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【第一章完結】異世界からの言葉  作者: クサフグ侍
第1章 異世界のライバル

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10.部内リーグ

 真司と真美はドキドキしながら日記アプリに書き込みを送った後、「どんな返事が来るんだろう」と想像が止まらなかった。


 もし本当に異世界から返事がくるならどんな感じか、真司の言葉にどう反応するんだろうか、下手したら向こうもびっくりするよね、と話は盛り上がり、話題がどんどん妄想めいていった。


 夜も遅くなり、真美は何か反応があったら絶対すぐ教えて!と念押しして、自分の部屋に帰っていく。

 真司も明日の支度をして布団に入ったが、気になって何度もスマホを手に取った。

 画面を眺めてはため息をつき、動きがないか何度もチェックしてしまう。

 なかなか寝付けなかったが、翌朝は自然と早い時間に目が覚めた。


 こんなに早く起きるなんて遠足の前の日みたいだ、と苦笑いしてしまう。

 すぐにスマホを手に取って日記アプリを確認したが、新しい日記は無かった。


 やっぱり相手は毎日更新するタイプじゃないのかもしれないし、そもそも今大変な状況にあるなら、日記なんか書いている余裕もないかもと納得するしかなかった。


 もっと前に書き込みを思いついていればと少し後悔したが、今できるのは返事をじっと待つことだけだった。


 夏休みの初日なので、真司は机に向かいながら課題のプリントを並べ、何から手を付けるべきかざっと順番を決める。


 夕方、部活帰りの真美が息を切らせてやってきた。「ただいまー」と、まるで自宅かの様に玄関から入ってきた真美は、運動着のまま汗と埃のにおいを漂わせている。ふいにその匂いが気になり、真司はいつもより余計に意識する自分にびっくりした。


 やっぱり一番聞きたいのはこれだといわんばかりに、真美はたずねる。


「日記アプリ、何かあった?」


「まだ、何もないよ」


 真司がそう返すと、真美はがっかりした顔を見せた。自分も同じ気持ちだと思いながら、真司はスマホの画面をもう一度ちらりと見た。


 夏休み二日目も三日目も、日記アプリは沈黙を保ったままだった。

 俺も真美も、なんとなくそわそわしながら過ごし、スマホの画面を確認したけれど、やっぱり何の反応もなかった。


「ねえ、これでもう終わりなんじゃないかな」


 真美がぽつりと呟く。


「そ、そんなのありかよ。やっと始まった気がしてたのに」


 俺は正直な気持ちを言葉に出した。二人とも少し拍子抜けした気分だった。


「もしかして最初だけの遊びだったのかな」


 なんて考えが頭をよぎる。これが最後のメッセージだったら、なんだか寂しい気もした。


 そうして迎えた四日目の夜。今日こそ何か変化があるかもしれないと、期待していた。だけど、やっぱり画面は静かなままだった。

 そんな時、ふと部屋の窓の外から軽いノックの音がした。

 俺が窓へ向かうと、向かいの窓から真美が顔を覗かせていた。


「ねえ、今日こそ何か反応あった?」


 彼女の声は少しだけはやる気持ちを抑えきれないように震えていた。

 俺は首を横に振り、悲しげに答えた。


「うん、やっぱり何もない」


 それを聞いた真美は目を伏せて、まるで期待を奪われたかのように肩を落とした。だが、すぐにそれを振りほどくように顔を上げて、俺をじっと見つめた。


「明日は将棋部の部内リーグ戦でしょ?頑張ってね」


 彼女は微笑みながらそう言って、ベッドに向かってゆっくりと身を引いた。


「ありがとう。頑張るよ」


 俺も負けないようにと微笑み返し、窓の隙間から彼女の表情を最後まで見届けた。

 真美は静かに窓を閉めて、夜の闇に紛れていく。俺も窓を閉じて、心を落ち着かせ明日の対局に備えることにした。


 ベッドに横たわりながらも、スマホを手に取ってはまた確認。変わらぬ無反応に目を閉じた。いつかまた、あの奇妙な日記が動き出す日を少しだけ信じて。

 外の風が窓をかすかに揺らし、夜は静かに更けていった。


 夏休み五日目、この夏休みで初めて学校に向かう朝のことだった。

 いつもの登校路、太陽はもうすっかり照りつける夏の光で、湿った空気が肌にまとわりつく。

 それでも俺の頭には、今朝も何の反応もなかった日記アプリのことがずっとちらついていた。

 ここまでの更新頻度を見ても、間隔がこんなに開いた事は無かった。

 そして、最後に書かれた日記は、相手の状況がかなり悪そうに見えた。

 本当に異世界にいるのなら、その人は無事なんだろうか。

 それとも今まさに、日記を見たり書いたりする余裕もない状態なのかもしれない。

 もしかすると、俺が書いた日記が届いたことに驚いて、その後は書くのをやめてしまったのかも知れない。

 誰かに自分のメモや日記を見られ、そこからいきなりコメントや返事が来たら。考えただけで怖い気もする。


 そんな思いを巡らせているうちに、気づけば部活のある校舎の前に立っていた。

 今日は夏休みだが、部内リーグの対局があるため参加が義務付けられている日だった。

 部室へ入るとすでに部員たちは全員揃っているようだった。

 俺の姿を確認した部長が大きな声で号令をかける。


「楯島、菱沼、座れ!これから部内リーグの対局開始だ!」


 一斉に部員が席について対局の準備を始める。緊張と集中が張り詰める空気の中、俺は心の片隅でまた日記アプリのことを思い出しながら、駒を並べて自分の対局開始の用意を進めた。


 対局は俺の先手で始まった。

 初手は5八飛車。原始中飛車の出だしで、あえて相手の意表を突く一手だ。

 対局相手の楯島が、俺の一手にほんの少し表情を変えたのが分かった。彼の目が一瞬だけピクリと動く。

 俺は玉の守りを硬く保ちつつ、原始中飛車の戦法で対局をじわじわと有利に進めていく。楯島も最後まで粘ったが、ほとんど防戦一方。何度か反撃のチャンスを狙うも、俺の布陣が固くて簡単には崩せなかった。

 そして最後には、彼が投了の手を挙げる。


 対局の余韻を残しつつ、俺たちは周りの対局の邪魔にならないよう、声を控えめに感想戦を始めた。

 楯島は少し悔しそうな顔をしていた。


「最近、部内リーグで勝ててなかったからな。今日はちょっとホッとしたよ」


 俺も本調子とは言えなかったが、勝てたことに少し安心しながら駒を片付けていると、楯島がふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、夏休み後半にある将棋大会、部内からも何人か参加する予定だよな」


「うん、俺も出るつもりだ」


「その大会の優勝候補の一人が、行方不明になってるらしいって話、聞いたことあるか?」


 俺は驚いて訊き返した。


「行方不明?優勝候補は何人か居るけど、誰だ?」


「埼玉の青木。知ってるだろ?」


 楯島の言葉に真司は頷く。


「ああ、何回か対局もした。会えば挨拶くらいする仲だ」


「先月から行方不明らしい。詳しくは知らないけどな」


 そう言って楯島は、他の対局を観戦しにゆっくりと立ち去った。


「青木が行方不明に?」


 俺の中で、少し妙な気配が胸の奥をざわつかせた。

 夏休みはまだ始まったばかりというのに、何かが動き始めているような気がしてならなかった。





最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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