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「本日の講義を始めます。よろしくお願いします」
「よろしくおねがいしましゅ」
「・・・ヨロシクオネガイシマス」
無事に授業に乗り込むことができた。グラン伯爵も娘に友達ができそうにないのが心配だったみたいで、「よろしくね」と笑顔で見送ってくれた。
なお3分後くらいにお父様と一緒に講義室に入ってきた。一度見送ったのはなぜ・・・?
必要なそろばんは朝食の後に暇な時間を見つけて土で作ってきた。イメージがあやふやだったからか少し動かすのがいずいけど、今日この時間だけ使う位なら問題ないはずだ。
土魔法は物を作るのに適している。イメージがちゃんとしていたら強度もかなりあるし、壊そうとしない限り壊れないはずだ。
最初は土じゃなく地面から鉄を抜き出して鉄で作ろうと思ったけど、重すぎて持てなかったし純鉄100%の道具ってあったらまずくないかと思ったのでおとなしく土に還しておいた。
講義が進むが私はもう習っているところなので正直暇だ。何なら前世から習っていたし。なにせ内容が足し算と引き算。3歳だからできるだけすごいのだけど、知っている私は暇でしかない。
「・・・アレ?」
と、どうやらローズちゃんはわからない問題に当たったらしい。これはチャンスだ。先生に目配せをしてローズちゃんの席に移動する。
先生にはあらかじめローズちゃんが困ってたらしばらく待ってほしいと根回ししておいたので問題ない。
「ろーずちゃん、わからないところあった?」
「・・・あの、その、えっと」
ローズちゃんが逃げようとして周りを見渡すが、メイドさんやお父様が扉の前にいるし逃げることはできない。圧迫しているみたいで申し訳ないけど、貴族に産まれた以上は人と話す機会など山ほどあるのでそれになれる練習だと思ってほしい。
やりたくて圧迫しているわけじゃないし。
「・・・ここが、わからないのです」
「これ?」
ローズちゃんが指をさしたのは3桁の引き算だ。確かにこれは3歳には難しいかもしれない。引き算は足し算よりも難易度的に上だろうし。
むしろ私としては足し算の方はできていることが驚愕だ。私がまともに3歳やっていたころなんて2桁すらできていなかった気がする。
「これ、つかってみて」
「・・・これは?」
背中に隠しておいたそろばんを差し出す。初めて見た道具で頭をかしげている様子がかわいらしい。
「しょろばんっていうの。このたまをうごかしてけいしゃんしゅるとわかりやしゅいの」
「しょろばん・・・」
「ちゅかいかたはね・・・」
そろばんの使い方を教える。ローズちゃんは私と同じ右利きなので右利きのやり方で。親指と人差し指以外の指で球を弾くのだ。
「・・・むずかしいです」
「ここはね・・・」
「はい・・・」
10分ほど教えて、ローズちゃんも理解できたようだ。問題に解答が書かれた。私と同じ答えだからおそらくあっているはずだ。
「・・・すごいです。アウリクラさま」
「ありがと~。そのそろばん、あげるからいっしょにおべんきょうがんばろう?」
「・・・はい。ありがとうごじゃいます、アウリクラさま」
すごいのはローズちゃんの方ではないだろうか。教えた私が言うのもなんだが、そろばんの使い方を3歳の時点で理解した。
桁が違うということはくらいが違うということを理解していないとそろばんの使い方はわからないはずだ。この子、ズルをしている私とは違う純粋な天才じゃないだろうか。
「これはこれは。アウリクラ様、それにローズ様も私にもその道具を使い方を教えていただけませんか?」
「うん。ローズちゃん、いっしょにおしえてあげよう?」
「・・・はい」
先生もそろばんに興味を持ってくれたみたいだ。まだ3歳の子供に素直に教えを超えるのはすごいと思う。
それにこれは私たちにもメリットがあって、教えるというのは教える側も頭に入りやすい。ローズちゃんもこれでそろばんの使い方をより理解できると思う。
後ろにいるお父様にもうまくいったと目線で伝えておく。優しい顔をしてくれたので伝わったはずだ。後はこのままなし崩し的に話しかける機会を増やしてお友達になるのだ。
そしてお友達になったら手紙などを出して関係を維持する。遠いし馬車がつらいしでなかなか気軽に来れないから仕方ない。
できれば7歳になったら私の家で行われるお披露目パーティーまでに親友くらいにまでなっておきたいところだ。
幸い話しかけるあてはほかにもある。オセロとか。領地に戻っても日々の講義の内容なんかで話すことはたくさんあるだろうし、関係を進歩できたらいいな。
ちょっと幼少期が長すぎて闘病期までまだ何十話もかかりそうなので次回から巻いていきます。多分次は7歳になると思います。
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