たまには羽目をはずしましょう。
俺とザフィールは街に繰り出した。
道中、ザフィールとくだらない話をして盛り上がったり、街行く女の子を寸評したり(最低だが)、男二人なら食べにくい甘味も俺がいるから食べられたり、服屋に入って冷やかしたり、とにかくバカばっかやった。
夕方になると、夕日の綺麗さに思わず二人とも黙り込んで魅入ったりしてた。
「今日は楽しかった。久しぶりに“俺に”戻れてよかった」
「そっか。ならよかった。僕も凄い楽しかった。ずっと学園の中にいるのも息が詰まるからね」
ザフィールはそこで黙り込んだ。
「僕も、君に隠してたことがある」
ザフィールを見ると、真剣な横顔をしていた。
「言いにくい事なら無理して言わなくていいぞ」
「いや、そうじゃない。初めて君と会った日に雨が降っただろ?」
俺は頷いた。
「あれをしたのは僕なんだ」
「今度はなんの冗談だよ。人が天候を操れるとでも言いたいのか?」
「そうだよ。僕にはそれができる。だから俺の父はその力をもっと強力にするために、魔法学園へと入学させたんだ」
初めは凄く嫌だったけど、とザフィールは顔を歪めた。
「見てて。今から雨を降らして見せるから」
ザフィールは天を見上げると、ジッと何かに集中した。俺はからかわれてると思って話半分に聞いてた。
だけど雲一つない空に次第に分厚い雲が集まり始め、ポツリポツリと雨粒が俺の頬に当たる。
ザフィールを見ると、額に汗をかいている。
雨粒はどんどん降り注ぎ、しまいにはザーッと大雨になった。
「もういい! 分かったからやめろ!」
ザフィールがハッ、と短く息を吐いた。
「これで信じてくれた?」
俺は黙って頷いた。
「エシュカーラは砂漠の国だって言っただろ? 雨は恵みなんだ。過去にも似たような力を持った者が現れたらしくて、その度に雨乞いの儀式をさせられたって言い伝えられてる」
ザフィールは額の汗を拭った。雨が降ってるから汗なのか雨粒なのか分からなかった。
「父は僕の力を凄く喜んだ。日照りが続くと、その度に僕が駆り出された。でも、僕はこの力が好きじゃない」
「どうして?」
「自然に反する力はいずれ災いをもたらすと僕は思ってる。神に背く行為だからね」
ザフィールが心底嫌そうな顔をした。
「それを言うなら俺だって神に背く能力を持ってる」
ザフィールが怪訝な顔をする。
「前にお前を賭場で見つけ出しただろう? 不思議に思わなかったか?」
「……言われてみれば確かに俺を見つけ出したのは不自然かもしれない」
俺はザフィールの手を握った。そして力を使う。
「君は少し前の記憶をなくす」
手を離すと、ザフィールがしきりに頭を振ってる。
「なんだ、この感じ。僕は何をしてた?」
「君が天気を操れる能力なら、俺は人の記憶を消して新たな記憶を上書きできる能力を持ってる」
ザフィールが唖然としている。
「僕、君に能力のことを話した?」
「話したよ。実践もしてくれた。だからほら……こんなにも雨が降ってる」
「君の能力は記憶を消す……」
「消して新たな記憶を植え付ける」
ザフィールは混乱している様子だったが、すぐに納得したようだった。
「これ以上、君の能力はないよね? あるなんて言わないでくれよ」
俺は笑った。
「さすがにないよ。でもこの能力は君の能力みたいに、神に背く力かもしれない」
俺は濡れた髪を絞って水分を飛ばした。
「その能力を知ってる人は僕以外にいるの?」
「いる。双子の兄エリック、リア嬢にアルヴィン様、それとリア嬢の友達二人」
「結構知ってる人がいるんだね。俺は誰にも自分の能力を明かしたことはない……いや、校長だけは知ってるけど」
「俺風魔法そこまで得意じゃないんだ。お前は?」
「天気を操れるんだから当然得意だよ」
そう言ってザフィールは風魔法を使って俺を乾かしたあと、自分も乾かした。
「でもまさかデートの終わりにこんな事が待ち受けてるとは思いもしなかったよ」
「なにさらっとデートとか言ってんだお前は」
俺は思い切りザフィールの肩を拳で叩いた。
「痛っ! 冗談だって! マジで痛いから叩くのやめろって」
「舐めた口きくからだ」
「へーへー。でも楽しかっただろ?」
「それは認める」
ザフィールは得意満面といった風だった。
「お前はそうやってすぐに調子に乗りやがって」
「痛っ! だからマジで痛いからやめろよ!」
痛いと言いながらザフィールは笑ってる。なんかこういうの、凄い久しぶりでいいな、と思ってる自分がいた。
「それじゃあ帰るか。ヴァレンテイナ嬢」
「その言い方やめろよ。ティナでいい」
「ではティナ嬢、そろそろ帰りましょう」
紳士の礼をして、ザフィールは俺に手を差し伸べる。俺は躊躇ったが、結局ザフィールの手を取った。もう背中はゾワゾワしなくなってた。




