唐突な合同デートです。
ザフィールは真面目にやってることをアピールする為にか、ほぼ毎日俺に会いに来た。正直めっちゃ鬱陶しい。
「君は将来、どこぞの貴族と結婚をするのかい?」
ザフィールの唐突さに段々慣れてきてる自分がいた。
「恐らくないわね。修道院にでも入るわ多分」
「なんだって? 君なら引く手数多だろうに、なんでそんな事をする必要がある?」
「決して報われない想いを抱えているからよ」
ザフィールは鼻で笑う。
「俺なら好きな相手がいたら、どんな手を使ってでも手に入れるね」
「王太子という立場を使ってでも? それで相手が不幸になったとしても?」
ザフィールは口篭る。
「あなたには分からないわ絶対に。この世には決して明かしてはならない想いがあるのよ」
ザフィールは黙り込んだ。何かを言おうとしては、止めてしまう。それを何度か繰り返すと、ザフィールは黙ってその場から去っていった。
+++
「今日は気分転換に街に繰り出そう!」
リア嬢も唐突な人だという事を忘れていた。
「たまには女子会も良いと思わないか君たち!」
「女子会って何よ」ヴィッキーさんが聞く。
「女子が集まって、楽しくワーワーすることだよ!」
「それならあんた毎日女子会してる様なもんじゃない」
「シャーラアップ! 人の揚げ足取らないのヴィッキー!」
「あの、俺……私は女子じゃないんですが」
「見た目女子だからおーけー!」
なんて適当な判断基準なんだ。
「というわけで、ちょっとおしゃれして街に繰り出そうぜ! 外出許可証なら四人分ゲットしといたからね! できる女はひと味違うね!」
「さて、なにを着ていこうかしら」
「私は動きやすい服がいいかなぁ」
「おい、そこのヴィッキーにコレット! わかりやすく私を無視すんな!」
「ティナちゃんも早く着替えてきたほうがいいわよ」
ヴィッキーさんが言ってきた。
「うっす」
「言葉遣い!」
リア嬢が俺をビシッと指差す。
「……分かりましたわ」
そしてサムズアップされる俺。忙しないなリア嬢。
一度セルペンス寮に戻り、クローゼットの中身を漁る。どれも金のかかったドレスばかりでうんざりする。
その中から、何とか浮かない程度のドレスを選び、俺はそれに着替えた。
化粧は基本しない。やり方わからんし、元の作りが完璧だからメイクしなくても十分にいける。ヴァレンテイナすげーな。
正門前に集合した俺達は、さて今から街に繰り出そうか、といったところで、意外な人達と出会う。
「アル様! どうしてここに?」
「お前の方こそなんでここにいるんだよ」
相変わらず態度がヤクザなアルヴィン様だ。
「やぁ! ヴィッキー! 君も外出するのかい?」
「……なんであんたここにいるのよ」
凄いキラキラしてる水色の髪の男子がいる。確かニールスだっけか。
「コレット! 君もどうして?」
「今日は女子だけでぇ、お出かけするんだよぉ」
びしっと直立不動のままコレットさんに尋ねるのは、ヴァルターだ。え、コレットさんともしかして付き合ってる?
「やあ、やあ! ヴァレンテイナ嬢。君もお友達とお出かけかい?」
ザフィールまでいる。なんだこの異様な組み合わせは。
「はーい! 今から合同デートに変えまーす!」
みんなが好き勝手に言い合ってる。そもそも俺とザフィールはそんな中じゃないのに、リア嬢適当すぎんか?
「はいはーい! 文句言わずにみんな仲良く街ブラデートしましょう!」
リア嬢の謎の仕切りで、俺達は急遽女子会から合同デートに切り替わった。
街に出るとリア嬢とアルヴィン様はラブラブ(主にリア嬢が)で、ヴィッキーさんは嫌々な態度を崩さないけど、なにげに水色美少年と手を繋いでるし、コレットさんにいたっては、ヴァルターさんと長年連れ添った夫婦みたいな雰囲気が漂ってる。
唯一浮いてるのは俺とザフィールだけだった。
「あの、凄い不思議なのだけど、男子のメンバーは誰が集めたの?」
ザフィールに尋ねると、彼はアルヴィン様を指差した。
「アルがさ、たまには街に出て気分転換したいって言い出してさ、何だかよく分かんないけどこんな人選になったんだよね。まさかみんな恋人がいたなんて、ついさっき知ったよ」
アルヴィン様、絶対にゲームの主要キャラに探りを入れる為に集めたな……。
「それにしても、みんな仲いいよね。何なら俺と仲良くする? ヴァレンテイナ嬢」
「吐き気がするからやめてください」
「え、俺酷い言われようなんだけど」
ケラケラと笑うザフィールは堪えた様子はない。
まぁ、少なくとも一緒にいて苦痛でないのは確かだ。
そこでふと気付く。
「エリックがいない……」
「お、そこに気付いちやった? アルも中々酷いよね。“お前には用がないから行かなくてもいい”って本人の前で言うんだよ?」
多分、エリックの人となりを知り尽くしてるから呼ばなかったんだろうな……。
哀れな兄に思いを馳せてると、ザフィールが俺の手を取った。
背中がゾワゾワする。
「やめてください」
俺は思い切りザフィールの手を振り払った。ザフィールは駄目かー、とか言いながら俺の隣を歩いてる。マジでキモい。
川の上の橋に差し掛かった頃、リア嬢が欄干に登ると、「みんな見て見てー!」と明るい口調でアピールしてきた。
いや、普通に危ないんだが。
「おい、危ないから下りろバカ」
アルヴィン様が至極真っ当な事を言った。しかしそれに気を悪くしたのか、リア嬢は欄干の上で謎のポーズを取ってる。早くアルヴィン様下ろして差し上げろ。
そんな事を思っていると、リア嬢の右足がズルッと欄干の縁から踏み外す。
そうなれば体のバランスが一気に崩れ、リア嬢の体が橋からずり落ちて、川へと真っ逆さまに落下していく。
その場にいた全員がリア嬢の名前を呼ぶが、俺は硬直したまま動けなかった。
前世で杏奈さんが亡くなったニュースを見たのを思い出してしまった。
誰よりも早く動いたのはアルヴィン様だった。
彼は欄干に足をかけると、迷い無く川へと飛び込んだ。
みんなが二人を呼んでいる。少しして橋の下から二人の声がした。
「あんた何馬鹿なことしてんのよ!」
ヴィッキーさんが怒り狂ってる。
他の面子もそれぞれリア嬢に何かを言ってるが、俺は何も聞こえなくて、ただ世界が回っていくのを感じた。息が苦しい……胸が痛い……誰か助けて……
倒れそうになったところで、誰かが俺を支えてくれた。ザフィールだった。
「いき、が……できな……」
これは多分過呼吸だ。頭では分かっているのに、体が言うことを聞いてくれない。手足がどんどん冷たくなってきて、このまま死ぬんじゃないかとさえ思った。
「大丈夫だよヴァレンテイナ。僕がいる。ほら、ゆっくりと深呼吸をしてごらん」
ザフィールの言う通りに、不器用ながらも深呼吸を繰り返す。すると過呼吸がマシになってきた。
でも意識が朦朧としてて、立ち上がることすら出来ない。
「ザフィール……助けて」
「助ける。僕が助けるから、そのままで大丈夫」
視界がぼやけていく。そして俺はついに意識を手放した。




