12.二つの返事待ち
翌日、俺は朝から頭の中が青木拓也のことでいっぱいだった。
将棋の研究や夏休みの課題も控えているけど、今はそれどころじゃない。真美は陸上部の部活で学校に行っていて、今は一人きりだ。
どうやったら青木の家族に無事を伝えられるのか、何度も考えを巡らせていると、不意に気付いた。
そうだ。俺、青木にまだ返信してなかった。
連絡先を知りたいなら、本人に聞けばいいじゃないか。
自分の迂闊さに思わず額を押さえそうになる。
すぐにスマホを取り出して日記アプリを起動し、メッセージを入力する。
『青木拓也へ。俺は菱沼真司だ。まさか日記の相手が君とは思わず驚いた。家族へ無事を伝える事は了解した。連絡先を教えてくれるか? 』
これであとは返事を待つだけ。どんな風に説明するかは、その後じっくり考えればいい。午後になり、部活を終えた真美が俺の部屋にやって来た。
今日はしっかり自室に戻ってシャワーを浴び、着替えてから来たらしく、爽やかな雰囲気で扉をくぐってきた。
「こんにちはー。暑かったー!」
「お疲れ。陸上部ってほんとうに体力勝負だな」
そんな会話のあと、俺はすぐに今日の進展を伝える。
「青木家の連絡先、直接日記アプリで本人に尋ねてみた」
真美は、呆気に取られた後に照れた様に言う。
「あ、確かにぃ。なんで思いつかなかったんだろ」
二人で顔を見合わせ、笑いながら肩をすくめる。
「あの時は舞い上がってて冷静じゃなかったもんね」
苦笑いしつつ、あとは青木の返事を待つことにした。
きっと何か進展があると思う。
「ねえ、日記アプリの正体とかさ、異世界に飛ばされた人が他にもいないか調べてみない?」
そう、真美が声を掛けてきた。
俺も以前に日記アプリについては調べたけど、新しい情報が出てないかは確認しておきたいし、異世界転移については全く手をつけていなかった。
二人で不思議な日記アプリ、行方不明者の情報、不思議な事件や体験談を検索し始める。 相談しながら、思いつく限りのワードを入力していく。
「行方不明者だけでも年間数万人なんだ」
「え、そんなに?」
「うん、しかも特異行方不明者って、理由がはっきりしないとか不可解なケースだけでも、数千から万単位でいるってさ」
二人で、その数字の多さに驚いた。日本だけでもこれほど不可解な消失があるなんて、現実味を持って捉えると背筋が寒くなる。
次に、ネットで不可思議な体験や事件に遭遇した時の事例や、そういう話を他者に説明しようとして苦労した体験談などを調べてみた。
「こういう話って本気で説明しようとすると面倒な事になるパターンが多いみたい」
「やっぱり誰も信じてくれないか、変な目で見られて終わるって」
「ここにも『面倒事を招くだけなので黙るのが賢明』なんて意見もある」
真美が苦笑する。
「それでも助けは必要なのに、何もできないって悔しいよね」
「たしかに。でも証拠も弱いし、下手なことしたら逆に周囲を混乱させるかもしれないし」
不可思議な事件、行方不明者の多さ、説明のむずかしさ。
調べるほど、考えるほどに日記アプリの現実離れした正体と、どう動くべきかの答えが遠ざかるような気がした。
それでも、自分たちにできることを少しずつ考えていくしかない、と思った。
二人で調べていくと、最近投稿された体験談のブログを見つけた。
「これ、今日の記事だね」
真美が画面を指さす。 つい最近書かれた記事の様で、記事も一つだけの真新しいサイトだった。
そこには、不可思議な日記アプリで異世界に飛ばされた人との交流と、何人もの助けを受けて現代への帰還までという体験談が書かれていた。
『同じ経験、似た経験をした人や困ってる人は連絡して』とも書いてあり、真司のケースと非常によく似た内容だった。
二人で顔を見合わせる。
「これ、俺たちの状況に似てるよな」
「うん、もしかしたら何かヒントがあるかも」
相談の末、ブログ主にDMを送ることに決めた。 真司は悩みながらも、今の状況を簡潔にまとめて文章にする。
『日記アプリを通して異世界にいる相手と連絡を取っています。こちらは高校生で、相手も同じく高校生。今は助けが求められていて、連絡を続けている状態です』
そんな内容をブログ主に送信した。後は返答を待つだけだ。
青木拓也からの日記、ブログ主からの返信。どちらもドキドキしながら待つ事になりそうだ。
「返事が来たら、すぐに相談しような」
「うん、きっと何か手がかりになるはず」
二人で落ち着かない気持ちを抱えながら、わかった事を話し合う。
想像以上に行方不明者が多いこと、そして自分たちと同じような日記アプリの体験談をブログで見つけたこと。
「ほんと、行方不明者って毎年こんなに出てるんだね」
「家出とか、すぐ見つかる事例も多いみたいだけどね。何も理由が判明しない場合も多いみたい」
「しかも、まさかブログ主まで似たような体験をしてるなんて。こういう異世界転移とか、不可思議なアプリに遭遇してる人、案外多いのかもしれない」
「青木も今は無事みたいだけど、やっぱり状況が心配だよな」
「うん。何かあったらすぐ伝えてほしいし、今どうなってるのか改めて聞いてみない?」
真司は日記アプリの書き込み欄を開こうとしたが、なぜか反応しない。
「え、開かない?なんでだ?」
「もしかして1日に一回だけとか、何か制限があるんじゃない?」
「さっき送ったから、今日はもう書き込めない可能性か。マニュアルもヘルプも無いし、明日書けるか様子見かな」
「他にも制約があるのかな?とりあえず様子を見て、明日また試してみようか」
不安と焦りを感じつつも、今は落ち着いて待つしか無い。
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