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自分が分からなくても分かってくれる人が必ずいるのです。


 


 俺は今、学園の裏庭にある東屋で詰められてる。

 

「何で言っちゃったの?」

 

 リア嬢が眉をひそめてる。俺の隣に座るエリックも同様だった。

 

「僕もリア嬢に同意だ。この世界のことや、お前の能力のことは他人にやすやすと言うべきじゃない」

 

「でもザフィールは軽々しく誰かに言ったりしない」

 

 俺は反論した。


「そんな事は分かんねーだろが。あいつは生粋のギャンブル好きだぞ。そんな奴の口が固いとは思えねぇな」


 ザフィールのことを知らないくせに、エリックもリア嬢もアルヴィンも好き勝手に言ってくる。

 俺はあれからみんなに黙ってるのはフェアじゃないと思って、こうやって打ち明けたのに、なんでこんなに責められなきゃいけないんだ?


「ザフィールのことを何も知らないくせに、なんでそんなこと言えるんだよ」


「私は世界の強制力が怖いの。ティナちゃんがザフィールに肩入れするのも、世界の強制力かもしれないんだよ?」


「たとえ世界の強制力が働いていたとしても、俺はザフィールを信じてる」


「目を覚ませティナ。お前がザフィールに親近感を抱くこと事態がリア嬢の命の危険に繋がるかもしれないんだぞ? 僕はリア嬢やアルの過去を覗いたから分かる。せっかく僕とアルが努力して、リア嬢の命の危機を回避したのに、お前はまた元に戻そうとしかけてるんだぞ」


 エリックが偉そうに言ってくる。


「俺がリア嬢に何かするなんてありえない! 最初に言っただろ!? 元の世界でどれだけ俺が苦しんだかを!」


 リア嬢が悲しげな顔をする。そんな顔をさせたくないのに……。


「てめーが心が男だって分かってんのか? ザフィールと結ばれたらどうなるかまで考えてんのか?」


 アルヴィンが言う。


「少なくとも、この中の誰よりもザフィールは俺のことを知ってくれてる」


 エリックが聞き分けのない子供を説き伏せる様に言う。


「いい加減にしろティナ。その気持ちは偽物の気持ちだ。本当のお前ならそんな感情を抱くのはおかしい」


 俺は頭の中でブチッと音がするのを聞いた。


「いい加減にするのはみんなの方だ。ザフィールへの信頼が偽物なんて、どうして言い切れる? エリック、お前の能力を使えば簡単に分かるはずだ。ザフィールが俺のことを本気で心配してくれてるってな」


「ティナちゃん……」


 リア嬢が哀れみを含んだ瞳で見つめてくる。


「そんな目で俺を見るな! みんなに分かるわけないんだ! 心と体がバラバラになってる感覚を味わったことがあるのか? みんなは心と体が一致してるからそんな事が言えるんだよ! 俺は生まれてからずっと二つの人格を持って生きてきたようなもんだ! みんなに俺の気持ちなんか分かるわけない!!」


 俺は立ち上がって東屋を飛び出した。

 何故誰も分かろうとしない? それは分からないからだ。生まれてからずっと違和感を抱えたまま、十六年も生き続けてきた地獄を知らないから、あんな事を軽々しく言えるんだ。

 せめてリア嬢にだけは理解してほしかった。

 だけど駄目だった。何一つ分かってもらえなかった。

 俺だけがこんなに苦しめられるなんてフェアじゃない。何もかもがアンフェアだ。

 俺は無性にザフィールに会いたくなった。あの馬鹿みたいに明るい笑顔が見たい。無神経そうに見えて、本当は誰よりも俺を気遣ってくれる。


 そんな事を考えてたせいか、俺はアクイラ寮にいつの間にか行ってた。監督生にザフィールと会いたい旨を知らせると、長居はしないようにと釘を刺された。


 ザフィールの部屋に行くと、物凄く驚かれた。話がしたいと言ったら更に驚かれた。

 ここじゃ何だからと、寮を出て誰も使っていない塔へと俺を導いた。

 塔の中にあった椅子に座ると、ザフィールがめちゃくちゃ心配してきた。酷い顔をしてるって。失礼な奴だと思いつつ、やっぱり分かってくれるのはザフィールだけなんだと再認識した。


