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心と体のチグハグな感じ。


 

 

 間に合わなかった。大好きな人がピンチに陥ってるのに。

 体が言うことを聞いてくれなくて、ただ恐怖しか感じていなかった。あの日、ネットニュースで見た素っ気ない杏奈さんの死亡記事。

 世界が終わったような気がした。あんなに大好きな人が、何故死ななければならなかったのか。

 杏奈さんに会いたかった。何も出来なかった俺を許して欲しかった。

 俺の好きは本当に好きだったのか?

 ちょっと気になるキャスト程度だったのか?

 分からない。何もかも分からない。

 ゲームの世界に転生するなんて、バカみたいな話しが現実で、杏奈さんもあのヤクザも、そして俺も死んだ。多分、だから転生したんだ。

 いるかどうか分からない神様が、第二のチャンスをくれたのか? だったら何故俺だけ女に生まれ変わった?

 杏奈さんが愛おしそうにヤクザを見つめる度に俺の心の傷が増えていく。ドロドロした醜い感情が生まれては消えていく。

 俺だけがこの世界で異物なんだ。ふわふわと浮いてる状態。誰も俺の本音なんか気にも止めない。

 最悪の気分だ。こんな苦しい思いをするなら、この世界に生まれたくはなかった。

 誰も味方がいない、こんなクソみたいな世界なんて、大嫌いだ──。


 ハッと意識が一気に浮上する。

 荒い呼吸のまま、見慣れない天井を見つめる。


「やぁ、目覚めたかい、眠り姫」


 声のする方へ顔を向けると、ザフィールがいた。

 彼はいつもと変わりない調子で俺に話しかけてくる。


「それにしてもエルリア嬢も馬鹿だね。自分から川に落ちるなんて。それを躊躇いなく助け出したアルもだ」


「二人は無事なのか……?」


「あぁ、ピンピンしてるよ。リア嬢はみんなにこっぴどく叱られていたけどね」


「そう……良かった。死ななくて良かった……!」


 涙がボロボロ溢れては零れていく。

 ザフィールはそんな俺の顔をハンカチで優しく拭ってくれる。


「ずっとお前に嘘をついてた」


「どんな嘘?」


「言っても信じてもらえない」


「それは聞いた側が決めることだよ」


 涙はいつまで経っても止まってくれない。


「ザフィール……俺が男だと言ったら信じてくれるか?」


 ザフィールは動きを止める。


「どう見ても君は女性にしか見えないけどなぁ」


「そうじゃないんだ! そうじゃない……俺は心が男なんだ」


「心が男……?」


「そう、生まれた時からずっと男なんだ……」


 俺は前世の話をした。多分、いや絶対に話してはならないだろう事を俺はザフィールに話していた。

 地球のこと、キャバクラでボーイをしてたこと、大好きだった人が殺されたこと、その人がリア嬢であること、でもアルヴィンがいるから報われないこと、生まれてからずっとチグハグな体と心が辛くて堪らなかったこと、全部全部、ザフィールに吐露していた。

 ザフィールはいつもみたいに茶化すわけでもなく、ただ静かに聞いてくれていた。淀んでいた心が洗い流されていくようだった。

 

「俺はいまだにリア嬢への未練が断ち切れない。アルヴィンがいる場所が俺だったら、って何度も思った。でも女の俺がリア嬢と付き合えるわけもないし、そもそもリア嬢はアルヴィン以外は視界にすら入ってない。本当にクソみたいな人生だよな」


「君はエルリア嬢とそういう関係になりたいのか? それとも本当は未練を断ち切りたい?」


 ザフィールは残酷な質問をしてくる。


「どっちも嫌だ……」


 ふむ、とザフィールは腕を組む。


「だったら俺がエルリア嬢への想いを絶ち切ってあげるよ」


 俺は思わずザフィールを見た。


「さっきの話を聞いていなかったのか? 俺は男なんだぞ?」


「別に気にしないけどね。君が君であるという芯を持ち続けられるのなら、俺は君とお付き合いをしてみたい。だって、ゲームってやつの世界でも君は俺と結ばれるんだろう? 何の不都合があるのさ」


「ゲームの世界と現実は違うんだ! お前は何も分かってない!」


「分かってるさ。君は自分のことを恥じてる。何故? 君が恥じる必要なんてどこにもないじゃないか。体と心がバラバラでもいい。僕は君という人と付き合ってみたいんだ。だって面白そうじゃないか」


 ザフィールは全て理解した上で俺と付き合ってみたいとのたまう。そんなの俺は……無理だ。無理? 本当に無理なんだろうか……?


「別に体の関係だけがお付き合いってわけじゃない。心の結びつきがお付き合いの場合もあるはずだろ?」


「心の結びつき……」


「そう。あ、そうだ! 今度一緒にどこかに遊びに行こうよ! 難しい事なんか忘れてさ、パーッと思い切り遊ぶんだ」


 ザフィールは名案だと言わんばかりに顔を輝かせた。

 何だか可笑しくなってきて、俺は笑ってしまった。


「やっぱり君には笑顔の方が似合うね。暗い顔は似合わないよ」


「お前が笑わせたんだろうが」


「じゃあ、僕には笑いのセンスがあるって事だね」


「そういうのは自分で言うもんじゃないっての」


「いいじゃないか。自分から言っても減るもんじゃないんだし」


「てか、さっきから何で変な顔してんだよ! やめろよ、笑いが止まんないだろ!」


「何の事を言ってるか分からないなぁ」


 俺はザフィールの言葉と変顔に、久しぶりに声を上げて笑うことができた気がした。



 

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