27
「おかあしゃま・・・だっこ・・・」
「ふふ、いらっしゃいアウリクラ」
舐めてた。馬車の旅というものを舐めていた。
こんなに揺れるものだとは思っていなかった。ただ走るだけでも揺れ、段差があれば大きく跳ね、私の身体はすでに限界だった。
気づけば三半規管は敗北しており、景色も旅も楽しむことはできずお母様に甘えるだけのマシーンとなり果てていた。
「まさかここまで弱いとはな・・・。前の生では普通に乗れていたんだろう?」
「ぜんしぇのくるまは、もっとかいてきでゆれましぇんでした」
お父様の三半規管はどうなっているのか。お母様もそうだけど、この揺れに対して微塵も揺らいでいない。顔色は変わらないし、体感もしっかりしている。
相当鍛えているのだろう。
お父様ともお母様とも私は戦っていない。訓練でいいから一度だけ戦ってくれないだろうか。どれだけ強いのか知りたいのだ。おじい様から聞いたおかげでお父様の戦い方は知っている。お母様はあまり戦うのが得意ではないらしい。
お父様は武器を使わず拳で戦うらしい。水属性と風属性の適性があるから、それを手にまとってぶん殴るんだとか。
おじい様もお父様のことは強いと言っていて、100回戦えば3回は負けるらしい。強いのはおじいさまの方では??
おじい様何者なんだろうね。時々訓練の見学に屋敷に勤める騎士の方が見学に来るんだけど、目つきが尋常じゃないのよ。尊敬が過ぎて目からビームが出そうなくらい。
でもおじい様に聞いても「隠居したおいぼれじゃよ。ほれ、もう一度行くぞ」としか言われないのだ。絶対そんなわけがないので、いつか一本取れたときに聞こうと思っている。
「それをこちらで再現できたら良いのだけど・・・仕組みについては詳しくないのよね?」
「ぎあがあることしかしらないでしゅ」
「ぎあ・・・?」
この馬車には家族しかいないので前世の話も気軽にすることができる。
話に出た車の再現はこちらの世界では厳しいとしか言えないだろう。まず車を唯一知っている私が機構について何も知らない。免許は取れなかったしあるのが当たり前で中身について調べようとも思わなかったのだ。
おかげで知っているのは動かすときにギアをいじるという事だけ。これでどう作ればいいのか。
それに作ったところで動かせるのかという問題が出てくる。話を聞く限り、こちらの世界でガソリンは一般的ではない。なんなら元となる石油の存在すら知られていない。お父様が知らなかったのだから。
もしかしたらどこかの地域では使われているのかもしれないけど、手に入れてもガソリンにできないならどうしようもない。ガソリンでエンジンをどう動かしているのかなんて知らないからあっても意味ないけど。
「あと一週間だから耐えてもらうしかないな」
「がんばりましゅ・・・」
それにしても本当にきつい。何とかして揺れを抑えることはできないだろうか。前世の馬車はどうしていたっけ。歴史の先生か豆知識として教えてくれたような・・・。
そうだ、サスペンションだ。ばねを重ねて衝撃を吸収できるようにしていたみたいな話を聞いた気がする。
ただそれだけでいいのかわからない。そもそもばねって前世にあったびよ~んと伸びるやつでいいのかな?とりあえず伝えるだけならタダか。
「おとうしゃま・・・さすぺんしょん・・・」
「ん?この馬車にもついているぞ。最新型だからな」
ついてるんかい。あってこれならもう道がすべての元凶とするしかない。
技術が前世と比べて発達していないので、道もあやふやでがたがたなのだ。かといって工事をしようとすれば時々出てくる魔物が邪魔してきてどうしようもない。
私が一人で土魔法を使って整備してやろうかとも思ったけどそれはだめだ。貴族がやっていいことではない。
ただこの揺れだけは本当にどうにかならないものか。いっそ風魔法で自分だけ浮いていようか?試したことはないけどできる気がする。
ヘリコプターみたいに頭の上で風を回せば行けるはずだ。
「アウリクラ?無茶はだめよ?」
「はい」
察しのいいお母様に注意されたのでやめだ。よく考えればこの狭い馬車の中で風を回したら馬車ごと吹き飛ばしてしまうに決まっている。
ちょっと思考があやふやなレベルで限界らしい。
「すこしねましゅ」
「ああ、おやすみアウリクラ」
あーあ、寝て起きたらアンコート伯爵領についていないかな。
少しでも面白いと持っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援とブックマークの方をお願いします。
正直に感じた評価で構いません。