイテムは貰わなかったのだろうか?

 何も無い所からスタートとは不親切な異世界転移だな。


7月15日

『ひたすら退屈な景色だったけど、途中で丘を通った!丘は景色がよくて風が涼しかった。涼しいの最高!遠くまで見えても何も見えないのは絶望だったけどね。キャラバンの人達との話が唯一の娯楽。色々聞いたけど、魔法もモンスターも居るっぽい。自分の事は殆ど覚えて無いって事にしている』


 かなり広大な草原みたいだな。広大な大地って、北海道とかモンゴルしか思い浮かばないし、行った事も無いけど大変そうだ。


7月16日

『キャラバンが集落に到着。取り引きしてる。このキャラバンは、どんな周期で集落を回って居るのだろう? 唯一の物流みたいだし、この平原の外の国に所属しているキャラバンらしい。キャラバンの人達と違って、この集落の人、身体が小さい。草原の民と呼ぶ種族らしい』


 広大な平原を何日も旅して集落一つ。人口は少ない世界なのかな?

 キャラバンの所属する国は別かも知れない。人種も違うみたいだし。

 小柄な種族で思い浮かぶのは、ドワーフやノームみたいなもんか?


7月19日

『集落に残る事にした。力仕事とか手伝えば住処と食事をもらえる約束。ここでは俺も一番の大男となる。昼飯はパンとスープ。肉が入っててうまかった!キャラバンは数ヶ月で回っているらしい。延々と移動する生活は辛かった』


 キャラバンとは別れて集落に住むのか?

 徒歩か変な動物に引かれる車だしな。現代の移動手段とは快適さが違うか。寝る場所、食事。トイレとかも気になる。


7月22日

『不思議な二人組が集落を訪れた。食料を補充したら、すぐに旅立ったが森の民らしい女の人と、記憶喪失な男性。女性はエルフに見える!エルフきたーー!なら、男性は主人公役だな!』


 エルフきたーー!ってテンション高っ、最初の日記と同じノリだ。でも、森の民か。集落は草原の民と書いてあったな。

 海の民や山の民も居そうな世界だな。


7月24日

『集落が襲われた!怪我人だらけ。命を落とした人も。俺は集落に居ないタイミングだったから偶然助かったけど、お世話になってる人達が酷い目に。異世界に来て初めて怖いと感じている』


 俺は息を呑んだ。これまでの軽口混じりの調子と、文面の震えるような怖さが違いすぎる。何に襲撃されたんだ?モンスターも居るって書いてあったし、それなのかな。

 孤立した集落で存続出来てたなら、環境に対する備えはあるはず。


7月25日

『また襲われるかと警戒しつつ、出来る手伝いを行う。埋葬や瓦礫の片付け。何が目的だったのだろう。食料が目的なのか?怒りと恐怖を感じる!チートが欲しい!』


 現実味は増してるのに、最後はやっぱりふざけている。いや、ふざけてないのか。本気で書いてるからこそ、力を求めてるのかも。

 それか軽口でも吐かなきゃやってられなかったんじゃないか、そんな風にも見える。


7月26日

『昨日の午後、大きな揺れで気絶した。目が覚めたら、また転移したのか?集落ごと?周囲が全て森に囲まれていて、元の平原じゃない!』


 ここで、止まっていた。

 指先が自然に止まり、俺はしばらく画面を見つめて動けなかった。

 襲撃に大きな揺れ、そして集落ごと転移?

 平原から森の中に移動しているって何事なんだ。


 これは一体何なんだ?

 創作だと言われれば、きっとそれで済む。だけど、思いついたまま書いてそうな内容と、細かい情景が妙にリアルで俺の頭の中で「もし本当に誰かが異世界に居るのだとしたら?」って疑念が膨らむ。


「まさか、な」


 口に出して否定しても、胸の奥では変なざわめきが残っていた。

 終業式だった今日は28日。最後の日記から2日経っているが、日記の内容が気になる。無事なんだろうか?

 


 その時だ。部室の扉がガラリと開き、駒箱のカチャカチャ鳴る音と共に先輩たちが入ってきた。現実に引き戻された俺は、慌てて画面を閉じた。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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