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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
闘病記

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「降参だと・・・ふざけたことを・・・」

「ですが、あなたにできることはもうありませんよ?」


 四肢は封じた。脱出も難しい。魔法を使おうとしても、詠唱している間に頭を押さえつけられる。今の時点で彼にできることは降参宣言以外にないはずだ。


「降参などするものか・・・負けたら終わりなのだ。俺は当主になるのだ・・・があっ!」

「なっ!?」


 突如彼の体から爆発が発生して吹き飛ばされる。まだ7歳の体ではその衝撃に耐えられなかった。しかし何が爆発した?


「っ・・・」

「ふぅ・・・ふぅ・・・」


 ぼやける視界を回復するため目をこする。爆発によって拘束を破壊し立ち上がった彼の風貌は大きく変わっていたが、その目の敵意と闘争心は少しも衰えていない。


「何をしたんですか?」

「指輪だよ・・・最近平民が調子に乗って作っていた指輪さ。それを爆発させた」


 指輪と聞き彼の手を見てみれば、確かにそこにあった指輪がなくなっている。気が付かなかったが、彼がつけていた指輪は魔物の素材を用いて作られた魔道具だったようだ。

 貴族は平民を馬鹿にしていて、同時に生活を便利にする魔道具も貶しているから、まさか持っているとは思わなかった。


 魔道具は魔力を持った平民が作っている。魔力灯も魔道具だ。それらは生活を豊かにするが、実力至上主義の貴族たちは魔力を魔法のためにあるべきとしていて魔道具をあまりよく思っていない。

 だというのに肝心な時に魔道具に頼った。下に見ている平民が作り、これまで疎んでいた魔道具を。その意味をもう少し深く考えてくれないものか。


「ですが、あなたの体はすでにボロボロですよ。その体でまだ私に勝てると?」

「勝つしかないんだよ・・・学園にもまだ入っていない子供相手に降参などしてしまえば、俺の次期当主としての道は終わりだ・・・」

「・・・下手をすれば死にますよ」

「負けた恥知らずとして生きるよりましだ」


 体はまっすぐ立つこともできずふらふら、来ていた綺麗な衣装もボロボロ。それでも彼は降参するくらいなら死を選ぶと、私に敵意を向けてくる。


「・・・」


 私はわかっていなかった。いくら実力至上主義の人間でも、死と降参の二択なら降参を選ぶと思っていた。

 だって死は恐ろしいから。死を経験した私は、だれよりも深くそのことを理解している。


 だが、私と戦っているグリーン伯爵令息は死を前にしても降参を選ばなかった。実力至上主義の貴族に置いて、敗北し汚名をかぶりながら生きていくのは死を選ぶことより耐え難いものなのだ。

 そして敗北というのは、死よりも恐ろしい罰になる。


 グリーン伯爵令息に覚悟を見せられた時点で、私もまた殺すか殺されるか以外の選択肢をなくした。きっと私の家族は、降参しても許してくれる。「生きていてよかった」と。


 だが、私の貴族としての道は閉ざされる。一度降参してしまえば、私は「死ぬのが怖くて降参した女」となる。それではブルーム侯爵家の未来すら危うい。ブルーム侯爵家に子供は私一人だ。すなわち私が次期当主だということ。


 家族が私以外の子を作らないのは、おそらく学園時代のお母様の件で何かあるのだろうということは察している。そんな家族に無理をしてほしくはない。


 そして私は死にたくない。死は恐ろしいから。無邪気に元気に笑いながら、心臓を掴み凍えるように命を奪ってくる。

 

 それに、私が負けたらローズちゃんが危ない。結婚後に愛を育むケースはあるだろうが、二人がそうなるとは思えない。ピーピン伯爵領はアンコート伯爵領から遠いし、馬車の苦手なローズちゃんは体調を崩すようになってしまうだろう。婚約したら、領地同士で仲良くするため移動する回数が増える。


 だから、私はグリーン伯爵令息を殺す。感情のまま彼に『決闘』を誘わせた私が彼を殺すのはひどく利己的であろうとわかっていても、私は私の死を許容できない。


「剣をしまって、何のつもりだ?」

「お気になさらず。そちらから来てくださって構いませんのよ?」


 わざわざ痛めつける必要はない。殺すのは一瞬、首を刈り取り終わらせる。それが私が彼にできる、最大限の慈悲だ。

 だからこその納刀だ。一瞬、彼が「死んだ」と理解する隙間すらなく殺すには、一番早いあの技が一番適している。


「言ってくれる・・・!後悔しても知ら・・・」


 今。魔法を発動するためにイメージする瞬間は、どれだけ相手のことを見ていても一瞬意識外に行く。それに瞬きする間に100m以上を移動できる私の速度が合わされば、グリーン伯爵令息にとっては私が瞬間移動してきたに等しいだろう。


「『野分・黒百合』」

「・・・んぞ・・・?」


 哀れみはいらない。彼を死地に追い込んだ私に憐れむ権利などない。だから私は感謝を送る。実力至上主義がどういうことか自信をもって教えてくれたこと、私を子供と侮らず本気で戦ってくれたこと、「人を殺す」という経験をくれたこと。


「あ・・・?」


 納刀すると同時に、彼の首が落ちる。断面から噴き出す血が私に飛び散るが、それを汚いと思うことはない。周囲で観戦していたお客さんの一部から悲鳴が上がるのが聞こえるが、それは申し訳ないと思う。


「勝者、アウリクラ・アリア・ブルームです。これにて決闘は完遂されました」

「アウリクラ様!」


 ローズちゃんが走って飛び込んでくる。血に濡れていることを構わず抱き着いて、涙目で私を心配してくれる。


「アウリクラ様!お怪我はありませんか!?」

「大丈夫です。見ての通り、一撃ももらっていませんから」

「ならよいのですが・・・この後はどうされるのですか?」

「とりあえず、一度着替えに戻りたいと思います」


 さすがにこの恰好で会場に戻ることはできない。それに屋敷の人間に命じて死体の処理もしなければならない。

 

 家族も、私のことを心配しているだろうし。

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