表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/44

5 エリシア視点

 部屋に入る。アウリクラはベッドの上で泣いていた。 

 アベナがアウリクラをなだめているのが見える。しかしアウリクラは泣き止まなかった。それどころかさらに声を上げて泣いていく。


 急いでアウリクラの寝ているベッドに近づいて彼女を抱きしめる。

 何を嘆いているのかなんてわからない。けれど、このまま放置していていいとも思えなかった。抱きしめて、胸に抱いて。私は味方だと伝えなければならないと思った。


「あぁ、どうしたのクラちゃん?どこかぶつけたのかしら?ほら、いいこいいこ。いたくないでしゅよ~。アベナ、何があったの?」

「それが、私たちにもわからないのです。掃除が終わって少ししたら急に泣き出してしまって。お小水でいないことは確認したのですが」


 抱きしめながらサッと体を確認する。少なくとも見て分かる場所に怪我の跡はない。

 ならばなぜ泣いているのか。少し抱いた程度ではアウリクラは泣き止まない。こんな時、私はどうすればいい?


 お漏らしでなはい。報告に来たメイドが確認したと言っていた。

 お乳も違う。お昼ごろに与えたとき、アウリクラは普段と同じように飲んでいた。これまでと変わらないように。だかお腹が空いたというわけではない、はず。

 そして怪我でもない。一応確認したが、そもそもアウリクラのベッドにはぶつけるような場所などどこにもない。まだ手足を動かすことしかできないのだ。その範囲には何もないし。


「あぎゃぁ!あぎゃあ!あぁ゛あぁぁぁぁ!」


 まだアウリクラは泣き止まない。どうする、どうすればいい?赤ん坊の泣き止ませ方なんて私は知らない。学園では習わなかった。父も母も教えてくれなかった。家族は私のことがあまり好きではなかったから。

 いつだって弱者だった私の味方だったのは、アベナとペインくらいだった。


「アウリクラ・・・」


 どうすればいいのかわからなくなってしまって、抱きしめるのに力が入る。赤ん坊の泣き止ませ方なんて知らないのだ。私にできることは抱きしめることだけだった。


 大丈夫、大丈夫。お母様はアウリクラの味方だから。私の両親のように差別なんてしない。あなたがどんな子でも、お母様はアウリクラを愛すから。何があったって、お母様はアウリクラのことが大好きよ。


「あう・・・」

「あ・・・」


 抱きしめてしばらく。アウリクラは落ち着いてくれたようだ。泣き止んでくれた。本当に良かった。

 もっとも、原因はわからないままだけども。


「うぅ~おぎゃ、おぎゃあ」

「あら?少し泣き止んだわ。ふふ、顔を押し付けて。可愛いわね~」

「あ!」


 突如、アウリクラにつけていたメイドの一人が声を上げた。確か、カリーナというメイドだったか。

 平民では珍しい風属性の魔力を持つ少女だ。魔力というのは強さの証明であり貴族という事の証明。遺伝するので平民で魔力持ちは珍しいのだ。

 そんな珍しい子なので名前だけは憶えていた。世話になっている仕立て屋からの紹介で雇い始めたことも覚えている理由の一つか。


「どうしたの、カリーナ」

「いえ、なんでもありません・・・」

「何でもない反応ではなかったわよ?話してみなさい。怒るわけじゃないから」

「それでは、その。アウリクラ様は寂しかったのではないでしょうか?」


「寂しい?」

「はい。旦那様も奥様も、会えるのは朝と夜だけですから。部屋には我々もおりますが、それでは両親と会えないことの寂しさは埋められないのではと」


 もしその予想が正しいのだとしたら、つまりアウリクラの慟哭は私のせいだ。自分の感情の抑えが聞かなくて、私はアウリクラと会うのを最小限にした。

 アウリクラを傷つけてしまいだから。私の大嫌いな両親と同じような存在になるような気がしたからだ。

 そして今の今まで、その判断を正しいと思っていた。


 しかし今、私の腕の中にいるアウリクラを見ると、その判断は間違っていたようにも思う。

 どちらが正しいのか私はわからない。沢山アウリクラに触れあって傷つけることがなかったと胸を張って言えるほど、私は自分を信じていない。


 ただこれだけは言える。私はアウリクラが大好きだ。

 なら、もっと触れ合おう。こんなにかわいいのだ。近くにいなければ損だ。


 それに、傷つけてしまいそうになったらアベナやペインに止めてもらえばいい。アベナは私が子供のころから一緒にいるメイドだし、ペインは夫だ。他の誰かと違って私に率直な物言いができる。

 人として学ぶ誰かを頼るということを、私は忘れていたようだ。


「・・・そうね。改めて聞けば寂しくなるのは当たり前だわ。これからはこまめに会いに来るようにしましょう。子供が成長するのは早いもの。クラちゃん。お母さん、こまめに会いに来るからね。もう寂しくないわよ~」

「・・・きゃっきゃっ」

「あ、アウリクラ様が喜んでいますよ。奥様」

「そうね。ふふ、とっても可愛いわ」


 私の可愛い子、アウリクラ。


 いつだって、私はあなたの味方よ。

モチベーションになりますので、よろしければブックマークと評価の方お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