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ヒムン伯爵様が用意してくれた屋敷で目を覚ました私は、それはもうすさまじい勢いでお父様に怒られた。
なんでそんな無茶をしたのかと。死んでいたかもしれないんだぞと。
だがエキナセア様にも私の『渡河病』を治すことはできなかったと伝えたところ、一旦説教は中止となった。
お父様が怒る気持ちもわかるけど、これ以外に手はなかったと思う。どうせ何もしなければあと1週間で死ぬのなら、多少無茶でもできることをするべきだ。
「そうは言うがな、アウリクラがまた立って歩いているのを見た俺の驚きと喜びが気絶して絶望に代わるのを想像してくれ。比喩でも何でもなく目の前が真っ暗になったんだ、危うく俺まで気絶するところだったんだぞ」
「それはごめんなさい。でもこれ以外にできることはありませんでした。お医者様がいないから詳しいことはわかりませんが、体の感覚的にまた1か月は生きられると思いますよ」
「体はどうだ?」
「もう全く動きません」
気絶していたのは5時間ほどですでに夜も更けている。その5時間で私の身体は再び動かなくなってしまった。恐らく身体強化を解除して数分もすれば私の身体はまた足から順に動かなくなっていくのだろう。
ただまぁ、動くだけ上等だ。
「医者がいないのが悔やまれるな・・・」
「さすがにお医者様を連れてくるのは危ないですからね」
今回の旅のお医者様は同行していない。何故かというと、急行だったため魔物の森に近づく頻度が高く、戦うことのできないお医者様がいると余計に危ないからだ。
なんせただでさえお荷物だった私がいるのに、追加でもう一つお荷物を抱えてしまっては何かあった時がまずい。
「それでアウリクラ。これからどうするんだ?」
「どうするとは?」
「病気のことだ。聖女で治せないということは、それはつまり」
「はいストップですお父様」
「ストップ?」
「あ、止めるっていう意味です」
「いやそれはいいんだが、このまま何もできなければ・・・」
「それですお父様!」
「それ・・・?」
それなのだ。このまま何もしないままでは、私はまた身体が動かなくなって死んでしまうだろう。そのたびに魔力を放出してなんでもなく普通に生きられる可能性もなくはないが、私の感覚としては0だと思う。
滅茶苦茶痛いし苦しいし何かを削っているような感覚があるから、おそらく、というか絶対普通に生きるのは無理だ。
なので私は『渡河病』を治す必要がある。私自身の力で。
「お父様。帰ったら魔力に関する本や病気に関する本を集めてくれませんか?」
「それくらい構わん。いくらでも集めてやる」
「ありがとうございます」
「・・・戦うのか?『渡河病』と」
「当然です」
私の罹患した私の病気で私が戦わなくていいわけがないのだ。もっと早く気付くべきだった。いつまでも誰かに頼ってばかりでいいわけがない。
そう言いながら早速お父様に本を集めてくれと頼るのは複雑だが、こればっかりは人脈の無い私ではどうしようもない。
本は高級なのだ。日本みたいに印刷技術が発達しているわけじゃないから、本はすべて手書きなのである。
いつかそっち方面の技術も持ち込みたいね。私はそこまで詳しくないけど、アンカーなら何か知っているかもしれないし。
「・・・親としては複雑な気分だ。できることが本を集めるだけどはな」
「お父様は私をここまで連れてきてくれたじゃないですか。私が戦う決意をできたのは、お父様が私をここまで守ってくれたからですよ。後は私がするべきことです」
「・・・いっそ仕事を減らすか」
「お父様?」
「わかっている、冗談だ」
絶対本気だったと思うけど。
「とりあえず明日にはここを出るようヒムン伯爵には伝えてある。そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
「それと、その髪のことだが・・・」
「ああ・・・お母様にお母様に泣かれてしまいますね」
「そういう問題ではないだろう」
そう、魔力を過剰に放出したせいか私のひそかな自慢だった両親譲りの美しい金髪は、おばあちゃんのような見るも無残な白髪になってしまっていた。
金髪の時はまとめるのすら一苦労するくらいサラサラだったのだが、今の状態だとごわごわしていて手でほぐしてもらうと引っ掛かって痛い。
「髪のことは残念ですけど、今はそれ以上に病気のことを優先するべきですから」
「そうか・・・」
髪の色がなくなったって私が変わるわけじゃないし、今の私にはそれ以上に優先するべき『渡河病』という絶対的な敵がいる。これを何とかするのは『渡河病』を何とかしてからでいいだろう。
「疲れただろう、今日はもう休みなさい」
「ありがとうございます。おやすみなさい、お父様」
「ああ、おやすみアウリクラ」
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