4「ゲームセンターは庶民的?」
日曜の午後。駅前広場は、いつもより人通りが多く賑わっていた。
桐谷悠真はベンチに腰を掛け、そわそわと足を揺らしていた。
(……なんで俺がこんなに緊張してんだ? ただのデートだろ。いや、ただのじゃねぇか。相手はお嬢様だもんな)
そう自分に言い聞かせた時――
「悠真!」
鈴のような声と共に、綾小路璃子が現れた。
今日の彼女は白いブラウスに淡い青のスカート。大学生らしいシンプルな私服だ。それでも、纏う雰囲気が上品すぎて、通りすがりの視線をさらっていく。
「待たせましたか?」
「い、いや……俺も今来たとこ」
悠真は心臓の鼓動を誤魔化すように咳払いした。
悠真が案内したのは、駅前のゲームセンター。
「ここ……ですの?」
「そう。庶民の娯楽といえばゲーセンだろ」
「まぁ! 中からピコピコと音が……! とても賑やかですわね!」
璃子はキラキラした瞳で中を見回す。
「悠真! あれはなんですの?」
璃子が指さしたのは、対戦格闘ゲームの筐体。画面では派手な必殺技が炸裂していた。
「格ゲーだな。二人で戦うゲームだ」
「まあ! 素晴らしい! 勝負ごとならば、わたくしの本領発揮ですわ!」
「お前な……やったことあるのか?」
「ありませんわ!」
「じゃあやめとけ!」
「やりますわ!」
璃子は千円札を両替機に突っ込み、ジャラリと出てきた硬貨を握りしめて席に座る。
「さあ、かかってきなさい悠真!」
「……仕方ねぇな」
試合開始。
悠真は基本操作で地道に攻める。
一方の璃子は――
「ええい、当たれ当たれ当たれえええっ!」
ボタンをひたすら連打。スティックはガチャガチャ。
すると、なぜか偶然コマンドが成立し、超必殺技が炸裂。
「わ、嘘だろ!?」
「必殺技ですわ! 見ましたか悠真!」
結果――璃子のキャラが悠真をKO。
「ふふふ、勝利はわたくしのもの!」
「おい……今の完全に偶然だろ……」
「もう一戦! 次も勝ちますわ!」
そこからが地獄だった。
璃子は連打の神に愛されているのか、奇跡的に技が次々と出る。
対戦を挑んでくる他のプレイヤーたちをも、偶然の必殺技で撃破してしまうのだ。
「すげえ……あの子、無敗だぞ」
「なんだこの連打…プロでもやらん戦法だぞ……」
「いったい誰なんだ…あの子……」
いつの間にかギャラリーができ、璃子はすっかりヒーロー扱い。
「ふふん、これが綾小路璃子の力ですわ!」
「いや、運だからな!?」と悠真がツッコむが、聞く耳を持たない。
結局、一時間以上勝ち続けた璃子は最後に立ち上がり、胸を張って宣言した。
「わたくし、ここで『格ゲー女王』として君臨いたしますわ!」
「やめろ、変な伝説残すな!」
悠真は顔を覆って嘆息するが、璃子の笑顔は楽しそうで仕方がなかった。
「悠真、今日は楽しかったですわ! 次は何の遊びに挑みましょうか!」
「……俺の心労で死ぬ前に考えとくよ」
ゲーセンを後にする二人。
その背中を、ゲーマーたちの「女王様……!」という囁きが追いかけていた。
その夜、悠真のスマホにはゲーセン仲間からのメッセージが届いた。
『お前、あの“伝説のお嬢様”と知り合いなのか!?』
悠真は頭を抱えた。
「……俺の日常、もう戻らない気がする」
格ゲーはやっぱり面白いんよですよねぇ
主はパワーでゴリ押しキャラが大好きなんよねぇ