マシュマロ女子の本気を見せちゃうぞ♡
痛い。お茶会を思うと胃が痛くて授業に身が入らねー。
え? いつもだろうって? テメェ、書かれてない私の私生活全部知ってんのかゴラァ!
「フェアウッド! なにか質問でもあるのか!?」
「いえ、何でもありません!」
今は武術科の授業中である。
魔法使いは魔法を発動する間にどうしても隙が生じるから、自分の身は自分で守るのが鉄則らしい。王国の騎士団に守ってもらったらいいのに。
そんな事を考えてると目の前の女子生徒が、私の持ってる剣を弾き飛ばした。
「フェアウッドォ! これで五回目だぞ! もっと真剣に授業を受けんか貴様ァ!」
暑苦しくガミガミ言ってくるのは武術科の教師であるハンス・シュタル先生だ。焦げ茶色の髪の毛がツンツン逆立ってて、年齢は40代前後か。筋肉もりもりマッチョマンだ。なんか「I'll be back」とか言いそう。
その時、生徒たちから歓声が上がる。
何事かと気になって見てみると、コレットとリオン寮の男子生徒が目にも止まらぬ速さで剣を互いに打ち合っている。
うん、知ってた。コレット強いの私知ってた。
コレットはちょっと特殊な子で、魔法はあまり上手く扱えないけど、その代わりにとんでもねぇ武術の才を持ってるんだよね。
最初の武術の授業でいとも簡単に相手の男子生徒を投げ飛ばした時はびびったよね。マシュマロ女子が自分の倍のデカさの男子生徒を軽々と投げ飛ばすんだもん、普通じゃない。
武術の授業の度にコレットの被害者が増えていく。ハンス先生は満足げだけど、やられた生徒は屈辱でしかないだろう。
しかし今日はリオン寮との合同授業。私はアホ王子と組まされなくてホッとしてたけど、コレットの被害者になるだろう生徒には心の中でお悔やみ申し上げていた。
しかし、である。
あの武術の神に愛されてるとしか思えないコレットの動きについていけてる――いや、互角に張り合えてる生徒に驚嘆しかない。
コレットはとんでもなく怪力だ。そしてあのマシュマロゆるふわな見た目からは想像出来ないほど運動神経がずば抜けていい。
初めての授業の後に気になりすぎて聞いたことがある。すると彼女はこう言った。
「実家に居た時に農作物を魔獣に食い荒らされないように立ち向かってたらぁ、いつの間にか魔獣を一発で倒せるようになったんだよねぇ」
私はこの時に誓った。コレットを絶対に怒らせないでおこうと。
同室だったこともあり、すぐに打ち解けたけど、最初のうちは正直ビビリまくってた。コレットだけ世界観がドラゴンボールなんだもん。
そんなコレットを相手に一歩も引かずに剣戟を繰り広げるのは、同年代にしては背の高い男子生徒だ。中々のイケメンだ。将来有望だな!
一進一退を繰り返す中、コレットの足が相手の足に掬われる。バランスを立て直そうとするが、その隙も与えずに相手は剣をコレットの胸元に突きつけられた。
「あはぁ、負けちゃったぁ」
コレットが立ち上がろうとしたとき、剣先がムニュッとコレットの胸に突き刺さる。模擬刀だから怪我はしないけど、見ていた全員が固まった。
一番固まってたのは相手の男子生徒だった。
どんどん顔が赤くなり、汗がダラダラと吹き出してきて、「あぁっ! す、すまない!」と剣を退けてコレットに手を差し伸べた。やだなにこれ、ラッキースケベなの?
衆人環視の元、男子生徒はコレットを立たせるとこれでもかってくらい、深く頭を下げた。
「ほ、本当に申し訳ない。この責任は必ずや取るとここに誓います!」
えらい古風な男子だな。頭から湯気が出てる幻影すら見えるぞ。
「やだなぁ、そんな大げさなこと言わないでくださいよぉ。私ならほら、ピンピンしてますからぁ」
と言って、その場でぴょんぴょん跳ねるコレットの、お胸のマシュマロちゃんがゆっさゆっさ揺れちゃってるよ。
男子生徒たちは釘付けだ。この不埒者共が!
「あっ、手が滑っちゃうー!」
とか言いながらコレットに釘付けの男子生徒達に剣を次々と打ち込んでいく。油断しまくりだからバキバキ気持ちいいほど当たる当たる。
「いてっ!」
「あたっ!」
「うおっ!」
ざまぁみそらせ! 私の友達を邪な目で見た罰だ!
「あたぁっ!」
背後からハンス先生が私の頭を剣でしばいてきた。ひ、卑怯者が!
「馬鹿な真似はやめんかフェアウッド」
やだ、急に冷静に言わないで。なんかめっちゃ恥ずかしくなってくるじゃん。
「お前たちも集中しろ! もう一度やり直し!」
うげぇ……まじかよ。
その後もまたコレットとリオン寮の男子生徒とのプロ並み(プロって誰?)のやり取りが繰り広げられたのは言うまでもない。