2「大学生活は豪華に。」
桐谷悠真は、大学のカフェテリアで昼食の焼きそばパンを片手に、ため息をついた。
「……なんで俺の平凡なキャンパスライフは、こうも平凡じゃないんだろうな」
隣の席では、綾小路璃子が優雅にティーセットを広げていた。
そう――彼女はわざわざ執事に持たせたティーセットで、カフェテリアを“アフタヌーンティー会場”に変えてしまったのだ。
「悠真さま、どうぞ。ダージリン・ファーストフラッシュです」
「いや、学食で優雅に紅茶っておかしいだろ! 俺、ただの焼きそばパンだから!」
「まぁ!焼きそばをパンに!?そんな斬新な発想、庶民の知恵は奥深いのですね!」
……周囲の視線が痛い。特に男子学生たちの“羨望と嫉妬が混ざった目”が。
昼休み、悠真は友人に誘われてサークルの新歓ブースを覗いていた。
「悠真、どこか入るのか?」
「まぁ、気楽に入れそうなとこ探してるけど――」
そこに颯爽と現れる璃子。
「悠真さまが入るなら、わたくしもご一緒します!」
彼女が一歩足を踏み入れた瞬間、サークルの空気が一変する。
「お嬢様がテニスサークルに!?」
「いや、華道とか似合いそう!」
「何を言ってるの!こっちの方が似合ってるわよ!」
どよめきが広がる中、璃子は真剣な顔で言った。
「……悠真さまの傍にいられる活動なら、なんでもします!」
その真っ直ぐな瞳に、悠真は心臓を撃ち抜かれそうになりつつ、必死に冷静を装う。
「お前が入ったら、サークルが全部“高級仕様”になっちまうんだよ……!」
実際、その後どのサークルに顔を出しても、璃子の周りには人だかりができ、活動予算が妙に膨らみそうな予感しかしなかった。
放課後、悠真は一人で課題を片付けようと図書館へ。
「ふぅ……ここなら静かに集中でき――」
「悠真さまっ!」
振り返ると、璃子が両手いっぱいに本を抱えて立っている。
「経済学の文献を読み漁れば、わたくしも庶民感覚を理解できるのではと!」
「それ分厚い専門書だから!庶民は読まないから!」
結局、璃子は悠真の隣に座り、一緒に本を広げる。
だが、勉強そっちのけで悠真の横顔ばかり見つめ、うっとりしているのはバレバレだった。
夕焼けのキャンパス。並んで歩く二人。
「今日は色々……目立ちすぎたな」
「でも、わたくしは楽しかったですわ。悠真さまと同じ大学に通えて、本当に幸せです」
璃子の微笑みは、豪華さも暴走もなく、ただ自然で――
悠真は一瞬だけ、胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。
「……まぁ、俺も悪くなかったよ」
「ふふっ、もっと素直におっしゃればいいのに」
彼女のからかうような笑顔に、悠真は耳まで赤くして、そっぽを向いた。
こうして大学でも、庶民くんは暴走お嬢様に振り回される日々を送るのだった。