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「む~~~」
「アウリクラはどうしたんだ?」
「ローズちゃんと仲良くなれなかったみたいでふてくされているのよ」
「ああ、おとなしそうな子だったからな」
夕食が終わりお風呂にも入り、お客さん用の寝室に案内されたところで私は枕に顔をうずめて暴れていた。
なぜそのようなことをしているかというと、お母様が言った通りローズちゃんと仲良くなれなかったからだ。
初めにあった時にフラン様の後ろに隠れていたことからなんとなくわかっていたが、彼女は結構な人見知りらしい。
私が話しかけても逃げてしまってフラン様の陰にずっと隠れているのだ。
それをよくないと思ったフラン様が私と話すことを促しても別のところに逃げて行ってしまうし。ここで追いかけて疑似かくれんぼでもしたら仲良くなれるかもとは思ったが、余計に裂けられてしまう結果になりそうで結局追いかけることはできなかった。
ただ私もそこで終わろうとは思っていなかった。その後運よく夕食の際に隣に座ることができたので、色々話しかけることはできたのだ。
ただ今思い返すと話しかける内容が問題だった。おじい様との戦闘訓練や魔法の訓練の話をしてしまったのだ。
だって話しかける内容がないんだもの。そもそも共通の話題なんてないし、天気の話なんかしても仲良くなれないし、ならばそういう方面の話をするしかなかった。
誤算だったのはローズちゃんがまだ訓練を始めていなかったこと。そもそも私の時点で大分早いみたいな話をお父様もお母様もしていたのに、そのことをすっかり忘れていた。
一応歴史や数学の勉強はしていたようなのでそっち方面の話を振ることもできたが、どうやらローズちゃんは歴史はともかく数学が苦手なようで、ここが難しかったあれは定義がおかしくないかみたいな話を振ったけど余計避けられるようになってしまった。
冷静に考えればそんな話3歳の子供に振るべきではなかった。
「だが明日は一緒に講義を受ける約束をしたんだろう?その時に仲良くなればいいじゃないか」
そう、夕食の時の会話を聞いていたグラン伯爵様が明日行われる数学の講義を一緒に受けることを提案してくれたんだよね。
ただ一緒に受けても話す機会があるかどうか。そもそも逃げられちゃうかもしれないし、苦手だと話しているローズちゃんの横で私がマウントを取っても意味がない。
「アウリクラがローズ嬢の苦手な個所を教えるというのはどうだ?前世は発展した世界だったようだし、教えるのにちょうどいい道具とかはなかったのか?」
「あ、それはお母様も気になるわ。私も数字関係は苦手だもの。どう?アウリクラ」
「ん~」
数学を教えると考えて一番最初に思いつく便利な道具は電卓だ。でも私は電卓の機構なんて知らないし、作れるかどうかもわからない。電気の部分は魔力で代用できそうだけど。
そうなると他に使えそうなもの。できれば計算に使える様なものがいい。定規なんかは普通にあるし・・・
「あ」
一つあった。電気を使わず、作るのも簡単で大人も子供も使い方さえ覚えれば使用できる。持ち運びも困らなくて、何より私が使い方を友達に教わったことがあって知っている。
そろばんだ。
「ひとちゅあった」
「お。俺たちにも教えてくれるか?」
「うん。えっとね、そろばんっていうの」
「そろばん?初めて聞いたわね。こちらの世界にはないと思うわ」
よかった。こっちの世界にそろばんがないなら教えることはできそうだ。
そろばんは簡単に言えば串に刺さった球を動かして計算する道具だ。四則演算ができて、扱うのが簡単で、持ち運びがしやすく、さらに指を使って計算するから空間把握能力、論理思考力、集中力を見つけることができる。というのが私にそろばんを少し教えてくれた友達の話だった。
高校1年生の時に私にそろばんを教えてくれた友達には感謝しなければ。お見舞いにも何度か来てくれた大切な友人だった。「周りの男は見る目がないから誰も私に告白してこない」とっていたが恋人はできたのだろうか。
ただ死ぬ前に「周りは見る目があるからあなたに告白していないんだよ」と伝えられなかったのは残念だ。いくら美人でも性格がガキ大将じゃだれも告白するわけないじゃん。
「なるほど・・・アウリクラ。明日の講義、お父様も見学していいか?そろばんを使っている様子を実際に見たいんだ」
「たぶんだいじょうぶだとおもいましゅ」
それを判断するのは先生やグラン伯爵だ。その二人がいいというならいいだろう。
お父様はこれで使いやすそうだったら家で導入してくれるかな?お母様が数学を苦手だというなら少しくらい力になってあげたい。
なんならこれを広めれば貴族としてかなりいいんじゃない?ノブレスオブリージュってやつ。平民以外にも貴族に広めれば恩を感じてくれるかもしれないし。お母様みたいに数字が苦手な人はいるだろうから。
・・・むりか。この国の貴族、力こそパワーの実力至上主義だもんな。
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