「ザフィール……俺、もう疲れた」


 自分の手のひらを見ながら言った。


「お前に秘密を明かしたことを言ったんだ。そしたらめちゃくちゃ責められた。ザフィールを信頼してるのは、世界の強制力のせいだって、勝手に断言された」


 手のひらに水滴が落ちた。ぼとり、と。


「なぁ、ザフィール。俺は間違ってんのかな? エリックとリア嬢とアルヴィンにザフィールの事を信用するなって言われて、俺……俺は……」


「あぁ、辛かったんだね。でも三人の言い分も分かる気がするよ」


「なんでだよ! お前自分が悪く言われたんだぞ? 何で怒らないんだよ!」


「きっと三人は君のことが心配だったんだよ。僕が架空の──この世界で君と結ばれるなんて事になったら、苦しむのは君だって分かってたんじゃないかな」


「そんなことない……」


 俺は涙を乱暴に拭った。


「あぁ、そんなに擦ったら駄目だよ」


 ザフィールが俺の顔を覗き込み、そのまま顔を近づけてくる。唇が触れそうなほど近くまで来て、俺はザフィールを突き飛ばしてしまった。


「ね、こういう事だよ」


 俺の心臓が早鐘を打ってる。今、ザフィールに対してなんて思った?


「怖かったんだろ?」


 そう……怖かったんだ。ザフィールが俺を女として見てると感じたから怖かった。


「僕は君が女だろうと男だろうと気にしないけどね。好きになった人が僕の好みだから」


 屈託のない笑顔でザフィールが言う。


「君は自分がどうありたい? 女として生きたい? それとも前世の男のままとして生きたい? それとも──」


 ザフィールが言葉を区切る。


「どちらも自分だと受け入れて生きたい?」


 女の俺も男の俺も、どっちも俺でいいなんて考えたことすら無かった。

 どちらかに決めないといけないと、ずっと思い込んでた。


「俺は……どっちの俺でもいいのか?」


「勿論。それもまた楽しいじゃないか。二つの性を生きるなんて経験、中々出来ないからね」


 あぁ、そうか。どっちかにしないといけないと思い込んでたから、あんなに苦しかったんだ。別にどっちでも良かったんだ──。


「何でザフィールはいつも俺がほしい言葉をくれるんだよ。ズルい」


「あははっ。そんな風に言われたのは初めてだよ。でも悪い気分じゃない」


 俺は気になってたことを勇気をだして聞いてみた。


「ザフィールは俺のこと……その、す、好きなのか?」


 心臓が痛いくらいバクバク鳴ってる。


「そうだなぁ、最初は生真面目でやりにくい人だな、って思った。けど、あの賭場で僕に説教した君が、駄目な僕を変えてくれた。それからかな? 君のことが気になり始めたのは。一緒にいて楽しい人だなって、思うようになった」


 頬が熱い。なんでザフィールはこんなに素直に感情を吐露できるんだろう。


「それから坂道を転がるように、君を好きになってたよ。不器用で意外と泣き虫な君を」


 どうしてそんなに簡単に言えるんだよ。俺が悩んでたのが馬鹿みたいじゃないか。


「君は僕の事、好き?」


 ……少なくとも嫌いじゃない。友達としては好きだけど。でも、今はその感情を超えた何かになりつつある。


「嫌いじゃない……少しだけ……本当に少しだけ、好き……かもしれない」


 またザフィールが笑う。


「僕は君のそういう所も好きだよ。素直になるのは良いことだと思ってる」


「お前ズルいんだよ……なんでこっ恥ずかしいことを平然と言えるんだよ」


 頬どころか顔が熱くてたまらない。


「その様子じゃあ、少なくとも未来に希望は持てそうかな」


「言ってろ、バカ」


 こんな関係があってもいいんだって、教えてもらえた俺は、とても気持ちが楽になった。


 

 

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