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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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24.守り石

 事実を伝えるべきかどうか。

 それを聞いた家族はどうなるのか。

 もし青木拓也 が無事に帰ってこられなければ、結局、家族の懊悩は形を変えながら続いていくのだろう。


 生きていると知ったうえで待ち続ける苦しみと、もう駄目かもしれないと思いながら探し続ける苦しみ。

 どちらがましなのかなんて、外側の人間に簡単に言える話じゃない。


「答えなんて、出ないよな」


 ぽつりとつぶやき、天井を見上げたそのときだった。

 視界の端で、何かがふっと光った。

 部屋の隅の棚。

 そこに「ただの記念」として置いてあったはずの石。ヴァル爺 にもらった守り石が、淡い光をまとっていた。


「おいおい」


 思わず声が漏れる。

 驚きはあった。

 けれど、不思議と恐怖はなかった。

 胸の奥に広がったのは、突然の異常事態に対する警戒よりも、「久しぶりに誰かに優しく肩を叩かれた」ような感覚だった。


 強い光ではない。

 目を射るような眩しさもない。

 ただ、どこまでも静かに広がっていく、不思議なぬくもりを含んだ光。

 部屋そのものがやわらかい膜でくるまれたような、そんな包まれ方だった。

 気づけば、立ち上がっていた。

 棚に近寄り、そっと守り石を手に取る。

掌に乗せた瞬間、石から『何か』が伝わってきた。

 耳元で声がするわけでもなく、頭の中に直接言葉が響くわけでもない。

 なのに、確かに「意味」と「意思」だけが、じんわりと流れ込んでくる。


 ああ、これが向こうの世界で感じていた守護者たちの気配に近いのかもしれない。

 懐かしさと、心細さをごまかすような安心感が、同時に胸に満ちていく。


「繋がっているのか?」


 そう問いかけると、答えのかわりのように、石の光がわずかに強まった気がした。


 石から流れ込んでくる『何か』を、どうにか言葉に置き換えようとしてみた。


「えっと、再会、久しぶり、喜び?新しい、技、真法?健康?元気かってことかな」


 自分でつぶやきながら、はっとする。


「これ、ヴァル爺さんか」


 完全に日本語の文章になって届いているわけじゃない。

 けれど、「おお、久しぶりだな」「元気でやってるか」とでも言いたげな感情の塊が、そのまま胸の奥に流れ込んでくる。

 なんとなく理解できた範囲では、ヴァル爺が新しい技か真法を編み出して、そのおかげで守り石を通じて連絡できるようになったらしい。

 「再会」「喜び」といった感情が強く乗っているあたり、どうやらヴァル爺さんが新しい真法を試しつつ、こっちに声をかけてきたという状況らしい、と受け取れた。

 同時に、こちらの意思も向こうへ届いている感触があった。


 意識して「久しぶりです」と念じなくても、胸の中で湧いてくる驚きや懐かしさ、嬉しさが、そのまま向こうへ流れていく感じだ。


「こっちも元気です。無事に帰れました」


 言葉に出したわけでもないのに、そんな内容が勝手に翻訳されて送られていく。

 会話というより、感情とイメージごとお互いに投げ合っているような、不思議な通信だった。

 最初はその勝手の違いに戸惑った。

 電話やチャットみたいに言葉を並べてから送信するのとは、まるで別物だ。

 だが、やり取りを続けるうちに、少しずつコツが分かってくる。

 こう思っていると自分で認識した事が、そのまま相手に届く。

 逆に、向こうから送られてきた感情の塊を、自分の中で自然に翻訳して理解する。

 気づけば、部屋の中でただ石を握っているだけなのに、 高原の冷たい空気や、焚き火の匂い、ヴァル爺の笑い声まで、鮮やかに蘇っていた。


 健一は、胸の奥から湧き上がる疑問を次々に送り出してみた。

 異世界の状況が何より気にかかる。


「アルビオルは無事か? 俺が帰還の扉を抜けるとき、あいつは黒竜と死闘を繰り広げてた。あの戦いはどうなった? ヴァル爺たちは元気か?」


 さらに、高原や大森林の様子も気になる。


「黒い森はどうなってる? あの世界全体がどう変わったんだ?」


 そんな思いを、言葉にするでもなく、ただ強く意識した。

 すると、石からじんわりと返事が返ってくる。ヴァル爺の意思が、ゆっくりと流れ込んできた。

 アルビオルと黒竜の戦いは、三日三晩も続いたらしい。

 互角の死闘の末、引き分けに近い形で決着がついた。どちらも致命傷は負わず、ひとまず退いたようだ。

 黒い森は、恐ろしい勢いで広がり続けている。

 元からあった大森林や小さな森は無傷のまま、だが、それ以外の土地、広大な大平原や荒れ地を、まるで塗り潰すように飲み込んでいく。

 止まる気配はまるでない、と。

 一方、大森林の中央にそびえる大山脈と、その中腹にある高原は変化がない。

 森の民、山の民の領域は、異変の影響を直接受けずに済んだようだ。

 だが、大平原は完全に姿を消し、黒い森に取って代わられている。


 頭の中で地図を塗り替えるように想像しながら、胸の奥が重くなる。

 青木拓也がいた場所は、今や黒い森のど真ん中。


 それでも、ヴァル爺たちの「無事」という報告は、ほんの少しだけ心の負担を軽くしてくれた。

 石を握る手に力を込め、感謝の念を送り返す。


「ありがとう。こっちの状況や、少し伝えたいことがあるんだが」


 向こうの世界と、こちらの世界。

 再び繋がった細い糸は、まだ何かを伝える準備ができているようだった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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