プログラムでできた人間は果たして人間なのか?
午後の授業が終わると、リア嬢を筆頭に三人娘が俺の所にやってきた。
「ね、ね、どうだった?」
「……勝手に賭けに巻き込まれ、金を取られるところでした」
「Oh……」
「なにそれ? 相手は本当に王太子だったの?」
「むちゃくちゃだねぇ」
三人とも微妙な顔をしている。俺だってあんな訳の分からない事が起きるとは思ってなかった。
リア嬢がぼんやりと宙を見ていたと思えば、ハッと我に返った顔をした。
「そう言えば、アル様が前に隣国の王太子は生粋のギャンブラーとか言ってた気がする」
「ギャンブラー……彼は王太子なんですよね? そんな立場の人間がギャンブラーで大丈夫なんですかね?」
「まぁ、原作がクソゲーだったからね。ストーリーがクソでも私は納得するね」
リア嬢が腕を組みうんうん頷いている。
「もうリア嬢のざまぁも回避できたんだから、今更私がザフィールと付き合う必要など無いと思うんですが」
「そりゃ最もなんだけどさ、ティナちゃんって見てると何だか危ういのよね」
ヴィッキーさんが複雑な顔をする。コレットさんも似たような顔をする。
「分かるぅ。独りにしておけないっていうかぁ、放っておいたら何するか分かんないっていうかぁ」
「俺……私、そんなにヤバイやつに見えますかね?」
「見えるー!」
「見えるわね」
「見えるぅ」
三人の意見が合致する。何故だ。
「多分なんだけどさ、ティナちゃんってこの世界のこと好きじゃないでしょ」
どきりとした。
「なんでそう思うんですか?」
リア嬢が人差し指を顎に押し当てて考えている。
「んー……気を悪くしないで欲しいんだけど、何かねティナちゃんって全てのことを俯瞰して見てるっていうのかな。自分の事なのに、どっか他人事みたいな捉え方してる様な気がするんだよね」
自分でも気付いていなかった事を指摘されて狼狽える。
「……むしろ俺……私はリア嬢が素直にこの世界のことを受け入れてる事の方が不思議です。ヴィッキーさんやコレットさんには失礼ですけど、この世界はあくまでゲームの中の世界なんですよ? それを“はい、分かりました”なんて簡単には受け止められないです。ましてや私は中身が男だから、余計にそう思うんです」
「自分だけ浮いてる感じがする?」
リア嬢が聞いてくる。
「はい」
「分かるわー。私も初めてゲームの世界だって気付いたときは、全部が嘘っぽく感じたもん。孤児院に拾われた時だって、なんでこの人たちプログラムでできた存在なのに、こんなに毎日必死に生きてるんだろう、って考えちゃったよね」
リア嬢が申し訳なさそうに視線を下げる。
「でもさ、今の家に引き取られてからさ、私の考えが変わったんだ。めっちゃ美人のお母さんに禿でデブのお父さん。何か裏でもあるんじゃないかって警戒したよ。でも全然違った。私に何の見返りも求めないで、これでもかってくらい、クソでかい愛情を注いでくれたんだよね。私前世でそんな事されたことなかったから、めちゃくちゃ嬉しかった。それからかな……この世界に生きる人たちがプログラムでできた人たちじゃなくて、ちゃんと地面に足付けて毎日を必死に生きてるんだって感じたのは」
リア嬢が恥ずかしそうに笑う。
「うちの両親、ほんっとびっくりするくらい過保護なのに、私が魔法の才能があるって気付いてから、毎日魔法学園に行きなさいって煩くってさ。でもある日の夜に、たまたまリビングで二人が泣きながら私の事を話してるのを見てから、私頑張って二人の想いに答えなきゃって考えるようになったんだ」
だからこの世界は嬉しいことも楽しいことも悲しいことも辛いことも、全部存在して、全部受け入れることにしたんだ。
リア嬢が目元を乱暴に拭った。
「ティナちゃんにもいつか、そう思ってほしいんだ。赤の他人の出来事を見てる立場じゃなくて、自分の事としてこの世界を見てほしい。きっと素晴らしい世界だなって思える瞬間があると思うよ」
リア嬢の言葉に俺は自分が恥ずかしくなった。全部見透かされてたんだと思うと、どうしようもなく恥ずかしくて情けなくて堪らなくなった。
「エリック様との関係を見てても、凄く距離感あるよね。双子なのに」
生まれてきてからエリックの側にいたのに、俺はエリックの事など気に掛けたことすらなかった事に気付いた。
「……エリックは俺のことで何か言ってましたか?」
リア嬢は首を振った。
「ほら、エリック様って腹黒じゃん? だからそういうの素直に表に出すタイプじゃないと思うんだ。でもさ、ティナちゃんが家出してるって私に聞かせてくれた時は、何となくだけど心配してんだろうな、って薄っすら感じた」
「薄っすらですか」
俺がツッコむと、リア嬢が足をバタつかせた。
「仕方ないじゃん! エリック様は人の思考を覗けるけど、自分の事は絶対表に出そうとしないんだもん!」
「確かにそんな部分はありますね」
実の妹の俺ですらエリックが何を考えてるのかよく分からない。
「別にね、ザフィールと付き合えって本気で思ってるわけじゃないんだよ? ただティナちゃんがこの世界を好きになれるきっかけがほしいだけなんだ」
この世界を好きになる……俺は本当にそんな事ができるようになるんだろうか?
「皆さんにはご心配かけてすみませんでした」
俺が頭を下げると三人とも慌てた。
「今の私がどうなるかはまだ分かりません。でもやれることはやりたいと思います」
リア嬢が俺に釘を刺す。
「くれぐれも無理はしないでね!?」
リア嬢の必死な様子に俺は少しだけ笑った。
「はい」




