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「いけそうか?体調に問題はないか?」
「問題ないと思います。ドキドキして夜は眠れませんでしたけど」
「無茶はするなよ。『風が吹く』の面々の指示はしっかり聞け」
「もちろんです」
翌日の天候は良好、私の体調も問題はない。二日続けて身体強化を試みるのは初めてだが、特に体に影響もなく問題なく動けそうだ。
すでにレイさんが先行して偵察に向かって帰還してきており、森の中に入ってオプファー・シュピネを捕獲しに行くメンバーは『風が吹く』の面々と私。
本来なら護衛に騎士やおじい様がついていくというのが普通なのだが、あまり大人数だと森の中では動きにくくなってしまうので最小限のメンバーで捕獲に向かう。
「ではいってきます」
「ああ。シスといったか。アウリクラをよろしく頼む」
「任せてください。傷一つつけずに捕獲してきますから」
「期待しているぞ」
身体強化を発動してみるが、体の変化は特に変わらない。全身を動かせるようになり、周囲に風が吹き荒れ、相変わらず身体は死ぬほど痛い。
だがそれ以外に特段変化はなく、少なくとも二日続けての身体強化でも問題なく動けるようだ。
それにしても、動けるようになるのはいいが本当にこの痛みだけはどうにかならないものか。私が一度死んでいて『この痛みは死ではない』と分かっているから耐えれているだけで、普通にこんなもの経験したら発狂して死んでしまうだろう。
死ななくても廃人に片足を突っ込むことになると思う。
森に入ると空気が変わるのがわかった。どこか温かく安心する匂いがする。気持ち痛みが和らぐ感覚もあり、何もなければここでしばらく寝ていたいくらいだ。
そんなことをしたら魔物のお腹の中で一生を終えることになるだろうし、冗談でもできることではないが。
あらかじめ教えてもらっていたハンドサインと小声での会話でコンタクトを取りながら森の奥へ向かう。
魔物というのは基本的に大きいものがほとんどなので、動くといろいろな音がする。草が揺れる音だったり、獲物を咀嚼する音だったり、木にぶつかった音だったり。そういう耳から入る情報が非常に重要なので、森の中では基本ハンドサインか小声でしか話さない。
もしもそれらの音を聞き逃せば、魔物の種類によっては次の瞬間に肉塊になっている可能性すらある。
「……」
「……」
護衛の騎士を連れてこなかったのはそのあたりにも理由がある。騎士は基本鎧を着て活動するから音がなりやすい。
その場合音で魔物は寄ってくるし、その魔物が寄ってくる音すら聞き逃す可能性がある。騎士は『氾濫』時は魔物とも戦うが、それだって戦闘は森の外で行うし。
「……」
「……」
その点冒険者は基本皮鎧の軽装なので音がほとんどならない。足音を立てずに歩く方法にも精通しているし、森での行動という点で冒険者は騎士よりも何倍も勝っている。
とはいえどちらの方がすごいとかは比べる様なものじゃない。どちらも役割が違うだけで必要なことをしているだけだ。
騎士は町や民を守るため戦い方を極めるし、冒険者は『氾濫』を防ぐため森での行動に特化している。それだけの話。
「……お嬢様。それどうにかならないか?」
「……すいません」
「いや、病気のことは聞いてるからしょうがないのもわかってるんだが、さすがに音が、なぁ……」
「うるさい」
はい、軽装とか足音を立てない歩き方とか、そういうの全部無駄にしてるのが私ですね。身体強化で魔力をジェットのように放出している関係か私のイメージの問題か、私の体から身体強化中常に嵐の中心地のような音が鳴り続けている。
規模が小さいおかげかそれほど遠くまで響き渡るような音ではないが、音をよく聞かねばならない森の中では致命的すぎたようだ。
「ばっ馬鹿お前もう少し柔らかく言えよ!」
「柔らかく伝えてもうるさいままならどうしようもない。これは全員の命に係わる。お嬢様、音を消せないなら帰ってもらうことになる」
「はい……」
レイさんが意地悪でこのようなことを言っているわけではないというのはよく理解できる。全員の命にかかわるから私だけ帰れというのも当然のことだ。遊びできているというわけではないのだから。
なので私はこの音を今すぐどうにかしなければならないのだが……困ったことに、これ以外に魔力を放出するイメージがわかない。なので音は消せない。
音か……風属性の魔法で体を覆えば音だけ消したりできないか?音というのは空気の振動だったはず。風属性でそれを消すことができれば、何とか。
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