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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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23.家族の思い

 LINEのグループ『日記組』に新しいアイコンが二つ増えてから、一週間が過ぎた。

 今ではすっかり、高校生たちが中心のにぎやかなチャットルームになっている。

 特に、青木拓也と菱沼真司のやり取りを巡る話題は、毎日のように更新されていた。


 調べ物の報告、アプリの挙動の共有、どう返信するかの相談。タイムラインは、現代と異世界をまたぐ小さな会議録みたいになっている。

 青木の反応は、正直予想外だった部分もある。


「異世界から帰還した人間がいる」


 真司が伝えたとき、向こうはしっかり驚いてはくれたらしい。

 だがそれでも、青木拓也 は日記に「俺は日本には帰れない」と、重ねて書いてきた。

 希望がないと決めつけているというより、そう思わざるを得ない何かを抱えている印象だ。

 一方で、真司はと言えば、あの日以来、毎日欠かさず日記アプリに書き込みを続けている。

 こっち側の進捗報告はもちろん、健一たちから聞いた情報を整理して伝えたり、青木に頼まれた調べ物、知識なんかをネットで調べてまとめて送ったりもしている。

 日記組のトーク画面には、そんな真司の報告が毎日のように流れ、葵や千智、彩花がコメントをつけ、健一が時々補足を入れる。

 異世界と現代をつなぐ細い一本の線は、今や一人の高校生だけではなく、複数人のチームで支えるものになりつつあった。


 異世界にいたときの自分を思い返すと、胸のあたりが少し重くなる。

 あの高原で、日本と繋がっているものはスマホ一台だけで、その中の葵との日記が本当に唯一の希望だった。

 毎日届く文字が、「まだ日本がある」「まだ自分は忘れられていない」と実感させてくれる希望だった。


 だからこそ、ここ一週間で青木拓也 から届いた日記がたった三回という事実は、どうしても気になる。

 俺たちの存在を伝えたあとでさえ、「帰れない」「家族への連絡はいらない」という姿勢は変わらない。

 その理由を詳しく書こうとしないのも、意図的に距離を取ろうとしているように見える。


 本当に帰れないから、余計な期待を持たせたくない。連絡だけして、結局戻れなかったら家族がもっと傷つく。

 多分そんなふうに考えているのだろう。

 文字の端々からは、諦めと、自分なりの「優しさ」のつもりの決断が透けて見える。


 だが、本当にそれでいいのか、とも思う。

 帰れない理由を言葉にできないまま、俺が決めたからで押し切ろうとしているなら、それは責任感が強すぎて、自分を罰しているだけにも見える。


 状況も依然としてはっきりしない。

 世界が黒い森に覆われたあと、草原の民の集落を出て旅立ったことだけは書いてきたが、どこへ向かっているのか、何を目指しているのかは明かしていない。


「やることがある」とだけ残して、肝心な中身は伏せたままだ。


・毎日書けないほど追い詰められている

・言葉にしたくない何かに関わっている

・自分だけの責任にして、誰も巻き込みたくないと思っている


 そのどれか、あるいは全部かもしれない。

 だからこそ、こちら側がやるべきことは、結局シンプルだ。

 日記が少なくても、こちらは毎日ここにいると伝え続けること。

 帰れないの一言で終わらせず、いつでも話していいし、聞く準備はあると示すこと

 家族の件も、一緒に考えることはできると伝え、青木 一人の決定にしないこと。

 かつての自分が、毎日の一通に救われたように。


 頻度や内容がどうであれ、繋がっている線を簡単に手放さないことが、いま一番大事なことだと感じていた。


 若者組と大人組で、やることが自然と分かれてきた。

 高校生と、千智が加わった若者チームは、日記アプリを軸に青木拓也との連絡を続けている。

 どんな返事をするか、どこまで踏み込むかを毎回グループで相談しながら、一通一通を慎重に選んで送っていた。


 一方で、大人組の俺と岳人は、そこから上がってきた情報を整理して、国側の窓口である榊原と共有している。

 異世界の現状とこちらの家族の状況、両方を見ながら、今できることは何かを一緒に検討していた。

 今日、俺は自室の椅子に深く座り込みながら、榊原から聞かされた青木の家族の様子を思い出していた。

 彼が行方不明になった直後は、当然ながら家の中は大きく動揺していたという。

 警察の聞き込み、近所へのビラ配り、学校関係者への連絡確認。

 やれることは一通りやり尽くして、今は「何か新しい情報が入るのを待つ」しかない状態に、ようやく気持ちが落ち着きつつあるらしい。

 問題は、そこに生存の情報をどう扱うかだ。

 本人、青木拓也は、「自分が日本に帰れないから、生存だけ知らせても意味がない」と考えている。

 だからこそ、「家族への連絡はいらない」と繰り返しているのだろう。

 けれど、行方不明の家族を思って必死に探した人間を俺は知っている。

 潤の母親や、三浦さんの事も岳人から聞いている。

 生きていると分かるだけでも、救われる心は確かにある。

 戻れるかどうかは別の話としても、もうこの世にいないのかもしれないという底なしの不安からだけでも、家族を解放できる。

 本人の意思を無視するわけにはいかない。

 だが、心配している側の気持ちもまた、無視していいものではない。


「本当に、このままでいいのか」


 自室の静けさの中で、思わずそうつぶやいていた。

 青木 の「知らせないでほしい」という決意と、家族に「生きている」と伝えたいという自分の思い。

 その板挟みの中で、どこに線を引くべきか。

簡単な答えが出る話ではないと分かっていながら、それでも心のどこかで、生きているという事実だけでも伝えられないか。

 その思いが、静かに燻り続けていた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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