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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
0歳~

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「そうじゃ。訓練の内容を少し変えることにした」


 私が転生の話をした次の日、ご飯を食べているとおじいさまがふと呟いた。言葉の意味から考えるに私の戦闘訓練の話だろうが、急にどうしたのだろうか。


「いやな、初めは選んだ武器に合わせた動きや心構え、考えかたを教えようと思っとったんじゃ。じゃがアウリクラの使う刀という武器は儂らの使う武器とはまるで違う戦い方をしなければならんし、それならばいっそ訓練の内容から変えようと思っての」

「父さん、ならどうするつもりなんだ?」

「儂と殺す気で戦ってもらう」

「な!?」


 おじい様のこの発言には家族みんな驚いた。当然だ。私の精神的に18歳とはいえ体は3歳、ましてや魂は平和な異世界日本製の戦いなどとは無縁の常識を持っている。

 そんな私と本気の戦闘を行ったところでなんになるというのか。


「そもそも身体強化の強度からして強すぎる。異世界の知識も持ち合わせて居るし、アウリクラはこの世界で生まれながらの強者じゃ。ならば最初から動き方や工夫なんぞ教えずに殺すつもりの戦いだけ覚えればよい。工夫なら必要になってから学んでも遅くはなかろう。そのくらいアウリクラの身体強化は強い」


 その意見にお父様は納得した。私もうすうす察してはいたけど、私の身体強化の強度は桁が違うらしい。普通の人間は絶対に目で追えないし、あの速さで殴られたら身体強化していようが関係なしに人は死ぬ。

 さらに耐久力も壁にめり込んでも何も感じないくらいなのだから、並みの魔法なら喰らったところで何にもならないらしい。


 結果、私の訓練は肩を学んだりするものではなく実戦形式で半分本気の殺し合いとなった。


 そんなわけで私は今、殺気を漂わせたおじい様と対面している。

 殺気というのはほんのり冷たいものらしい。というのが初めて殺気を受けた私の感想。なんとなく想像していた鋭利な冷たさではなかった。


 なぜこんな平然としているかというと、私が一度死んでいるからだ。死というものがどんなものか体験した私にとって殺気とは恐れるものではなかったらしい。

 死とはもっと暗く冷たく残酷だと、一度死んだ私は知っている。

 死そのものを知った私が死の気配ごときに怯える理由など、いったいどこにあるというのか。


「では来なさいアウリクラ。加減はいらんぞ。儂もしないからな」

「はい、おじいしゃま」


 おじいさまの誘いを受けた私は、身体強化を全開にして全力で踏み込む。ただでさえ目で追えないほど早い私が全力を出せばほぼ瞬間移動に等しい。

 自認0.1秒以下でおじいさまに迫り木刀を振る。狙うのは足首だ。ここを痛めれば動きが止まる。


 だがそれはおじい様の持っている木剣に軽く受け止められる。それだけでは終わらず、おじいさまは動きの止まった私の肩を蹴って弾き飛ばした。身体強化に加えてそれによる速度まで乗っているのに軽く受け止めるとはいったいどうなっているのか。


「あう!」


 体勢を立て直しもう一度、と前傾姿勢になったところで、おじい様から声をかけられる。


「アウリクラ、言ったじゃろう殺す気で来なさいと。アウリクラの速度なら首を狙えば一発じゃった。なぜ狙わんかった?それにあたる一瞬動きが鈍ったな」

「・・・しょれは」


 確かに、私が考えたのは動きを止めること。殺す気で来いと言われたのに、私の頭には殺すための手段がなかった。

 それに動きが鈍ったのも無意識だった。言われて初めてそうだったかもと思ったくらい。


「優しい子じゃ、本当なら武器なんぞ振りたくないんじゃろう?前の世界も安定した場所だったようじゃ。だがこれからはそうはいかん、アウリクラは殺し方を学ぶ必要がある」

「おじいしゃま」

「アウリクラが本気で掛かってきたところで儂なら軽くいなせることは今わかったな?もう一度じゃアウリクラ。儂を殺す気で刀を振りなさい」


 もう一度全力で、殺す気で。そう考えたとき、私が抱いた感情は安堵だった。

 一度は満足に動かせなくなった体だ。それが再び動かせるようになっただけでも嬉しいというのに、加えて身体強化という前世になかった技術のおかげで私の身体はさらに自由を得た。


 だが訓練を繰り返すうちにその考えは消えていた。この力を目の当りにしたら当然だった。この力は容易に人を殺してしまう。

 全力を出せるよう訓練はしたが、そんな機会も相手もいないと思っていた。ただの私の自己満足だと。


 だがおじい様は私の全力を正面から受け止め、あろうことか弾いた。さらに「殺す気でやっていい」ともっと本気でという始末。


 この力が人を殺すとわかっていても、一度動かせなかった体を前以上に動かせるその喜びを覚えてしまった。出していい相手も。

 一人でするだけの自慰行為から解放されてしまった。


 おじいさまを信じて本気で戦う。それが今の私の最高の楽しみ。

 そう実感しながら戦った結果、3時間ほどで1発も木刀を当てられず今日の訓練は終了した。楽しいだけでは勝てないということを学んだ午前中だった。

 悔しいので、しばらく夜中に隠れて自主練したいと思う。刀の振り方とあ何も知らないで振っていたし、力が伝わりづらい振り方をしていた可能性もある。

 

 そういう細かいところから学んで変えていかないといけないと実感した。

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