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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
闘病記

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「っ、大丈夫です。おねがいします」

「うむ。・・・本当に魔力だけで物理に影響するのか。・・・まぁよい、前までと同じで構わんか?」

「かまい、ません」


 私がこの世界で貴族として生きる以上戦闘を避けることはできない。それは『渡河病』の有無にかかわらず。

 だが私の体は無理やり身体強化を寿命を削る前提で発動しなければ動かない。言うまでもなく、そんなことを前までと同じように毎日やっていたらすぐに死んでしまう。


 なので戦闘訓練を行うのは、私が月に一度身体強化を延命目的で使う日のみ行うことになった。

 即ち、今日がその日ということだ。


 今日戦闘を行う目的は三つ。

 秘湯は前までと変わらず、貴族として生きていくための戦闘能力を身に着け、それを錆びさせないため。これまでと変わらない。


 二つ目は私の体の確認。違和感はないか?今までと同じように動けるのか?魔法はちゃんと使えるか?そういうのを今回である程度確かめる。


 三つめは一度全部出しきったとして、次に体が動かなくなるまでの時間を確認する。前回ヒムン伯爵領で身体強化したときは、痛みのあまりすぐに気絶してしまい次に目覚めたときはすでに体が動かなくなった状態だった。

 今後のことを考えるならそういった疑問はなくしておくべきだ。


 後ろでは問題が起きたときの控えとしてお医者様とお母様がいる。心配することは何もないので、私は普段通りにおじい様と訓練をして訓練後も意識を失わないことに集中するべきだ。

 体のことは結局私しかわからないのだから、私が意識を失ってしまったら時間が測れない。


「では、いきます!」

「うむ」


 木刀の納められた鞘に触れながら、前と同じような感覚でおじい様の懐へ飛び込む。手首、足首、間接と狙うべきところはたくさんあるが、今回狙うのは腹部だ。


「ッ!」


 一歩踏み込むだけでわかる。前までと比べて明らかに体の動きが悪い。

 どこが悪いか、何が悪いかと聞かれると答えに困るのだが、あえて言うなら錆びた歯車を無理やりかみ合わせて回しているという感覚だ。

 言うまでもなく実際にそのような音がしているわけではないし私の体に歯車は一つもないが、感覚としてはそれが一番近い。


 私が考えていたよりもずっと遅く懐にたどり着く。実際の差は1秒もないだろうが、身体強化で思考速度も上がっている今だとその差はあまりにも大きすぎる。

 ちらとおじい様の顔を見れば、その目が私の動きを追えているのがわかる。前までは培った感覚と風魔法でやっと把握できるくらいの速さをしていたのに。


「しぃッ!」

「遅いわ!」


 逸るまま横薙ぎの居合を繰り出すが、容易くおじい様に受け止められる。

 これも遅い。『野分・黒百合』なんて名前まで付けた私の十八番だというのに、今までの居合とは比べられないほど遅い。おじい様があくびをしていないかと心配になってしまう。


 体を動かすのが二か月ぶりだからという理由だけではない。最初に飛び込んだ時と同じ、歯車を無理やり動かしているかのような違和感。


「ぬぅ!」


 おじい様が膝を繰り出しているのが見える。見えているのに動けない。否、動かない。スローの世界で何度も動けと念じているのに、私の足はそれに応じてくれない。


 仕方がないので緊急回避として考えていたことを実践する。

 私の体からは魔力を大量に放出している。使いきれないほど膨大な魔力を意図的に。ここで大切なのは意図的という部分だ。私は魔力を自分の意志で制御し放出している。


 制御しているとはつまり、この放出は私の意志で変化させることができるのだ。例えば放出する魔力の量とか。

 放出することで体を動かしている以上減らすことができないが、その逆で増やすことはできる。ぶちまけるだけだから簡単だ。


 体から放出していた魔力を増大させる。無論死ぬほど体は痛い。身体強化するだけでもこの世の痛みを煮詰めたのではないかと思うくらい痛いのに。そのうえで放出量を意図的に増やしているのだから当然と言えば当然だ。


 だがこれには意味がある。身体強化時に巻き起こっている風が増幅するのだ。これで起こる風は大量の魔力があまりの量と勢いに風という現象として顕現したもの。

 そのうえで放出する魔力を増やせば、その風は私を中心に家屋を破壊する台風のごとき暴風となる。


「なあっ⁉」

「い、ま!」


 あまりの風圧におじい様の体が一瞬浮いたことを見逃さず木刀を振り抜く。再び鞘にしまっている時間はない。普通に振るだけだが、それでも元の身体強化と合わさって必殺と言っていい一撃になるはずだ。


「なんじゃそれは!」


 だがおじい様がここで予想外の方法をとった。振った木刀を踏み台にして跳躍。

 必殺の一撃を回避して距離を取り、場面は再び訓練開始時と同じ様相となる。


「今のはよかったのう。病気によって発生した特性を活かした戦い方じゃった」

「躱した、上で、言う事ですか」

「さすがにまだ負けてやるわけにはいかんからのう。まだ魔法もつかっとらんしな」

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