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「今日こそは勝ちます!」
「まだまだ負けんわい!」
私ももう7歳になった。おじい様との戦闘訓練も4年になる。1週間後には私の誕生日とお披露目パーティーも待っているし、ここいらで一本おじい様から取っておきたい。秘策もあるし。うまくいくかは不明だけど。
「ふぅ・・・」
いつものように集中し、木刀を鞘に納める。毎回本気だが今日は特に気持ちが入っている。お披露目パーティーは貴族令嬢としての一つの節目。気持ちよく参加したい。
「いきます!」
身体強化を半分の力でかけおじいさまの懐へ。反応し捕まえようとしてきたところを無理やり横にステップ。身体強化を全力でかけなおしておじい様の左足を狙う。
足を狙うのはどうせ首を狙っても当たらないからだ。4年おじい様と訓練して分かったが、おじい様は急所に関する感が異常に鋭い。初手から首を狙ってもまず当たらない。
「『野分・黒百合』!」
繰り出すのは私の十八番、神速の居合たる『野分・黒百合』。この名づけには海より深い理由がある。
私も最初は普通に掛け声をあげながら戦っていた。だがふと夢に日本の記憶が出てきてふと気づいたのだ。
アニメのキャラはみんな技名を言いながら攻撃しているな?って言う。
で、私も試しに掛け声を適当につけた名前に変えて刀を振ってみた。そうしたらなんと少し居合が速くなったのだ。
理由はわかっている。私のモチベーションである。
冷静に考えて、刀を振りながら掛け声を上げるというのは可愛くないのだ。私も女の子だから可愛いのが好きなので。戦闘行為自体が可愛くないというのは置いておいて。
だが戦闘中に可愛くするのは無理だ。掛け声も可愛くないし。ならせめて技名で格好よくした方が私のモチベーション維持になるのではないかと。可愛くなれないならせめて格好よく。
結果としてはいま技名を言いながら攻撃しているのが答えである。
繰り出した『野分・黒百合』はおじい様に軽く止められる。これはいい。私も当たればいいな程度でこの攻撃は本命じゃない。
「『ꯄ꯭ꯔ꯭ꯏꯊꯤꯕꯤ, ꯅꯍꯥꯛꯀꯤ ꯈꯣꯡ ꯑꯗꯨ ꯆꯦꯠꯁꯤꯂꯍꯜꯂꯨ꯫』」
おじい様が受け止めた衝撃を利用して回転気味に右足でけりを繰り出してくるのを土魔法を使って固めた足場を利用して強引に左手で出した鞘で受け止める。
衝撃で左腕が感電したみたいに痺れているけど問題ない。
おじい様が振り下ろしてきた木剣を木刀で受け止める。刀の使い方としてはあまり好ましくないけど、一度くらいなら大丈夫。
その受け止めた体制のまま思考で足を固めていた土魔法を解除する。そのまま脱力し、私がしたで倒れ込むような体制になったら足でおしりを蹴飛ばして後ろに投げ飛ばす。
うまくいった。わざと力を抜いておじい様のバランスを崩せた。
前を向いてまだ体制を立て直せていないおじい様に向かって全力で飛び込む。もう一度『野分・黒百合』で決められるはず。
「っ・・・」
が、おじい様の反応が想定より早い。迎撃に剣を横に置かれている。横凪に居合で切り込んでは防がれる。
懐はだめだ。『野分・黒百合』の範囲外で一瞬止まり、次に出すのは斬撃ではなく居合による突撃。
「『霜風・麝香豌豆』!」
横ではなく縦で点への神速抜刀。剣は横に置かれていて両手は衝撃に備えるため剣に添えられている。間違いなく当たる。
「甘いのう!」
「えぇ!?」
信じられない。剣を地面に突き立てて支柱にして体を浮かせて避けた。どんなバランス感覚をしていたらそんな曲芸じみた動きができるのか。
外さないと思いながら繰り出した突きは勢いのまま私の体ごと持っていく。体勢を崩した。上は見えないけどおじい様が木剣を振っていることだけはわかる。こういう時はどうする?無理やり上に刀を振り抜くか?
無理だ。この体制ではそのまま地面にたたきつけられてしまう。いくら身体強化が強くても、対格差はどうしようもない。
かくなるうえは。
「ええい!」
「うぬお!」
必殺見様見真似!突き出した刀の先を地面にさして私の身体を背中から宙に打ち上げる!ついでにかかとの感触的におじい様の顎に当たった気がする。
地面に降り立ち追い打ちをかける。が、事件発生。刀が深く刺さっていて抜けない。
強めに引っ張ってみるがびくともしない。速く追撃しないとおじい様が復活する。かくなるうえは。
「最後に頼れるのは拳ですよおじい様!」
「まず武器が頼れぬ状況に陥るなと言っておろうに!」
結局最後に頼れるのは己が身体である。くらえ!屋敷を抜け出したときに騎士の方が酒に酔って喧嘩していたのを見て学んだ喧嘩殺法!
「軽いわ!」
「む!」
すぐに両腕を抑えられてしまった。これではせっかく学んだ喧嘩殺法の意味がない。なんてことはない。戦いとは非常なものなのだ。それがたとえ男性の尊厳を奪うようなことでも。いや多分大丈夫だろうけど。
「はあっ!」
「おごぉ!?」
はい無理な体制でのサマーソルトキック!腕を抑えられてる状態だから変なねじれ方がしてかなり痛いけどあとで治せるからセーフ!
ちなみに狙ったのは男性の象徴こと金的さん。両腕が使えず私の両腕を抑えるために両腕を使っているので防ぐには足を閉じるしかなかったが、先ほどかかとが顎に入っていたのでそこまで注意が向かなかったのだろう。
「私の勝ちです。おじい様」
「いや・・・そこは・・・いかん・・・」
「戦いに卑怯など存在しないと私に教えてくれたのはおじい様ですよ。きょう勝つためにこれまで取っておいたんですから」
この金的作戦が秘策である。正直秘策と呼べるほどまともなものではないし、今回決まったのは運よく顎にかかとが入ったからというのが大きい。
だが勝ちは勝ちである。私は4年かけてついにおじい様から一本取ることができたのだ。お披露目パーティーは気持ちよく楽しめそう。
「まぁよいか・・・一度勝ったから、次からは制限なしじゃぞ」
「もちろんです」
制限というのは魔法のことだ。おじい様に魔法を使われたらふつうに蹂躙にしかならないので、おじい様は自らに魔法使用禁止の枷をかけた。
一度勝ったので次からは魔法も使ってくるようになる。次に私が勝てるのは何年後になるだろうか。おじい様に天の迎えが来る前には勝ちたいところだ。
「お披露目の準備はどうじゃ?」
「問題ありませんよ。使う魔法も決めていますし、楽しみにしていてくださいね」
「うむうむ。1週間後が待ち遠しいわい」
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