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「魔法には4つの属性があります。火、水、土、風の四つです。多くの人はこれらの中から一つの属性の魔法を発動させることが可能ですが、まれに二つ以上の属性を使うことができる人もいます。この使える属性のことを適正と言いまして、例えばお嬢様の御父上などは、水と風属性の適性を持っています」
「しぇんしぇい、もっていないぞくせいのまほうはつかえないの?」
「原則不可能です。お嬢様はお風呂にある蛇口を覚えていますか?」
「おぼえてましゅ」
お風呂の様子はほとんど前世と一緒だった。湯舟があって、お湯を出すための蛇口があって。違うのは規模だけ。
屋敷が大きいからか、お風呂場も非常に大きいのだ。最初に入った時は思わず銭湯かと言ってしまった。お母さんは「難しい言葉をしってるのね」と褒めてくれた。
「蛇口からはお湯と水が出ますね?これと同じです。蛇口が人なので、魔法を使えるのは一人だけ。お湯と水を出す機構が適正です。しかし蛇口からお湯と水以外が出ることはありません。そういう風に作られていないからです。人の適性も同じで、産まれた時点で適正というものは決められており、それ以外の属性を使えるようにできていないのです。・・・少し長く話しすぎてしまいましたね。早速ですが、適性の検査を行いましょうか?」
「したい!」
初めて存在を知った時から使ってみたいと思っていた魔法、それをやっと使える。こんなに心躍るのはいつ以来だろうか。
本格的に自分がファンタジーの世界に転生したんだという実感がある。
弟よ、いまから私は魔法を使うぞ!
「お喜びのところ恐縮ですが、本日行えるのは適性の検査のみです。その後は身体強化の訓練を行ってから魔法の訓練となりますので、実際に使えるようになるのは早くても1か月以上は先だと思われます」
「えー、あれ?なんでしんたいきょうかのくんれんがさきなんでしゅか?」
身体強化のことは覚えている。おじいちゃんと初めて会ったとき、高い高いをするのに使っていた魔法だ。
これに関しても何度か聞いたことはあるが、変わらずはぐらかされるのでほとんど知らないのだ。
せいぜい予想しているのが力が強くなるんだろうなくらい。
だけど魔法の訓練より先に行うということは、それ以外にも何か大事なことがあるのだろうか。
「いい質問ですね。なぜ身体強化の訓練を先にするかというと、そちらの方が安全だからです。お嬢様は身体強化について知っていることはありますか?」
「ちからがつよくなりゅくらい」
「それも正しいですが、それだけではありません。身体強化は文字通り身体を強化します。走る速度は速くなり、素手で木を折れるようになり、そして身体自体の強度も増します。この強度が増すのが大切なのです」
「きょうど?」
「はい。魔法というものは非常に危ないものです。慣れていなければ属性によっては使用者すらも危険な状況に陥ります。例えば火属性ですと、慣れていないと発動と同時に爆発する可能性があります。無論、生身で受ければ死にます。良くても大けがです。ですが身体強化ができていれば、身体の強度が増しているので無事でいられる可能性が上がります」
なんかめちゃくちゃ殺伐とした理由だった。少し魔法のことを軽く考えていたかもしれない。前世にないものだからと楽しむつもりでいたけど、先ほど先生は戦闘に使うものとも言っていたのだ。
命を奪えるものだ。軽々しく使えるものではない。私もちゃんと考えないといけないのかもしれない。
「がんばりましゅ」
「はい、良いお返事です。それでは適性検査を始めましょう。左手をこちらの石板に、右手を私に預けてください」
そう言い先生が出したのは、上部に5つの丸、下に1つの丸が書かれた石板だった。
「下の丸に手を当ててください。今から私が右手から魔力を流します。流した魔力はお嬢様の中を通り、魔核にたどり着きます。たどり着いたというのが感覚で分かりましたら、魔核からお嬢様自身の魔力を取り出してください。」
「どうどりだせばいいんでしゅか?」
「申し訳ありませんが、そちらは私にはわかりません。魔力の取り出し方は人によって違うのです。剣を鞘から抜く感覚で取り出す人もいれば、草むしりの感覚で取り出す人もいます」
「しぇんしぇいはどんなふうにとりだしているんでしゅか?」
「私は‥‥ボウルいっぱいに入ったお水から、お水を掬い上げる感覚でしょうか?」
共通点としては、全員何かから抜き取る感覚だという事だろうか?
正直あらかじめイメージができていないとなると不安だが、ぱっと思いつくイメージもない。少し待ってもらえないだろうか?
「すこしまってくれましぇんか?そうぞうができましぇん」
「あらかじめ想像しておくのですか?残念ながらほとんど意味がないのですよ。私もそうでしたが、魔核に魔力がたどり着いて初めて感覚を理解できるものですから。大丈夫です。これに関して危険はありません」
「わかりました。しぇんしぇい、よろしくおねがいしましゅ」
「はい、それでは流しますよ」
先生がそう言うならそうなのだろう。どのみち待ってほしいと言いながら、想像つく気が一切しないかったのだ。あのまま待ってもらっていたら夜が明けるまで先生は帰ることができなかったであろう。
ならばもうぶっつけ本番だ。自信があるわけじゃないけど、前世18年分の知恵を総動員して成功させてやる!
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