17.対面
グループの話し合いは自然とまとまった。
急な話でもあり、岳人は仕事の都合で動けないことが分かっていた。
「人数が多いと相手も萎縮するかもしれん。代わりに報告だけはこまめにくれ」
岳人の言葉に、了解と返事をする。
結局、現地へ向かうのは葵と俺の二人に決まった。
向こうも高校生だし、過敏にならずに済むだろう。
翌日、空はよく晴れていた。
レンタカーの運転席で俺がエンジンをかけると、助手席の葵が地図アプリを開いてシートベルトを締めた。
「どんな人達なんでしょうね。3組目の人達」
窓の外を見つめながら葵がつぶやいた。
「高校生か。俺と潤以外は、高校生になる。何か関係あるのかな?」
「どうなんでしょう。スマホに意思が芽生えるって仮説を考えると、触れてる時間が長いとか?」
「俺もスマホ触ってる時間長いから、そうかもな。相手の印象、メールでどう感じた?」
「文面は真面目で丁寧でしたよ。でも直接会わないと、人柄はわからないかも」
葵は、そう言って苦笑する。
「人に見せない文章なら、本音書いたりするんだけどな。初対面相手の問い合わせでは仕方ないか」
健一はハンドルを回しながら答える。
「でも、内容を読んだ限り、本物っぽいな」
「うん。文章とか文体が作り話っぽくないんですよ。言葉の選び方が、あの頃の健一さんと似てる気もして」
「はは、俺のときはもっと混乱してたと思うけどな」
短い笑いが車内に響く。そのあとしばらく無言の時間があった。高速に乗ると、葵が控えめな声で続けた。
「それにしても、3組目って、思ったより早かったですね」
「同感だ。帰ってきたの先週だしな。殆ど同時期に巻き込まれている感じだ」
「でも、健一さんが潤も連れ帰ってくれて。更に、こうして誰かを助けられるかもしれません。それって、すごいことですよ」
その言葉に、なんとなく胸の奥があたたかくなる。
信号待ちの間、窓の向こうを流れる街並みを見つめながら小さくうなずいた。
「あの時、葵と繋がってなかったら俺は帰れなかった。もし今度、誰かが迷ってるなら、少しでも何かしたいな」
「私もです。今度も助けましょう」
そんな会話を重ねるうちに、ナビが目的地まであと一キロを告げた。
駐車場に車を入れて、店の入口へ向かう。昼前の時間帯で、店内は落ち着いた雰囲気だった。受付で予約名を告げると、スタッフが静かに案内してくれた。
通されたのは、柔らかな照明に包まれた個室。 外の喧噪から隔てられた空間で、落ち着いて話ができそうだ。
「少し早く着いたな」
俺が腕時計を見ると、葵が頷いた。
「向こうの子もすぐ来ると思います。緊張してないですか?」
「してるに決まってるだろ」
小さく笑いながら席につく。
「でも、たぶん、向こうのほうがもっと落ち着かないさ」
予約は昼前から夕方まで。しっかり時間は確保してある。
相手が来たらまず飲み物を頼み、自己紹介から始め、慎重に話を聞く。
そのあと、ひと区切りついたら昼食をとりながら、残っていることを落ち着いて話す予定だった。
静かな個室に、遠くのテーブルから食器の音がかすかに響いた。
まもなく、扉がノックされるだろう。
俺の心臓は、少し早く打ち始めていた。
扉がノックされて、スタッフが顔をのぞかせた。
「お連れさまがお見えです」
その言葉に、葵と顔を見合わせてから立ち上がる。
恐る恐るといった足取りで入ってきたのは、制服姿の二人組だった。
聞いていた通り、高一くらいのあどけなさがある。前に立った男の子は背筋を伸ばしていて、真面目そうな雰囲気が強い。後ろから顔を出した女の子は、きょろきょろと部屋を見回していて、どこか活発そうな印象を受けた。動き方や表情の明るさが、なんとなく葵や千智と相性良さそうだなと思う。
「来てくれてありがとう。どうぞ、座ってください」
先に声をかけたのは葵だった。
いつもの調子で明るく笑いかけ、対面の席を手で示す。その横で、俺は二人の様子をそれとなく観察する。
改めて考えると、高校生なりたての年齢で、見知らぬ大人に会いに来るのは相当な緊張だろう。しかも場所はレストランの個室だ。もう少し入りやすい喫茶店のボックス席とか、レンタルスペースの一角とか、ハードルの低い場所を選ぶべきだったかもしれない。心の中で少しだけ反省する。
全員が席に着き、まずは飲み物だけ注文する。メニューを渡しながら、空気が固くならないように軽い雑談から入っていく。
住んでる場所、どんな学校か。本当に他愛もないやり取りだ。俺としても、単なる事情聴取ではなく、似た境遇の仲間として話せるようにしたかった。
やがて、自己紹介の流れになる。
男の子が、緊張で少し固い声を出した。
「えっと、菱沼真司です。高一です。今日は、ありがとうございます」
続いて、隣の女の子がぺこりと頭を下げる。
「髙橋真美です。同じく一年です。あの、急に変な相談してしまってすみません」
名前を聞いた瞬間、頭の中で整理する。
日記アプリが出現したのは、菱沼真司くんのスマホ。
真美さんのほうは、隣家の友達という話だったな。
二人の自己紹介を受けて、今度はこちらの番だ。
タイミングを見計らって、俺が口を開く。
「俺は佐藤健一。見ての通り、中年の会社員だったんだけど、今は事情があって休職中だ。今日は、葵の付き添いというか、同じ日記アプリ組として来てる」
続けて、葵が笑顔で言う。
「私は佐藤葵です。高二です。真司くんと同じで、スマホに例の日記アプリがあります」
そこで、真司くんが少しだけ目を丸くした。
「あの、やっぱりお二人って、親子なんですか?」
ああ、そりゃそう思うか、と内心で頷く。
俺と葵、名字が同じで年齢差も十分にある。ぱっと見なら親子に見えてもおかしくない。
「いや、偶然なんだよ」
俺は苦笑しながら首を振った。
「同じ佐藤だけど、血のつながりはない。今回の件に巻き込まれるまで、お互いの名前も顔も全然知らなかったんだ」
葵も慌てて手を振る。
「そうそう。本当にたまたまなんです。アプリで繋がった相手が、結果的に同じ名字だっただけで」
「そう、なんですか」
真司くんは少しだけ以外だって表情で言って、真美さんもほっとしたように笑った。
そこから、空気がわずかに柔らかくなる。
緊張をほどきながら、ようやく本題。あの『日記アプリ』の話へと、舵を切っていくことにした。
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