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「ああ、産まれましたよエリシア様!」
意識をなくした次の瞬間、誰かの声が聞こえた。ご年配の方だろう、声がしわがれている。私のおばあちゃんくらいだろうか。遠い所に住んでいて、最期まで会えなかったおばあちゃん。だし巻き卵がおいしかった。また食べたいなぁ。
そんなことを考えていたが、次の瞬間心の奥底から何かの衝動が湧き出てきた。抗い方がわからず、私はその衝動のままに声を出す。
「おぎゃあ!」
おぎゃあ?そんな赤ちゃんみたいな声を、私が?どうして?
それに何だか体がおかしい。
まず、目が見えない。完全に見えないわけじゃなくてぼんやりとは見えるけど、ひどく泣いた後だってこうはならない。
それに体も動かない。さっきまでの動かない感じじゃなく、動かせるけど思い通りに動かない、みたいな。
でも、なんでだろう。よくわからない状況なのは変わらないけど、私は今無性にうれしかった。泣きだしたかった。
「あぎゃっ!おぎゃあ!」
また赤ちゃんみたいな声を出してしまった。でもしょうがないと思う。だって動くのだ。さっきまで動いていなかった手が、足が!
思い通りに動くわけじゃないけど、さっきみたいな動かない感じとは明確に違うのがわかる。だって、実際にぶんぶん腕を振れているのだ。
信じられない。奇跡じゃないか?神が未知の病気に罹患した私を憐れんで助けてくれたのか?
そう考えると、自然と涙が出てきた。ただでさえ見えなかった目がさらに見えなくなってしまう。だけどそんなこと構うものか。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
今はこの衝動のままに身を任せよう。状況も何もわからないけど、体が動くことは事実なのだから。
これ以上の喜びなんて、きっと存在しないだろう。
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