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「それでは流し始めます。危険なことはないので、ゆっくりで大丈夫ですよ」
「はい」
左手を石板の小さい丸に、右手を先生に握ってもらって準備は完了だ。
なるべく成功する可能性が上がるように、目をつぶって意識を石板と体の奥に集中させる。
「いきますよ」
先生が言葉を発すると同時に指先が熱を持った。
不快なものではなく、線香花火を間近で遊んでいるときのような、暖かくてそこにあることに安心するような熱だった。
「今、指先に熱があるのはわかりますか?」
「わかりましゅ」
「それが魔力です。今は指先だけですが、さらに流していきますよ」
先生が伝えてくれたその魔力が体をめぐっているのがわかる。指先から腕につたい心臓へ、それから魔力は下半身に向かっていった。
おなかを伝い、それまで一方向で進んでいた魔力が両足に二つに分かれる。別れた影響か少しゆっくりになりながら、魔力はやがて終着点にたどり着いた。
その終着点は私の両足、ふくらはぎの真ん中あたり。魔力はそこで止まった。
「あ・・・」
「たどり着きましたか?」
「はい」
これだ。これが私の魔核。両足に二つある、魔法使いの証明。
ふと、頭に想像が出てきた。私とは全く関係もない、弟と一緒にアニメで見ていた一瞬のシーン。
弟が見ていたのは男性が刀で戦うものだった。男性が目にいえないほど高速で刀を抜き敵を切る、かつて居合と呼ばれていたらしい技術。それが頭に思い浮かんだ。
今の今まで思い出すことなどなかった、他愛なかったはずの日常のワンシーン。
そして同時に理解した。男性が一瞬で刀を抜くこのシーン、これが私の魔核から魔力を取り出すイメージだ。
目にもとまらぬ速さで、閃光のように。
「魔力は取り出せそうですか?」
「だいじょうぶでしゅ。やってみましゅ」
「はい」
これが私のイメージであるなら、ゆっくり取り出そうとイメージしたところで意味はない。イメージするのは一瞬だ。
魔核から魔力を取り出す。私ですら知覚できないほどの超速で、私の願う場所へ。この熱を届けて見せる。
どれくらい時間がたっただろうか、もしかしたら一瞬かもしれないし、何時間も経っているかもしれない。それくらい集中しているはずだ。
どこか他人事なのは、自分でも初めての感覚で戸惑っているからだろう。
「・・・はい、もう大丈夫ですよ。結果が出ました」
「え・・・?」
「よく集中していらしたようです。疲れているでしょうし、今日の講義はここまでにしましょう」
「あ・・・てきしぇい・・・」
「はい、もちろん、それを確認してからですよ」
いつの間にか地面には汗が滴っていて少しふらふらする。過集中の状態にでも入っていたのだろうか。
「こちらがお嬢様の適性です。非常に珍しい結果になりましたね」
そう言い先生が見せてくれた石板にある上部の5つの丸には、真ん中の一つを除いてそれ以外の丸がすべて光っていた。
そういえば、属性は4つなのになぜ丸は5つあるのだろうか。何か引っかかっているが思いつかない。今はそれを考えるよりも、適性を確認して寝てしまいたい気分だ。
「左の丸から順に火属性、水属性、真ん中を一つ開けて風属性、最後に土属性。全属性持ちですね。ここ数十年は発見されていないとても珍しい適正持ちです。お嬢様が生きていくうえで心強い味方になってくれることでしょう。おめでとうございます」
「ありがとう、ございましゅ」
先生が褒めてくれているのがわかるが、それをうれしく思う体力がない。こんなことなら走り込みでも何でもして体力をつけておくべきだった。
もう少ししたら眠ってしまいそうだ。
「そちらの、カリーナさんと言いましたか。お嬢様がお疲れのようですので、本日の講義は終わりたいと思います。休ませてあげてください。私は侯爵様に結果を報告に行きたいと思います」
「かしこまりました。お嬢様、ご自身で歩くことはできそうですか?」
「かりーな?どうしたの?」
「ああ、無理そうですね。それでしたら恐れ入りますが私が運びます。お嬢様、こちらへ」
眠くて思考の回らない中、手を広げているカリーナの下へ向かう。カリーナはとてもやさしい匂いがするので抱かれると安心するのだ。
あ、でも講義中に良いのだろうか。
「しぇんしぇ、こうぎ」
「今日の講義は終わりましたよ。お嬢様がよく頑張りましたから。それではカリーナさん、お願いします」
「かしこまりました」
今日の講義は終わっていたらしい。なら、もういいか。この安心する匂いに包まれながら寝てしまおう。
よく頑張ったと、みんな褒めてくれるはずだ。
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