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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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20.異変の詳細

 健一は、一度頭の中で整理してから、ゆっくりと言葉にしていった。


「ここまでの話で、おおざっぱな話しは見えてきた気がする。さっきノートでも見てもらったけど、俺が最初に転移したのは山脈の中腹にある高原だ。後ろに連なる山脈、その斜面を下った先には大きな大森林があって、そのさらに向こうに、果てが見えないくらい大平原が広がっていた」


 真司と真美が、自然と身を乗り出してくる。


「日記の子が最初にいた、とても広い平原ってのは、おそらくその大平原だろうな。そこからキャラバンに拾われて、草原の民の集落に連れて行かれた、って流れも、俺が知ってる世界の作りと合致してる」


 グラスの水をひと口飲んでから、指を折りながら続ける。


「確認しておくと、俺が把握してる限りだと、山には山の民がいて、大森林には森の民が住んでいる。で、大平原には草原の民だ。日記の内容とだいたい一致してる」


 そこで、一つ気になっていた点を口にする。


「で、重要なのが集落の周囲が森になった日だ。日記の時間軸で言うと、異変が起きたのは二十五日、で、二十六日にはもう森になってた、って解釈で合ってるか?」


 真司はスマホのメモを確認して、こくりと頷いた。


「はい。二十五日付の日記によく分からない揺れが発生したみたいなことが書いてあって、その次の二十六日の更新で周りが森になっていたって書かれてました」


「やっぱりか」


 思わず低く唸る。


「それ、多分だが大平原が一晩で黒い森に塗り替わった日だ」


 テーブルの上の空気が、目に見えて固くなる。 真司も真美も、言葉を失ったように俺を見つめていた。


「俺もその日に異変に巻き込まれて、高原の上で気絶してる。気絶する前は、山の上から見える景色は、どこまで行っても草の海みたいな大平原だった。でも、目を覚ましたら、一面、果ての果てまで黒い森に変わってた」


 自分で口にしながらも、背筋にうすら寒い感覚がよみがえる。


「だから、二十五日から二十六日にかけて起きた揺れの正体は、多分それだ。広大な大平原そのものが、まるごと何かに上書きされたかのように、黒い森へ変貌した。その範囲の中に、日記の相手がいる草原の民の集落も含まれていた可能性が高い」


 真美が、震える声でつぶやく。


「広い平原が、一晩で全部、消えた、ってことですよね」


 真司も、唇をきゅっと結んだまま動かない。その視線の先には、異世界のどこかにいる青木拓也という名前があるのだろう。


「その時、高原には俺がいた。大平原には、日記の向こう側にいる青木くんがいた。同じ夜に、同じ世界の、違う場所で同じ異変に巻き込まれてたわけだ」


 そう締めくくると、個室の中はしばらく誰も言葉を挟めない沈黙に包まれた。

 異世界で起きた地図が書き換わるレベルの出来事と、その渦中にいた人物たちが、こうして一つのテーブルを囲んでいるという事実だけが、妙に重くのしかかってくるのを感じた。


 健一は、テーブルの端に置いたグラスを指でなぞりながら、前置きをした。


「これは俺自身が直接見たわけじゃなくて、向こうで少し聞いただけの話なんだけどな。草原の民の周りで災難みたいなのが続いてて、それがあの異変に繋がっていったって話しがあった。日記にあった集落への襲撃も、その一部かもしれない」


 真司と真美の視線が、自然とこちらに集中する。


「大平原って、完全に草だけの世界ってわけじゃなくてさ。ところどころに小さな森が点在してるんだ。俺は、その中の一つに住む森の民の夫婦に会った。そこに、異世界に飛ばされた子どもが保護されていてな」


 言いながら、潤の顔が浮かぶ。


「その子も、今回の異変に巻き込まれてる。しかもその時にスマホを失って、こっちとの繋がりが完全に途切れてしまったんだ。だから、現代側からコンタクトを取る手段はなくなってた」


 真美が小さく息を呑む気配が伝わってくる。


「でも、現代の葵ちゃんたちが、その子のことを教えてくれた。俺は向こう側で協力してくれた連中の力を借りて、森の民の夫婦のところまで迎えに行ったんだ」


 そこで一度言葉を切り、ゆっくりと思い出すように続けた。


「無事にその子と合流できて、その流れのまま、一緒にこっちへ帰って来られた。それが、だいたい先週の話だな」


 真司と真美は、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえるくらい、じっと耳を傾けていた。

 俺の話の向こう側に、異世界の光景を見れてるだろうか。


「今も、あいつはあの世界にいるんですよね」


 真司が絞り出すように言う。


「少なくとも、日記が続いてる限りはな」


 俺は、出来るだけ落ち着いた声で返した。


「だからこそ、ここからどう動くかを一緒に考えようって話になる。俺達は帰って来た

、青木くんも帰れる筈だ」


その言葉に、二人の目に浮かんでいた純粋な不安の色に、わずかに希望が混ざったように見えた。


 真司が、慎重に言葉を選びながら切り出した。


「その、健一さんは、異世界からちゃんと戻って来られたんですよね」


「まあ、ここに座ってる時点でな」


 苦笑しながら答えると、真司は小さくうなずき、それから本題に踏み込んだ。


「今日の分の日記で、青木拓也 が日本には帰れないって書いてきたんです。だから家族への連絡はいらないって。先日の日記では、家族に連絡してほしいって頼まれて、妹さんの連絡先まで教えてもらってたのに」


 葵が眉をひそめる。


「考えが変わった、ううん考え直した結果なのね」


 健一も頷き、続ける。


「無事を知らせたいってのが本音だろう。でも帰れないならって考えた結果か。だが、こちらに帰る事は可能だ。まず、それを伝えてるべきだな」


「はい。後で文面を考えるのも手伝ってください」


 真司が初めて書き込んだ後、数日後に初めて返事が来た。その時に青木拓也は名乗り、家族への連絡を頼んで来た。

 

「日記の相手が青木拓也を名乗り、凄く驚きました。丁度、その日の部活で青木拓也が行方不明って噂を聞いたばかりでした」


「その後のやり取りで、青木の親は信じないかもと。妹なら信じるかもと連絡先を教えてもらいました。ほぼ同時に、葵さんのブログを見つけ連絡をとって今日に繋がった感じです」


 


 


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