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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
闘病記

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「美味しい・・・」

「ああ、俺も初めて食べたが、これは素晴らしいな」

「お褒めに預かり光栄です、閣下、アウリクラ様」


 その日の夕食に出てきたのは、予想していた通り川魚をメインとした食事だった。前世の知識を漁るに、おそらくアユと似た感じの魚だろう。

 私は前世でアユを食べたことはないが、見た目がほとんど同じだ。背がオリーブ色で細長い銀色の体をしている。


 そしてこれが素晴らしくおいしい。出てきたのはアユの塩焼きと刺身という比較的オーソドックスなものだが、どちらも本当においしいのだ。おいしすぎておいしいとしか表現できないくらい。


 アユの塩焼きは外の皮がパリッと、中の身はふわふわとしていて少し噛んでしまえばすぐになくなってしまう。それに清涼感のある香りと炭火で焼いたであろう炭特有の香りが合わさって、アユ自体のうまみを引き出している。

 身からほんのり感じる甘みとお腹の付近から感じるほのかな苦みが絶妙に合わさっていて非常に素晴らしい。


 また刺身も素晴らしい。この世界、しょうゆがないので塩でいただいているのだが、塩の塩分が身に含まれている甘みを引き出していて上品な味わいを感じる。

 ほのかに香る瓜系の香りと繊細な脂も合わさってあればあるだけ食べてしまいそうだ。私の身体がまともに動けば、貴族とは思えないがっつき方でアユをいただいていたことだろう。

 今はカリーナに口まで運んでもらっているため、そのようなことは起きないが。


「本当においしいです、クライム様。特にこちらのアユの刺身は絶品ですね」

「ありがとうございます。調理した料理人もアウリクラ様からお褒めの言葉をいただいたとなればそれは喜ぶことでしょう。アウリクラ様は魚が好きなのですか?」

「はい。ですが領地では海が遠いのでなかなか食べることができないのです」

「それはそれは・・・アウリクラ様が今後もこちらにいらっしゃるとなれば、たくさん食べることができますよ」

「ふふ、そちらはまたの機会ということで」

「そうですか。では今回は残念ということで」


 危ない危ない。今話の流れのまま今後も食べたいと言っていたら、そのままなし崩し的に婚約の話まで行きそうだった。

 貴族は裏を読んで話の流れで言質を取ってくるから自分の発言にもいちいち注意しないといけないのが大変だ。思い返せば、『領地は海が遠いから魚が食べられない』という発言は意味のない雑談よりも『私は自分の住む場所に思うことがあるので、魚の美味しいヒムン伯爵領で過ごしたい』と捉えられてしまう。


 だからこそクライム様は私を領地に誘ったのだろう。先の発言からそういった意味の裏を読み取って。私の発言にそういった裏はなかったとしても。

 私ももっと気を付けなければならない。下手な発言をしてしまってブルーム侯爵家がピンチになってしまったら大変だ。


「明日はいつ頃協会に?」

「お昼ごろにしようかと思っています。早すぎても遅すぎても迷惑かと思いまして」

「そうでしたか。聖女殿はまだ子供ですし、少なくとも遅い時間は避けるべきでしょうね。ではその時間にはこちらでも護衛を用意しておきます。そちらの護衛は旅の疲れもあるでしょう」

「ありがとうございます」

「いえいえ。・・・私はあなたに助けられましたからね。これくらいどうってことありませんよ」

「助けた、ですか?」


 貴族として生きてきて、人の顔と名前を覚えることの重要性は痛いほど教わった。なので一度あった人は絶対に顔を忘れないのだが、私がクライム様と会ったのは今日が初めてのはずだ。助けたと言われても記憶が全くない。


「あ、実際にアウリクラ様とお会いしたわけではないんです。私が助けられたと表現したのは、アウリクラ様が伝えた技術に命を助けられたからです」

「技術ですか?」

「ええ。網巻き上げ機と言いましたか、漁船に使うものです」

「・・・ああ!」


 それなら覚えている。たしかウインチといったはずだ。重い荷物をワイヤーロープ等で上げ下ろしするための機械。アンカーだけでは無理だったが、知識だけは持っていたのでできない部分を私の魔法でどうにかこうにかして完成させた。

 確か6歳にならないくらいのことだったはずだ。


「1年ほど前に大雨で川が氾濫しましてね。私は領主の息子としてそれを見に行ったのですが、うっかり落ちてしまいまして。慌ててしまって魔法も唱えられず、人が来られるような状況じゃなかったので死を覚悟したのですが、近くの船についていた網巻き上げ機を使って漁師の一人が助けてくれたんです。なのでその漁師と網巻き上げ機の技術を伝えてくれたアウリクラ様は、私の命の恩人なんですよ」

「そうでしたか・・・」


 命の恩人と面と向かって言われるのはなんだか照れ臭いけども、私が伝えた技術で感謝する人や命が助かる人がいると実感すると、なんだか勇気が湧いてくるから不思議だ。

 もっとも、それは私が1から考えたものではなく偉大な先人のパクリでしかないのだが。いつか私も、自分の力で他者を助けられるようなものを作れるだろうか。

 できるなら、私はそれがしたいと思う。


「アウリクラ様。伝えるのが遅れましたが、あなたが無事に救われること、心からお祈りしております。・・・明日は、もっと豪勢な食事にしましょう」

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