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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
闘病記

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「それでは触らせていただきますね」

「よろしくお願いします」


 下着を除いて何も身に着けていない私の肌を、聖女様の指が触れていく。

 最初に触れたのは脚。私の魔核がある場所だ。そして『渡河病』によって一番最初に動かなくなってしまった箇所。


「最初に動かなくなったのは脚だとお聞きしていますが、魔核も足に?」

「はい。聖女様が触れている少し上に魔核があります」

 

 本来なら魔核のある場所はそう簡単に伝えてはいけない。なぜならそれはプロポーズと同義だから。だがこの質問は医療行為を行う上で必要なことだと私も理解しているので、変に隠すのはやめて正直に話す。


「ありがとうございます。触れられている感覚はありますか?」

「いえ、何も感じません」


 あれほど触れたいと何故か思ってしまった彼女の指が肌に触れようと、私の身体は何の反応も示さない。すでに動かなくなった部位に関して私がわかることと言えば、場所を把握している魔核が異常に魔力を発していることがわかるくらいだ。


 その後もペタペタと彼女の指が触れていく。足の指から太もも、腰におなかに手の指、二の腕、きわどい部分だと胸部まで。

 それでも私の身体は何も変わらない。

 変化と言えば、どんどん聖女様の顔と匂いが近づいてくるせいで私の思考がまた危険な方向に飛んで行ってしまう位だ。

 ああ、安心するにおいがする。やっぱりとってもいい香り。


「お顔に触れてもよろしいですか?」

「え、っと・・・」


 いま感覚がわかる顔に触れられるのは非常にまずい。危険な思考のまま考えていた方法で無理やり体を動かして、聖女様を襲いかねない。

 いやしかし、それが医療行為に必要だというなら私が断る理由はない。彼女はそれが必要だと考えているから行う行為だし、それを治療してもらう側の私が拒否するのはおかしい。

 顔以上に恥ずかしいところなどさっき触られているし。育っていないとはいえ。


「いえ、やはり何でもありません。お願いします」

「ありがとうございます。失礼します」


 彼女のゆびがそっと動き触れる。

 最初に触れたのは首だ。私の感覚がギリギリ残っている場所。


「っ・・・」

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。ちょっと驚いただけですから」

「それならよいのですが。何か異変を感じたら教えてください」

「わかりました」


 彼女の触れている場所がギリギリ視界に入らない箇所だからか、いつも以上に感覚が敏感だ。おかげで彼女の指の柔らかさがよくわかってしまう。

 柔らかい。極上のお肉のような柔らかさ。他の誰からも感じないほどに理解不能の何かが私の脳を刺激する。


 おまけに顔も匂いも近いから、思考がどんどん過激になっていく。お肉、そうお肉だ。彼女の指はどれだけ金銭を積んでも食べることのできない極上の食材。

 食べたい。今すぐ首を動かして彼女の指をかみちぎりたい。調味料なんていらない。絶対美味しいに決まってる。

 

 そうだ、何も気にすることなんてない。目の前に極上のお肉がこれ見よがしにあって食べないのはそれはもう一種の冒涜だろう。

 食べなければ。私が私であるために。


「アウリクラ様?」

「・・・べる」

「アウリクラ様?」

「・・・あ、ごめんなさい、なんでしょうか」

「本当に大丈夫ですか?アウリクラ様の状態については把握できましたのでお伝えしようと思うのですが」

「大丈夫です、お願いします」


 危なかった。本当に意識が飛びかけていた。聖女様が声をかけてくれなかったら、きっとすべてを無視して彼女に噛みついていた。


 しかし、状態がわかったというのに彼女の表情はひどく憂鬱だ。そんな表情をする必要はないのに。だって、状態がわかったらあとは魔法で治すだけでしょう?

 先ほどちぎれかけた腕すら1分程度で元に戻す文字通りの奇跡の力だ。そんな魔法を持つ聖女様が憂鬱な表情をする必要はない。

 だって、今の聖女様の表情はまるで・・・


「先に結論からお伝えします・・・私では、アウリクラ様の『渡河病』を治すことはできません。ごめんなさい・・・」


 やめて、やめてよ。前世から私を蝕んできた病気だよ?やっと生きる希望を持てたんだよ。あなたが患者を治したときの笑みが、私に希望をくれたの。

 なのになんで、希望を与えてくれた本人が、そんなことを言うの。


「な、んで」

「正確には、治すことはできます。ただ・・・『渡河病』を治した場合、私はその後10年ほど、脳の処理が追い付かず仮死状態に陥ると思われます」

「どうやって、そんなことがわかるんですか・・・!」

「申し訳ありません。聖女の力、としか言いようがありません・・・ごめんなさい・・・」


 やっと抱いた希望が崩れていくのがわかる。いや、でもそれなら10年聖女様が仮死してくれればいいだけじゃないか。そうすれば私はまた普通に生きていくことができる。

 聖女の役目は人を癒すことだろう?なら私を癒してくれたっていいじゃないか・・・


「あぁ・・・」


 違う、違うでしょうアウリクラ。思い出せ、彼女がこれほど早く表に出てきた理由を。

 お父様は言っていたじゃないか。『聖女様は一人でも多く救うためこれだけ早く表に出ることにしたそうだ』と。


 つまり、彼女は天秤にかけたのだ。今私を癒すことで救える命と、これから先10年の間で救えることができる命。

 その天秤をかけて彼女が選んだのは、10年で救える命だった。


 彼女がとてもやさしい人だというのは良くわかる。だって優しくないなら、言い換えれば『死んでほしい』と伝える私に、泣きそうな顔で伝えないはずだ。

 それに患者を治したときの向日葵のような笑み。彼女は生まれが何であろうとやさしさを忘れなかった強い人だった。


 そんな人が私の前で泣きそうな顔で『死んでほしい』と告げる。悪いのは誰だ?決まっている。私だ。


 思い返せば私は、『渡河病』と分かってから何もしていない。ここまで来たのはお父様が連絡してくれたから。病気が判明したのはお医者様が寝る間も惜しんで調べてくれたから。無事にたどり着いたのは騎士の方が守ってくれたから。

 『渡河病』に患ってから、私は何もしていない。


 そして今も、彼女の力に頼り私は何もしていない。聖女様は私より1つ下の孤児の少女ではなかったか?

 その少女に私は何をした?あろうことか身勝手な期待を抱いて、それがだめなら勝手に絶望して。今の彼女の顔に向日葵のような笑みはあるか?

 この表情が笑みに見えるのか?私は。どこからどう見たって、どうすればいいかわからなくて泣きそうなただの少女じゃないか。


 このままでいいのか私は?

 いいわけないだろう。いつまで他力本願でいるつもりだ。


 少しは自分で何とかしろよ。それができないなら大人しく死んでしまえ。


 根性見せろ。できることならあるだろう。

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