あなたといる世界はとても素晴らしい。
もう迷うのはやめた。
自分の神経を擦り減らすだけの行為は不毛すぎる。
それを教えてくれたのはザフィールだ。
これがたとえ世界の強制力だとしても構わない。俺は自分を信じると決めたし、ザフィールの事も信じる。
翌朝、リア嬢がセルペンス寮までやってきて、いきなり俺に頭を下げたからびっくりした。
そこへエリックとアルヴィンまで来たから更に驚いた。
「昨日はごめんなさい! 私、ティナちゃんの事を何も考えないで責めるようなこと言って、本当にごめんなさい!!」
アルヴィンが頭を掻きながら、気まずそうにしている。
「オレも悪かった。リアの事ばっか考えて、お前のことを考えないで言っちまった。すまねぇ」
エリックは更に気まずそうにしている。
「双子の片割れなのに、僕は君を理解しようと努力をしてこなかった。凄く独りよがりだった、ごめん。兄妹だからといって、言っていいことと悪いことがあるのも忘れてた。僕をまだ兄だと思ってくれてるなら……その、嬉しい」
「みんなしけた面してんな」
三人がバッと顔を上げる。
「俺はもう迷わないって決めたし、ザフィールも俺がどっちでも構わないって言ってくれた。ザフィールが俺を信じてくれてる限り、俺は自分を信じるって決めた」
リア嬢が戸惑いながら聞いてくる。
「それって、つまり……」
「ザフィールが俺を好きだって言ってくれたから、俺は自分を好きになるよう努力する。それにザフィールの事も……その、少しだけ好き……かもしれない」
リア嬢が突然俺に抱きついてきた。
「ごめんなさいティナちゃん! それから私もザフィールくんのこと知るように努力する! 私を一度は好きになってくれた人が信頼する人なんだもん、信頼するように頑張る!」
「あー……オレは王太子としてザフィールを知ることから始める」
「僕は大切な妹を預けても大丈夫な人かどうか、しっかり見極めるよ」
「今更兄貴面すんなバカ」
「そうだね。兄としてもっと早くに妹の苦しみを理解するべきだった。双子なんだから、尚更だよ」
なんだか微妙な空気に耐えきれない。俺は頭を掻きむしった。
「もうやめだ、やめやめ! 辛気臭いのはもう十分だ!」
そこで俺はリア嬢に抱きつかれてるのに、胸が痛くない事に気づいて戸惑った。
「お、怒ってる?」
リア嬢が俺に抱きついたまま伺う様に見上げてくる。こうして見ると凄く可愛いのに、何でかやっぱり胸が痛くない。
「怒ってたけど、今は怒ってない」
俺はリア嬢を自分から引き剥がした。
「おや! みんなお揃いでどうしたんだい?」
何故かセルペンス寮にザフィールがやって来た。
「あぁ、なるほど。昨日ティナ嬢に酷い事を言ったことを謝りに来たんだね」
ニコリと笑うザフィールは、中々いい性格をしていると俺は思った。
「なんで分かるかって? そんなの、天気を読むより簡単だよ。みんなの顔が昨日はごめんなさい! ってジメジメした顔をしてるからね」
あれ? もしかしてザフィール怒ってる?
「まぁ、君たちのお陰で僕はティナ嬢の心を射止められそうなんだから、むしろ感謝すべきかな?」
これ、怒ってるわ。なんかわからんけど、スゲー怒ってるわ。
「ティナ嬢、こんな湿度の高い所にいたらこっちまで辛気臭くなる。さぁ、行こう!」
そう言うとザフィールが俺の手を取った。
「ちょ、行くってどこに!?」
「それは風の吹くまま気ままにさ」
「待てって! 授業はどうするんだよ!」
「一日サボったくらいで、どうにかなる頭をしてないからね。君もそうだろう?」
グイグイ引っ張られて俺は無理やりセルペンス寮から外へと引き摺り出された。
「おい! ザフィールなに怒ってるんだよ!」
ザフィールが立ち止まる。
「凄い進歩だよ! 君は僕が感じてた感情を理解した。それって僕を注意深く観察してないとできないことだよね。嬉しい」
「だから! そういうことさらっと言うのやめろよ、恥ずかしい!」
「それは申し訳ない。でも僕はこう見えても一応王太子だからね。好きな人には紳士であれと教育されてきたんだ」
「嘘くせー」
「そう思うのもまた良し。さぁ、どこに行こうか!」
「あー……どこでもいい」
「その投げやりな感じもいいね! 新しい君を知れば知るほど好きになるよ。どうすればいい?」
「なっ、そんなん知るか!」
ザフィールはからから笑う。本当に楽しそうに。
俺はこいつとなら、一緒にいても多分飽きずにいられるんだろうな、と漠然と思った。
要するに、ザフィールと今はまだ一緒にいたいってこと!




