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「お嬢様の罹患した病が判明しました・・・おそらく、『渡河病』だと思われます」
「『渡河病』・・・」
「はい。非常に珍しい病気です」
ベッドの上でお医者様の話を聞く。
すでに私の足が動かなくなってから4日経っている。一度意識を失い倒れた後は1日経ってやっと目を覚ましたので、私にとっては実質3日だ。
この3日、前世でも見たことないような大掛かりな機械でたくさん検査をされた。採決ももちろんされたし、足がどんな感覚か、痛みはあるかかゆみはあるか、がんばれば動かせそうかなどの質問もされた。
そうして診断されたのが『渡河病』だ。私の横で一緒に話を聞いている両親の様子を見るに、二人はすでに話を聞かされているらしい。
ひどく沈痛な面持ちをしていて、前世の経験も相まって自分の行く先がどこなのか、なんとなく予想できてしまう。
「『渡河病』がどのような病か説明させていただきますと、簡単に言えば魔核から魔力が異常発生して肉体に影響を及ぼす病です。お嬢様には失礼ですが確認させていただきたい。お嬢様の魔核は両足に合計二つあるのではありませんか?」
「お父様・・・」
「・・・大丈夫だ」
魔核の位置は本来そう簡単に言っていいものではない。なぜなら魔核は貴族としての生命に関係するから。とはいえ相手はお医者様で且つ診断の関係だから言ってもかまわないかとお父様に聞けば、返ってきたのは肯定の言葉。
「その通りです。両足に二つ魔核があります」
「そうですか・・・ではやはり、『渡河病』に間違いないでしょう」
お医者様もまた沈痛な表情でそれを告げる。この場の空気が重く沈み、呼吸をするのにも集中しないとできないような雰囲気だった。
そんな雰囲気の中で、私は一つどうしても聞きたいことがあった。両親の前で聞くのは憚られたが、病のことを聞かされていることから考えるにおそらくこのことも聞かされているはずだ。
「お医者様」
「はい、なんでしょう?」
「私は後、どれくらい生きていられますか」
その質問をすると、お医者様はひどく困った顔をし、両親は驚いた顔をする。そういえばこの病気が前世の死因だと家族に話したことはなかった。話そうとしたことはあったけど、みんな「そんなつらいことは話さなくてもいい」と言ってくれたので、それに甘えていた。
もっとも、伝えていたところでこうなるのはどうしようもなかったと思うが。
「アウリクラ、まだ死ぬと決まったわけでは」
「ごまかさなくても大丈夫です、お父様。自分の体のことですから、なんとなくわかります。それで、私は後どれだけ生きていられるのですかお医者様」
「・・・ご当主」
「・・・ごまかす必要はない。話してもいい・・・」
私がもう一度お医者様に話しかければ、お医者様はお父様に確認を取る。やはりお父様は私の余命を知っている。
「・・・わかりました。おそらくお嬢様は・・・後、持って1か月というところでしょう」
「1か月・・・」
前世の私と同じだ。前世でこの病気に罹患したときも、私の身体は1か月しか持たなかった。
「・・・まだよ。まだわからないわ。病の原因は魔力の異常発生でしょう?なら発生した魔力を吸い取ることはできないの?」
「本来本人の意思でしか体に影響を及ぼすことのできない魔力が本人の意思に関係なく体に影響を及ぼしている時点で異常なのです。そのうえでさらに外部から魔力を動かせば何が起こるかわかりません」
「それなら私自身が魔力を使って減らすのはどうですか?」
「そちらもやめておいたほうがよろしいかと。減った魔力を補充しようと魔核がさらに魔力を生成する危険性があります。そうなれば1か月持つかどうかも・・・」
「そんな・・・」
「一応、一つだけ可能性があります」
「それは?」
「魔核から魔力が発生することが問題なら、魔核をなくせば良いのです。すなわち、両足を切断します」
「・・・それはできません」
それは私の貴族としての死を意味する。死から逃れられるとわかっていてもできない選択だ。育ててくれた家族に申し訳ない。
要するに、できることはないということだ。せっかく生まれ変わったのにまた死ぬのか。初めに前世の家族に誓った結婚もすることなく、まだ8歳の身で。まだやりたいことがたくさんあるのに。学園にもいくことすらできないのか。
「っ・・・」
視界がにじむ。死が恐ろしい。何もできずに死んでいくことが悔しい。
家族にも申し訳ない。私がいなくなればブルーム侯爵家の存続が危うくなってしまう。私以外に告げる人間がいないのだから。そうなれば家族は無理をしなければならない。
ローズちゃんとアイン様にも申し訳ない。特にアイン様とは魔法を魔法について話し合う約束をしていた。このままでは何も話し合えない。
それにアンカーも。この世界で唯一の仲間。日本のことを話せるのは私にとってアンカーだけで、アンカーにとっては私だけ。言葉にできないくらい深い仲間意識が彼とはあった。友情や恋愛感情とは明確に違うものだ。
もし私がいなくなれば、アンカーはやっと見つけた仲間を失ってしまう。
「私の方でも何か情報がないかさらに調べたいと思います。何分珍しい病でして情報は少ないのですが、無いわけではありませんから。ただこう言ったことは言いたくないのですが、あまり期待はなさらないでください」
「・・・はい」
「それでは失礼します。お嬢様に奇跡があらんことを」
最後にそう言いお医者様は部屋を出て行った。これから『渡河病』について探ってくれるのだろう。良い人だ。患者の私に包み隠さず伝えてくれた。何も知らないまま死ぬよりずっとましだ。
「・・・そうか、奇跡か」
「お父様?」
横でお父様が何やらつぶやく。奇跡という言葉が引っ掛かったらしい。
「なるほど、神はまだアウリクラを見捨てていなかったようだ」
「何かあったのですか?」
「気にするな。それとアウリクラ、明日から3週間ほど出かけるぞ。メイドに命じて準備をしておいてくれ」
「出かける、ですか?いったいどこに・・・」
「奇跡の下へ行く」
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