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「お嬢様、体調がすぐれない様子ですが大丈夫ですか?」
「だいじょうぶでしゅ・・・」
午前中に行われたおじい様との戦闘訓練を終えた日の午後、これから始まるのは魔法の訓練だ。
午前中は少々八茶け過ぎた。体が前世以上に動く楽しさ、一度は動かなくなった四肢が動く楽しさ、何をしても届かないおじい様の強さ。いろいろ合わさった結果、午後の訓練のことを考えず限界まで戦ってしまった。
しかし得るものもあって、人に武器を向ける忌避感が薄れたと思う。これは実際に武器をもって人を攻撃しないとできないことだったと思うので素直にうれしい。
もちろん人を殺せるようになったとは言えないけど、少なくとも人に武器を向けるのは迷わないようになった。
とはいえ訓練で握っていたのは木でできた木刀。本物の刃がついた刀とは重さも存在感も違うだろう。だが人に武器を向けることに対する抵抗感がなくなっただけでも、午前中の訓練は価値があるものだったと思う。
そしてこれから始まるのは魔法の訓練だ。庭にはいつも通り講師のレルソン先生とメイドのカリーナ。魔法の使い方は以前学んでいる。
魔法とはイメージの産物だ。身体強化にイメージが必要だったように魔法にもイメージが必要。
「まずは私が手本を見せますね。・・・『ꯃꯐꯝ ꯑꯁꯤꯗꯥ ꯃꯩ ꯊꯥꯏ꯫』」
先生が手のひらを上に向け胸の前に置きそうつぶやく。すると、先生の手のひらの上にゆらゆら揺れる炎が現れた。
「成功すればこのように、手のひらの上に炎が生まれます。やってみてください」
「はい」
先ほども言ったが、魔法とはイメージの産物である。イメージが強固であるほど強力な魔法になり発動に必要な魔力は減るし、イメージが脆弱だったら魔法は弱くさらに使う魔力も絶大になる。
私はイメージする。先生をまねて手のひらを上に向け胸の前へ。使うのは先生と同じ火属性の魔法。
火とは何だろうか?火は酸素と可燃物、熱の3つがそろって初めて発生する現象だと私は理科で学んだ。なのでイメージするのはそれだ。
この3つのうち熱は火が発生すれば自然と現れるものなので考えないものとするが。
手のひらの上には空気がある。すなわち酸素もあるはずだ。なので私はその酸素が手のひらにあるとイメージした。これで酸素はクリアだ。
次に必要なのは燃えるもの。紙や木とかがこれに当たるのだが、先ほど先生が見せてくれたようにそれがなくても魔法は発動するのだ。
ならば私はそれを想像するだけ。現代っ子の私は縦型動画でたくさん動画を見ていた。その中には火事や花火の動画もたくさんあった。
あれらのように燃える炎を想像する。燃えるもがなくても発動するならたくさん炎をイメージして、可燃物がないという事実に蓋をするのだ。
そして最後に魔力を用意する。魔核から魔力を取り出し脳みそへ送る。脳に送るのはイメージするのが脳だからだと思われる。魔法を使う人は習っていなくても皆自然と脳に魔力を集めるそうだ。
そうして魔力を脳に送ったところで、魔法を発動できるようになったらしく言葉も意味も分からないまさに呪文と呼べるものが頭に浮かんでくる。
「『ꯃꯐꯝ ꯑꯁꯤꯗꯥ ꯃꯩ ꯊꯥꯏ꯫』」
瞬間、爆発かと勘違いするくらいの音と共に目の前が燃え上がった。火柱が上がったのだ。
私はあわてて止めようとするが止め方がわからない。魔力を止めればいいのか消えるよう新たに魔法を使えばいいのか。
ちらりと先生の手を見るが、私が魔法を使おうとイメージしているうちに消してしまったらしく先生は手をおろしてしまっていた。
そうして焦った私はこう考えてしまった。「水をかければ消えるのでは?」と。
イメージしたのは流れるプールの波だった。前世で楽しそうだと思っていたのが出てきたらしい。
水は水素と酸素が結合するとできるのでそれを大量にイメージする。
「『ꯃꯐꯝ ꯑꯁꯤꯗꯥ ꯏꯁꯤꯡꯒꯤ ꯏꯆꯦꯜ꯫』!」
唱えると同時、私の前数m先から津波を思うほどの波が流れる。それはあっけにとられて棒立ちだった私を巻き込んで火柱を消してくれた。
それはいい。元々身体強化を使っていたので波程度では流されない。火も熱くないし、波が体に当たっても何にも感じない。
だがそれは私だけだ。
後ろを振り返る。
庭師の肩が毎日手入れしていた庭がぐちゃぐちゃになっていた。火も一部飛び散ったようで燃えている個所がある。
そして屋敷の方を見ると、窓からお母様が青筋を立てて笑っていた。
「・・・やらかした」
とりあえず、これも加減の調整から頑張ることになりそうだ。
エリシア「アウリクラなんだからこうなることはわかってたでしょう!なんで訓練場に行かせなかったの!」
ペイン「いや、訓練場は騎士も使うから男が多いし・・・アウリクラは可愛いからもし襲われたらと思うと・・・」
エリシア「うちの騎士をどれだけ特殊だと思っているの!」
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