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『渡河病』を治す方法は大きく分けて三つある。
一つは魔核を切除すること。私の場合は足を切断すればいい。そうすれば私の体から魔核はなくなり、魔力が発生するということもなくなるため『渡河病』は治ったといえるだろう。
ただこの方法を行うことはできない。この世界で貴族として生きるためには魔力は必要不可欠だ。魔物から領地を守るため、ほかの貴族から身を守るため、過去の因縁からこの国を恨んでいる他国から国を守るため、魔力を失うという選択をとることはできない。
二つ目はどうにかして魔力の異常発生を止めること。
私が求めている方法はこれだがおそらく一番難しい。なんせ魔力が異常発生する理由がわからない。何も変なことはしていないのに突然起こってしまったのだから原因などわかるはずもない。
過去の症例もないに等しいので『渡河病』に関する先行研究もない。そもそも治る病なのかもわからない。認知症のように発症しても直らない病の可能性もないわけではないのだ。
それでもあきらめることはないが。
三つ目は治すといっていいかわからないが、魔力を常に放出し続けるという方法だ。これはそのまま異常発生する魔力を常に外部に放出し続けることで命をつなぐことができる。
なお魔力を常に放出し続けて体は大丈夫なのか、そもそも常に放出し続けるといっても物理現象をもたらすレベルで出し続けたらまともな生活を送るのは到底不可能だろうという話もある。
だが現状最も可能性があるのは三つ目だ。完治とは言えないが少なくとも体がまともに動かせるだろうし魔法も使える。
現状目指すのはこれだろう。できれば大体1年以内にまともに体を動かせるようになりたい。
なぜ1年以内かというと、あと1年もすれば王都で王族のお披露目があるからだ。私と同年代で来年8歳になる王子なのだが、王子のお披露目は例外なく国中の貴族が会場に集められることとなる。
このお披露目でたった一人だけ体を動かせず車椅子で参加する侯爵令嬢がいる様子を想像すると酷いものになるのが予想点く。
ぱわーいずぱわーなこの国で病気持ちというのはそれだけで致命的だ。まともな結婚などできないだろうし、舐めた貴族に喧嘩を売られてブルース侯爵家が危機に瀕する可能性もある。
なので1年以内にまともに体が動くようにしたいのだが、ここで一つ問題がある。いや実際は一つどころではないが、現状解決できそうなのが一つだけなので一つだ。
それが何かというと、ズバリ栄養面の問題である。
何を言っているのかと言われるだろうが聴いてほしい。魔力を常に放出し続けるということはすなわち魔力を常に作り続けるという事。それも異常な量とスピードで。
とてもではないが体がもたない。栄養が足りず干からびて死んでしまうのが目に見えている。
飯をたくさん食えって?私は貴族令嬢なのだ。そんな普段から食事を続けていたら醜聞になる。
なので私は効率よく栄養補給がしたい。普段の食事では栄養が足りない。1日8食ぐらい食べないといけない可能性がある。
「『ということだから栄養価の高い食事を作りたいの。一本〇足バーよ』」
「『それを俺に言ってどうするんだよ……』」
ということで現在アンカーの仕事場である鍛冶場にきている。理由はもちろん満足バーのため。
私は作り方を知らないのだ。
「『そういわれても、俺だって詳しいことは何も知らないんだが』」
「『食べたことくらいはあるでしょ?』」
「『そりゃあるけどな』」
「『なら私よりましでしょ。私は食べたことないし』」
味も作り方も含まれている栄養価も知らず、頼れるのは同じく前世の知識を持つアンカーだけなのだ。
「『なんでそれで作ろうとしたんだよ』」
「『栄養と言えばで思いついたのが満足バーだったの』」
「『頼ってくれるのはうれしいけどな……何が必要なんだ?』」
「『わかんない』」
「『よし、今日からお前はアウリクラ改め戦力外だ』」
「『はい』」
反論しようかと思ったが、冷静に考えるまでもなくその通りなので受け止める。私もアンカーに頼り過ぎなのはわかるのだが、なんせこの世界に二人しかいない同郷の人間ということもあってかつい甘えてしまう。
「『で、何が必要だ?大豆とチョコレートは入ってた記憶があるな……』」
「『作ってくれるの?』」
「『当たり前だろ、お前がいなくなったら唯一の前世仲間がいなくなって寂しいしな。それに俺も仕事中に食えるからメリットはある』」
「『……ありがと』」
「『おう。ただ手伝える部分は手伝ってもらうぞ』」
「『それはもちろん』」
ダメだなぁ。頼りすぎ甘えすぎってわかってるのに、そう寂しいなんて言われたらもっと甘えたくなってしまう。
もっといろいろ話したいし、もっと近くに行きたいと思ってしまう。
「『ねぇ、私と結婚しない?』」
「『その冗談は俺がご当主に刺されるからやめろ。それにまだガキだろうが』」
「『中身は20超えてますよ~』」
「『体がガキなら心もガキだ。それよりチョコに心当たりはあるか?』」
チョコ、チョコか。貴族として生きてきてチョコを見たことはよくよく思い返せばない気がする。
そういえば昔はチョコが高級品だったんだっけ。もしかしたら極少数しか生産されていないのかも。それかまだ時代的にチョコレートが存在しないか。
「『ないけど、戻ったら調べてみる』」
「『頼む。栄養価を考えるならチョコがないと多分成り立たん。それに味もよくして、食べやすくして……』」
「『頑張って~』」
「『お前も頑張れよ』」
ふふふ。他の誰ともできない完全な素の前世ノリ。貴族として生きていることを後悔したことはないしこれからもしないだろうけど、どうしても時々前世のように話したくなってしまう。
楽しいなぁ、本当に。これがずっと続けばいいのに。
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