26.異世界再訪
案の定というか、予想していた通りというか、みんなの反応はかなり強かった。
最初に声を上げたのは岳人だ。
「せっかく無事に戻ってこれたのに、なんでまた好き好んで危険な場所に行くんだ」
真正面から反対された。 理屈としては、もっともだと思う。
葵も彩花も、千智だって、一斉に反対を主張した。
俺に対する評価は、おそらく「いい人」「信頼できる人」ではあっても、「危険に立ち向かえるタイプ」ではないのだろう。
その見方は、正直かなり真っ当だと自分でも思う。
真司と真美は、困惑が強い様だった。
異世界との距離感が、自分たちの想像よりはるかに近かったことに驚いているのかもしれない。
ヴァル爺とコンタクトが取れるようになった、という点については全員が素直に喜んでくれた。
向こうに頼れる守護者がいて、今も繋がっていられるというのは紛れもない朗報だ。
情報の面でも、精神面でも、こんなに心強い存在はない。
だが、そこに「だから俺が行く」という話が乗った途端、空気はがらりと変わった。
頼れる守護者がいるのは嬉しい。
でも、だからといって、ひとりの大人が再び危険に飛び込んでいい理由にはならない。
その線引きについて、賛成する者は一人もいなかった。
画面の向こうに並ぶ反対の言葉と心配のスタンプを見る。
みんなの言うことは、どれももっともだった。 正直なところ、自分だって異世界に飛ばされた直後は、一刻も早く帰りたいとそれだけを考えていた。
潤くんや拓也くんと比べれば、俺の異世界滞在は短い。
ほとんどの時間を高原で過ごし、本当に危険な目に遭ったのは最後の数日だけだ。
しかも、その間もヴァル爺やアルビオルに守られっぱなしで、自分の力で切り抜けたと言える場面なんてほとんどない。
次も無事に済むとは、とても思えない。
前に帰ってきたとき、みんな本気で喜んでくれたのを覚えているからこそ、「また危険に飛び込む」なんて話を、簡単に許せないのも当然だろう。
自分でも、能力的にも性格的にも、冒険者タイプじゃない自覚はある。
それでも「なんとかなるかもしれない」と思ってしまう根拠が、一つだけあった。
真法の存在だ。
現代に戻ってからは、これはほとんど封印していた。
こっちの世界で下手に使えば、トラブルの火種にしかならないと判断したからだ。
自分で理解できている範囲だけでも、「真法は自重しないと面倒ごとを呼ぶ」とはっきり分かった。
だからこそ、みんなには「一応は使えるけど、ほとんど役に立たない程度」としか説明していない。
わざと大げさに言わず、話題にもしなかったのも、余計な興味を引かないためだ。
だが、もし本当にもう一度あの世界へ行くなら、話は変わってくる。
危険に飛び込む以上、出し惜しみしていい力ではない。
異世界でなら遠慮なく使えるとも思う。
『真法』を使える。
それが、異世界でも自衛できると判断した最大の根拠だった。
現代ではトラブルを避けるために封じているが、向こうならむしろ必要な力だ。
ヴァル爺やアルビオルに教わった範囲でも、危機的状況での選択肢が増えることは間違いない。
だが、この部分を秘密にしたまま「行きます」と押し切るのは、どう考えても難しかった。
みんなの心配を無視して強行突破するのは、信頼を裏切ることになる。
だが結局、俺はこう説明した。
「ヴァル爺の助けが得られるから、前よりずっと安全に動ける。それに、今回の目的は青木拓也に直接会って、本人の状況と意思を確認すること。日記アプリだけじゃ分からない本音を、直接聞きたいんだ」
そして、時間をかけてひとつひとつ、懸念点を潰していった。
装備の準備、連絡手段、緊急時の撤退判断、榊原との情報共有。
できる限りのリスク管理を約束しながら、「無理をしない」「生きて帰る」を何度も口にした。
それで完全に賛成してくれた訳ではないが、最終的には渋々ながら納得してくれた。
絶対に無茶しないこと。何かあったらすぐ報告すること。そう口々にそう釘を刺してきた。
そして、榊原にも連絡を入れておくことにした。 あえて軽めのトーンで、こう打ち込む。
「ちょっと異世界行って状況確認してきます。何かあれば随時報告します」
送信してから、画面を見つめながら苦笑する。 こんなメールを送る日が来るなんて、半月前には想像もしていなかった。
それでも、もう後には引けない。
守り石を握りしめ、深く息を吸い込んだ。
次に異世界の空気を吸うのは、自分の意志で、自分の足で踏み出した先だ。
数日かけて準備を終えた健一は、自室から異世界に向かう事にした。
部屋には、岳人、葵、彩花、千智が集まっていた。
見送りに来てくれた四人の顔には、心配と、それでも送り出そうとする覚悟が混じり合っている。
「じゃあ、行くよ」
健一は守り石を手のひらに乗せ、そっと目を閉じた。
心の中で、ヴァル爺に呼びかける。
「準備はできた。頼む」
すぐに反応が返ってきた。
石が、じんわりと温かくなり、淡い光を放ち始める。
その光が次第に強くなり、やがて目の前の空間に集まり始めた。
光は渦を巻き、ゆっくりと大きくなっていく。 帰還のときに見た扉ほど大きくはなく、向こう側の景色もはっきりとは見えない。
だが、確かに繋がったことは感じられた。
健一は振り返り、守り石を岳人に手渡した。
「これ、預かってくれ。ヴァル爺との繋がりが、俺以外にも届くかは分からない。でも、可能性はある」
岳人は黙って受け取り、力強く頷いた。
「行ってくる」
そう短く告げて、健一は光の渦に向き直った。
「気をつけて!」
「無茶しないでくださいね!」
「絶対、帰ってきてください」
葵や千智、彩花の声が、背中を押してくれる。
「待ってるぞ」
岳人も、と低く言葉を添えた。
健一は一歩を踏み出し、光の渦に手を伸ばす。 指先が光に触れた瞬間、視界が真っ白に染まった。
重力が反転するような感覚の後、体が軽く浮き上がる。
そして
次に足が地面に着いたとき、そこはもう、現代の自室ではなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
第一章は完結となります。次章では健一が異世界に再訪し、改めて世界を旅する予定です。
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