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結局ローズちゃんと話している間には鍛冶師は来なかったのでローズちゃんは戻ってしまった。
入れ替わりで来るのは人権主義派閥の貴族の方々。ほとんどがお父様やおじい様にあいさつに行くので私の下へ来る人は少ないが、時々来てくれる人はいる。
今私の下へと来てくれた男性のように。
「お初にお目にかかりますブルーム侯爵令嬢。今日という日にこの場に呼んでいただけましたことをうれしく思います。7歳を迎えましたことを心からお祝い申し上げます」
「ありがとうございます。ムート伯爵家の方ですか?」
初めに私が知らない人で声をかけてくれたのは、お父様と同じ金髪碧眼の男性だ。後ろには私と同年代の少女、確かアイン様が控えている。
顔は肖像画で見たことがあるので知っていた。ムート伯爵家の当主様。貴族としていていくためには顔を知っていることが大切なので、顔や人物像はお父様に叩き込まれている。
「ああ、申し訳ありません。名乗っておりませんでしたな。ムート伯爵家当主を務めておりますコイン・ネルルン・ムートと申します。こちらは娘のアインです。アイン、挨拶をなさい」
「はい。お初にお目にかかりますアウリクラ様。ムート伯爵家長女、アイン・ミーティ・ムートと申します。先ほどの魔法は素晴らしいものでした」
「アイン様、ご挨拶ありがとうございます。お気に召していただいたようで何よりです」
アイン様は黒髪碧眼の少女だ。私と同じくらいの身長でこの子もまた例にもれず顔面偏差値が高い。
そんなアイン様は魔法が好きらしい。私の魔法について感想を伝えるときの目の輝きが目に痛いほどだ。
「アイン様は魔法がお好きなのですか?」
「はい。魔法の訓練が始まってからは魔法を中心に勉強しておりますし、戦闘訓練も魔法を軸にして行っております」
「娘は魔法に心を奪われたようでしてな。最近では夜も寝ずに魔法を練習しておりまして、私に構ってくれることも少なくなってしまいました」
「お父さん!」
ムート伯爵はアイン様が構ってくれなくなったことが寂しいらしい。話すだけでしょんぼりしていて、背後には犬の尻尾がしなしなしているのが目に見える。
ただアイン様もムート伯爵が嫌いになったとかではなく、単純に魔法が好きなだけなんだろう。事実、いま恥ずかしがる様子はお互いに愛にあふれている。
「あ!申し訳ありませんアウリクラ様!つい家と同じように・・・」
「構いませんよ。魔法に熱中してしまう気持ちは私も痛いほどわかりますから」
「え?」
私も魔法が使えるようになってからは暇な時間は魔法に使うようになったし、何なら睡眠時間を削って何ができるかの検証をしていたこともある。
なんでかというと決まっている。楽しいからだ。これが命を軽く奪えるものであり戦いに使うものであるとわかっていても、魔法を使うというのは非常に楽しいことだった。
「私も暇な時間は魔法について考えていますし、夜に睡眠時間を削り過ぎてお父様に怒られたこともありますよ」
「アウリクラ様でもそのようなことがあるのですか?」
「私を何だと思ってらっしゃるので?」
そんな私が完璧超人出ないことが信じられないみたいな目で見られても困る。私だって熱中しすぎていつの間にか夜になっていることはあるし、何ならオールしたことだってある。
「あ、申し訳ありません。アウリクラ様の話を聞くと、そのようなことをするのが信じられなくて」
「噂ですか?」
「はい。ブルーム侯爵家の長女は文武両道の神童でできないことはないという噂です」
「なんですかそれは・・・」
誰だそんなうわさを流した犯人は。私がかかわったことがある人はそんな話をしないだろうし、私の話が又聞きで尾びれ背びれついて流れているな。
「そのような事実はありませんよ。私は魔法の訓練のため平気で夜更かししますし、たまに寝不足で寝坊することだってありますからね」
「そうだったんですか・・・」
「ええ。・・・もしよろしければ、私とお友達になってくれない?魔法について相談できる人がいたら心強いの」
「私でよろしければ、ぜひお願いします」
そんなわけで魔法について語れる友達が一人増えた。ローズちゃんは魔法があまり得意でない様子なので、魔法について語れる友達ができたのは非常にうれしい。魔法で行き詰った時に相談しあえる。
そうだ、先ほどお披露目に使ったドラゴンを出す魔法を攻撃に転用するならどうするか、二人で相談しながら作ってみてもいいかもしれない。どうせ魔物に放つのだから友達に話したところで問題ないはずだ。私がアイン様と大喧嘩して決闘する羽目にならない限りは。
まぁ、そんな機会はなさそうだ。なぜならアイン様が私を見る目には尊敬の念がびっしり詰まっている。先ほど完ぺきではないと話してから急に尊敬が強くなってきたのだが、いったい何に尊敬しているのかアイン様は。
「よろしくお願いしますね。アイン様」
「こちらこそよろしくお願いします。アウリクラ様」
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