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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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15.何が正しい?

 横浜に向かう朝、窓の外は明るく澄んだ青空が広がっていた。予報を見ても一日中快晴だそうだ。

 暑さは苦手だけれど、雨よりはずっと気楽な気分になる。今日に限って傘の心配もいらない。


 朝食を食べ、出かける準備を早めに整えて、部屋で真美が来るのを待つことにした。

 ちょっと時間ができたので、ニュースやメールをチェックする。世の中も特に問題なく、部活関係も新着なし。そのままスマホを手に、日記アプリも確認しておく。


 そこで、見慣れた画面に新着の通知が届いているのに気付く。


「珍しく早いな」


 青木拓也から、今までになかった頻度で日記が届いていた。思わず即座にアプリを開く。

 日記には、こう記されていた。


『菱沼くん、すまない。家族への連絡は止めようと思う。既に連絡済みだったら、なんとか誤魔化して欲しい。俺は日本に帰れない。ならば知らせない方が良いと考えた。菱沼くんには、引き続き知恵や調べ物で助力して欲しいと思っている。迷惑をかけるが頼む』


「ええぇ!?」


 画面を見ながら、真司は少し混乱気味に考え込んだ。

 昨日は妹の安古への連絡先まで教えてくれたのに、一晩で考えが変わったのだろうか。

 異世界での状況や、自分の今後を真剣に考えた結果、家族に知らせることを選ばなかった。それは正しい判断か?

 日本に帰れない。知らせるな。それは家族にとって青木拓也の死と同じでは無いか?

 その気持ちの重さを思い、無力さと焦りを覚える。


「家族に余計な心配や混乱を与えたくないってことなのか?」


 青木拓也の苦しみや迷いが、短い文章からにじみ出ている気がした。

 真美が来るまでのしばしの間、スマホを手に何度も日記を読み返しては、どう助力できるかを考え始めていた。


 日本に帰れないから家族へ無事を知らせるのもやめよう。つまり、青木拓也は自分の行方を消息不明のままにしてほしいということになる。今まで青木の無事を伝えようと準備していた真司にとって、その判断は簡単に飲み込めるものではなかった。

 引き続き助力してほしい、という青木の言葉は迷いなく受け入れる気持ちでいた。いまさら、自分が知っている相手が異常な状況で苦しんでいるのに「知らないふり」などできるはずもない。


 しかし本当に悩ましいのは、青木の家族たちだ。行方不明者として必死に探しているはずの両親や妹に、何も知らせないままでいることが正しいのかどうかという点だった。

 

 そこへ、すっかり準備を終えて明るい表情の真美が部屋にやってきた。


「どうしたの?顔が暗いけど、何かあった?」


 真司は迷いながらも、さっき届いた青木からの日記の内容を真美に伝える。


「さっき、青木から日記が届いたんだ。家族への連絡はやめてほしいって。理由は日本に帰れないから。昨日の頼みを撤回してきた」


 それを聞いた真美も、しばらく黙ってしまう。


「そっか。青木くん、色々考えたんだね」


「でも、家族は探し続けてるはずだろうし。伝えないままでいるのが本当にいいのか、分からなくて」


「うん。無事だって知る事だって大事だと思うよ」


「でも本人が嫌だって言う以上、こっちの勝手な判断で動けないし」


 二人は静かに、青木の思いと家族の苦しみ、そのどちらに寄り添うのが正しいのか悩み続ける。まるで出口のない問いに、ただ考え込むしかなかった。


 帰れない、だから家族には連絡をしない。青木拓也はそう決意したように見える。

 けれど真司と真美は、青木の家族に本当に何も伝えないままで良いのかどうか、ずっと答えを出せずにいた。


「帰れないって書いてあるけど、本当に帰り方が無いのかな?」


 真美は首を傾げる。


「方法がまったく分からないのか、それとも何か理由があって『もう帰れない』って考えたのか判断できないよな」


 自分がその立場だったとしたら、諦めてしまうのか、それでも何か方法を探し続けるのか、分からなくなってくる。


 やがて、約束の時間が近づき、二人は横浜へ向かう道すがら会話を続けた。


「今日会う佐藤葵さん達にも聞いてみよう。もしかしたら、帰る方法について何か知ってるかもしれない」


「向こうも自分の体験を話してくれるって言ってたし、同じような状況なら相談もできるな」


 駅までの道、電車の中、窓から差し込む明るい日差しの下で二人は次々と言葉を交わした。

 答えのない迷いを抱えつつも、これから誰かと繋がれるという期待が少しずつ心を軽くしていった。


「直接顔を合わせて話せば、何かヒントが見つかるかも」


「うん、なにか進展するといいね」


 足取りを早めながら、二人は新しい出会いに希望と不安を胸に、横浜の街へ向かっていった。


 真司と真美は、横浜への電車の中で少しそわそわしつつも、新しい情報が得られることに期待を膨らませていた。

 自宅のある街から横浜までは、およそ一時間で到着する予定だ。教えられた目的地には、佐藤という名前で予約が入れてあるらしい。

 到着して地図を頼りに歩きながら、二人はどんな店かと予想を話す。だが現地に着いてみると、目の前に現れたのは格式のある、どう見ても高校生が入るとは思えない立派なレストランだった。

 その重厚な扉や看板、店先まで広がる落ち着いた雰囲気に、二人は思わず顔を見合わせ、声を潜めてため息をつく。


「え、こんなとこ入っていいの?普通に一人一万円とかしそうな店じゃない?」


 多少動揺しながらも、時間通りに訪れたことは無駄にできないと勇気を出して店に入る。開店時間間もないからか店内は落ち着いていて、予約の名を伝えるとすぐ案内してもらえた。

 店員からも予約内容に間違いない事を確認され、そのまま奥の個室へと案内される。


 個室のドアが開くと、中の様子に二人はさらに圧倒される。十人は楽に座れそうな大きなダイニングテーブルに、豪華な生花が飾られている。壁には高そうな絵画や調度品まで飾られていて、高校生同士の待ち合わせとは思えない空間だった。

 その個室には、やや緊張した面持ちで座る女子高校生と、落ち着いた雰囲気の年配の男性。おそらく彼女の親がすでに待っていた。

 真司と真美は、場違いな高級感に戸惑いながら軽く頭を下げ、挨拶のタイミングをうかがいながら、そっと部屋に足を踏み入れた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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