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病気なんかに負けません!  作者: あるにゃとら
0歳~

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18 レルソン視点

「全属性か・・・」

「何か問題があるのですか?侯爵様。ここ数十年は見つからなかったとても希少な適正ですし、お嬢様のお力になると思うのですが・・・」


 私を雇ってくださったペイン・フルム・ブルーム侯爵様にお嬢様の判明した適性を伝えると、侯爵様は安堵と不安が混ざったような表情をした。


 全属性の適性を持つものは本当にまれなのだ。2つならば1年に数人、3つならば数年に一人とそこそこ見つかるが、全属性となると本当にいない。

 前の全属性適正持ちのことを知るとなれば、文献を漁るくらいしかまともな手段で情報を得るすべはないだろう。


「いや、アウリクラの力になることは間違いない。それはわかっているのだが、果たしてどれだけ時間がかかるか」

「時間ですか?」

「そうだ。レルソン殿はこの国の歴史は知っているだろう?貴族の思想も」

「もちろんです」


 この国を建国した勇者こと初代王は、武力をもって森を開拓しこの国を建てた。それにあやかってか、ほとんどの貴族は戦闘における実力こそが第一という考えを持っている。

 それゆえ圧倒的な戦闘力を持つことができる魔力と魔法を扱えることが貴族であるという指標にすらなっている。

 魔力を持たぬ貴族は貴族と言えないのだ。


 そしてこの思想は多くの貴族が持っている。魔法とそれによる強さこそが絶対で、平民のことを道具としか思っていない。

 目の前にいる侯爵様や私を紹介してくれたグラン伯爵様といった強さ以外で物事を判断してくださる方は本当に貴重なのだ。


「ならば話は早いか。貴族は強さこそが絶対だ。そしてその武力のほとんどは魔法による。すなわち魔法をどれだけうまく使えるかということが強さの証明になる」

「ではやはり、お嬢様の全属性適性は強みになるのでは?」

「そこで問題になるのが時間なのだ。レルソン殿は魔法を使えるようになってから10年以上たっているだろう。そこで聞きたいのだが、今の自分は魔法を完璧に熟知し使用できると胸を張って言えるだろうか?」

「・・・いえ、10年ほどで魔法に精通するには、魔法の道はあまりにも険しすぎます」


 私は火属性の適性を持ち8歳のころにグラン伯爵様のご厚意で魔力の適性検査を領地の平民にさせていただき、運よく自分に魔力があることを自覚できた。

 それから15年火属性の魔法を使い続けているが、とっさの判断や魔法の調整、魔法で可能なことを考えたら到底精通しているとはいいがたい。


「そうだろう、俺もそうだ。2属性の適性を持ち5歳で魔力を自覚してから20年使い続けているが、結局最後に頼りにするのは身体強化と父に教わった剣だった。」

「それが先ほどの時間とつながるのですね」

「そうだ。10年あっても一つの魔法に精通することはできない。ならば全属性を持つアウリクラは一体魔法に精通するのにどれだけ時間がかかる?すべての属性に手を出し器用貧乏になってしまっては全属性であるという強みがない。だが一つの属性に絞ってしまっては、全属性という優位性を消し去ってしまう・・・」


 侯爵様に雇われる際、お嬢様の事情を少しは聞いていた。母親であるエリシア様は学園で疎まれており、お嬢様も危険な目に合う恐れがある。

 それらを手っ取り早く跳ね除けることができるのは武力だ。強さが絶対ということはこの国の貴族の流儀。

 強ければだれも文句は言わない。


「侯爵様、とりあえずは次の講義を見てから判断しませんか。侯爵様が信頼するお嬢様ならば、もしかしたら学園に入学するまでに圧倒的な実力をつけてくださるかもしれません」

「そうだな、父である俺がアウリクラを信頼しなければ誰がアウリクラを信頼するというのか。わかった、レルソン殿、明日からも頼む。アウリクラに身を守る力を授けてやってくれ」

「頭をお上げください侯爵様。それが私の仕事です。問題ありません、お嬢様ならすぐに私のことなど飛び越えて行ってしまいますよ」

「そうだとよいのだがな・・・」


 侯爵様はこう言っているが、私としては何も問題ないと思っている。

 侯爵様が言っていたようにお嬢様は天才だ。いや、天才などという言葉を軽く超越しているだろう。


 そもそも今日の講義をまともに理解しただけでも異常だ。普通の子供なら理解していなくても理解している風を演じるが、お嬢様にそのような様子はなかった。間違いなくお嬢様はすべてを理解していた。


 何よりもそれを感じたのは身体強化の説明をした時だ。

 必要性を説明してから、それまで少し柔らかかったお嬢様の雰囲気が硬くなった。魔法の危険性を知り、命を奪うものだと理解していたのだ。


 命を奪うものだと理解する、これがどれだけ難しいことか。3歳の子供が死という概念を理解できるか?私が3歳の時に死を理解していたか?

 していたわけがない。できていたのはせいぜい死という言葉を文字通り知っていただけ。そこに死に対する理解などなかった。


 だがお嬢様は理解していた。死とはそこにあり、決していつか来る終わりではないのだと。死とは理不尽で、不条理なものなのだと。


 そんなお嬢様だと知ってしまったから、不可能を可能にしてしまうのではないかと、そう期待してしまうのだ。

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