お茶会のドレスは控え目でお願いします。
前世の夢を見た日の朝は体が重い。
「黒木さん元気にしてるかな……」
目つきが悪くて暴力的で会話が下手でザルの黒木さん。
何考えてるのか分からないのに、一緒にいて苦にならない不思議な人。
まさか私がゲームの世界に転生してるとは思わないだろうなぁ。
懐かしい記憶なのに胸がチリリと痛むのは何故だろう。
布団の上でゴロゴロしてると部屋のドアがノックされる。
「コレット出てくれる〜?」
朝に弱い私はルームメイトにバトンタッチする。
「んもうぉ、仕方ないなぁ」
なんだかんだ言いつつコレットはいつも頼みごとを断らない。
ドアを開けたコレットは「わぁ!」と声を上げた。
「なにー? どしたー?」
「リアちゃ〜ん! なんだかいっぱい荷物が届いてるよぉ!」
私はガバリとベッドから起き上がる。
両手いっぱいに箱を持ってるコレットが私のベッドにそれらを置いた。
手紙を渡され差出人を見たら母からだった。ついに来てしまった。お茶会用のドレスたちが!
しかし何でこんなに箱の数が多いんだ? まさか全部ドレスじゃないよね?
箱を次々に開けていくと、全部ドレスでした。本当にありがとうござry
家から届いたドレスをベッドに並べて私はうんうん唸っていた。
可愛い系、清楚系、美人系、クール系、ナチュラル系etc.……母よ、あなたのセンスが分かりませぬ。
「私に似合うのはどれなんだ! 見た目的には可愛い系、清楚系、ナチュラル系のどれかか」
ぐぬぬぬ、と呻く私にコレットが頭を傾げる。
「どうしたのぉ? リアちゃん難しい顔してぇ」
「あぁ、コレット……。私って何系に見える?」
虚ろな目でコレットに問いかける。
「ナニケイってなにぃ?」
「あー……私に似合うドレスってこの中ではどれかってこと」
「う〜ん」
コレットが真剣にドレスと私を交互に見比べる。
「リアちゃんはねぇ、可愛らしくてぇ、ふわふわしてるからぁ、コレかなぁ?」
そのドレスはAラインのドレスで、スクエアネックにパフスリーブになっていて、スカート部分はティアードになっている。
清楚さと可愛さが融合したドレスに、コレットの真贋に素直に感嘆した。
そこへヴィッキーが部屋に戻ってきた。図書館で本を探し終えたのだろう。
ヴィッキーは自分の机に本を置くと、私たちの方へやってきた。
「なに、このドレスの山は」
「それがですな、お茶会用のドレスを送ってほしいと実家に頼んだら、とんでもねぇ数のドレスが送られてきました」
ふーん、と気のない返事をしつつ、ヴィッキーは「これ、あなたに似合うと思うわ」
ヴィッキーが選んだのはマーメイドラインのドレスでVネックにノースリーブという、前世のキャバ嬢だった時に来てても違和感ないドレスだった。
しかしこの世界観でこのドレスを着たら明らかに悪目立ちする。私の体のラインに合わないし、セクシーすぎる。
「ヴィッキー、あなた意外なセンスの持ち主だったんだね」
ヴィッキーは鼻で笑う。
「お茶会なんて目立ってなんぼでしょ。初手に目立って場の空気を自分が掴む、そこから参加者各々に商談をさり気なく持ちかける。商売人舐めないで」
「舐めてませんし、怖いですヴィッキーさん。私がこれを着て言ったら悪目立ちするだけですよヴィッキーさん」
分かってないわね、と頭を振りながらヴィッキーさんは言う。
「悪かろうが良かろうが、集団に個が埋没しないためには努力を惜しまないことよ! 商売のためにはどんなことでもしなきゃいけないのよ!」
「いやいやいや、ヴィッキー待ってくれ。私が行くのはヴァレンテイナ様のお茶会であって商談しに行くわけじゃないからね? 下手に悪目立ちして“コイツ気に入らねぇ”ってなったら、そこで私の人生終了なんだよ? 分かってる?」
「なによ、意気地がないわね」
「意気地の問題じゃねーよ! 私の生死がかかった命懸けのお茶会だよ! そこは分かれよ!」
「あっそ、なら好きなの自分で選びなさいよ」
気を悪くしたのかヴィッキーは自分の机に戻っていく。
「コレット、私はあなたのセンスに命を預けるわ」
黙っていたコレットがニコニコ朗らかに笑う。
「私の選んだの気に入ってくれたんだねぇ。お茶会楽しんでねぇ。ついでにお茶菓子貰ってきてねぇ」
「そんな余裕あるわけねーよ! でもドレス選んでくれたから頑張ってみる! ありがとう!」
よし。戦闘服は決まった。
あとは来る日に戦場に向かうだけだ。
とにかくヴァレンテイナ様の機嫌を損ねない、目立たない、会話は最小限で、余裕があればお茶菓子をテイクアウトする。
これでどうにかなるはずだ。なってくれないと斬首刑が待ち構えてる。それだけは絶対に嫌だ。何度でも言う、死ぬのは嫌だ!
さぁ、いつでもかかってこいやぁ! お茶会!