ギャンブルはほどほどに。
無理をしなくてもいいと言われたが、ザフィールは個人的にムカつく相手に変わりはなかったから、ヤツに何か仕返し……とまではいかなくても、それに近いことをしてやりたかった。
とはいえ、俺はセルペンス寮生で奴はアクイラ寮生。接点がなさすぎる。合同授業ですら、ヤツに近づくことができない。
しかし、あのヤクザ……もといアルヴィン様がヤツをギャンブラーと言った根拠は何だろうか?
中庭の回廊で考えに耽っていたのが悪かったのか、功を奏したのか、ともかく望む相手の方から俺に接触してきたのだ。
「ヴァレンテイナ嬢。今日も天気で賭けてみるかい?」
ハッとして顔を上げると、思ったより間近にザフィールの顔があって俺は仰け反った。
「な、何ですの急に」
「いやぁ、この前はケチがついたからね。今度は正々堂々と賭けを持ちかけてるのさ」
「あなた、学生なのに賭け事が好きなの?」
「あぁ、好きだね。結果が出るまでのワクワク感は何物にも代えがたい。君はそうは思わないかい?」
俺はここがチャンスだと思った。
「……確かに、言われてみればそうかもしれませんわね。ですが、天気を賭け事の対象にしても、さして面白くはありませんわ」
ザフィールの目の色が変わるのを俺は確かに見た。
「だったらどんな賭け事なら満足するのかな?」
「そうですわね……何かもっとゲームの様なもので賭ければ楽しいのではありませんこと?」
「いいね! だけどそんな事をする人がいるかな?」
「よほどの賭け事好きでなければしませんでしょうね」
「だよねぇ。そんなバカをする人がいたら見てみたいよ」
ザフィールは嘘をついてる。コイツは確実に何らかの賭け事をしている。でもどこで?
考え込みながら俺は頭を悩ませた。
+++
その夜、俺は窓の外をぼんやりと眺めていた。煌々とした月明かりの夜だった。
俺はふと何かが煌めくのを視界の端に捉えた。
ジッと見ていると、それは塔の間を縫うようにして走っている。
こんな時間に出歩く馬鹿がいるのかと見ていると、月明かりに照らされたその人物の髪が見えた。
砂の色のような髪色。──ザフィールだ!
あいつこんな時間に何やってんだ? と目を凝らしていると、塔を囲う壁に直進した。するとあいつの姿が突然消えた。
なんでだ?! と疑問に思うが、それよりあの場所に行った方が早いと俺は判断した。
動きやすい服に着替え、俺は監督生に見つからないように外に出た。
外に出ると思ったより月明かりが明るくて、俺は躊躇う。見つかったら何らかの罰則が与えられる筈だ。けれどもザフィールの行方も気になる。
俺の心の天秤にかけたところ、ザフィールの行方を探すの方に大きく傾いた。
先ずは奴が消えた場所に向かう。上から見るのと実際にその場で探すのとでは、分かりやすさが段違いだ。確か方角はこっちであってたはず。
俺は塔の影に隠れながら走っていく。ザフィールが消えたのはあの壁……ん?
壁を凝視すると下の方に壁が崩れ落ちて穴が空いてるのを発見した。低木にうまいこと隠れるようになってて、一見したら分からなくなってる。
「魔法を使ったわけでも何でもなかったんじゃねーか!」
俺は文句を言いながら穴をくぐり抜けていく。
すると簡単に外に出ることができた。あの野郎、マジふざけんな。
外は学園とは違い、魔法の明かりで煌々と街が照らされていた。
なるべく人に見つからないよう、避けながら俺は街を歩いた。
ザフィールはどこに行った? ギャンブラー……が行く所……賭場しかないよな。
でもこの街の賭場なんて、一体どこにあるのか俺には分からん。
どうすりゃいいんだよ……。
「あ、あるじゃん」
俺の能力を使えば簡単に見つかるはずだ!
俺はなるべく街の事情に詳しそうな人を探し出す。そこへベロベロに酔ってるおっさんを発見した。こういう奴なら何か知ってそう。
俺はおっさんの背後に張り付き、そっと背中に触れた。
「ここ街で有名な賭博場に行け」
手を離してしばらくすると、おっさんはふらふらしながら川沿いに歩いていく。俺はおっさんの後を追う。
川沿いに歩くと下へ降りる階段があった。おっさんは階段を下りていき、そのまま歩いていく。川沿いの下にはメンテナンス用の小屋があるのみだ。
このおっさんを選んだことを早々に後悔していると、おっさんはメンテナンス用の小屋の一つに躊躇いなく入っていく。
おかしいと思った俺は少しだけ間を置く。するとおっさんが首をかしげながらまた出てきた。能力が切れたのだろう。
俺は意を決して小屋の中に入っていく。
中はロープやら木の板やら、なんかよく分からん道具で溢れかえっていた。
賭場なんて無かった。やっぱり人選をミスったみたいだ。俺は肩を落として小屋から出ていこうとしたその時だった、人の話し声が聞こえてきたのだ。
ハッとして俺は動きを止めた。音の発生源を探す。
下だ、下から聞こえてくる。足で床板を軽く踏み鳴らしていく。するとひとつだけ床板が大きく弛む場所を見つけた。
俺はそこの床板をずらすと、階段が見えてきた。そのまま俺が入れる分まで床板をずらす。そして階段を下りていくと、そこには全く違った光景が広がっていた。
魔法のランプがあちこちに置かれており、丸いテーブルには大人たちが座ってカードゲームやルーレット等で賭け事をして遊んでいる。
「おい、嬢ちゃん、ここは子供の来るところじゃねーぞ」
カウンターで客に酒を出している男が俺に言ってきた。
「あ、あの、私人探しをしてまして! 髪の色が砂の様な男の子を探してるんです」
「髪が砂の色? おい、カール、そんな奴いたか?」
「知らねぇよ。俺に聞くんじゃねぇよ」
賭場だがここでは無かったのかと落ち込んでいると、いきなり手首を掴まれた。
びっくりして振り返ると、フードを目深に被った男が俺の手首を握っている。
男はそのまま俺が来た道を戻り、床板を元に戻して小屋から出た。
「ちょっと! あなた誰なのよ!?」
そう言うと、男はフードを外した。そこから現れた顔を見て、俺は驚きのあまり叫んでしまった。
「ザフィール!?」




