黒の魔女と聖女。
俺の再入学許可は意外すぎるほどアッサリと決まった。
ついでに病弱設定だったエリックも入学することになった。ヴァレンテイナがエリックの病弱な体を健康にする為に、献身的に日夜研究に励んでいた結果、普通の人と変わらない体を手に入れることができた、という設定でいくらしい。
そんなバカっぽい設定で騙される人がいるのだろうか? いるから、その設定でいくんだろうな……。
不安しかないが、俺は魔法学園に入学する事となった。
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魔法学園にエリックと共に行くと、やたらダンディーなおじさんが俺達を出迎えた。
「やぁ、始めまして、と言えば良いのかな? 私はこのエルデリア魔法学園の校長を勤めている、ゼファリウス・アルカナムだ」
校長室に通されたが、俺が想像していたいかにも魔法学園っぽい内装ではなかった。どっかの一流企業のCEOの部屋みたいだった。
「さて、それでは君の魔力量と属性を知ろうか。エリック君は分かっているからいいよ。ヴァレンテイナ君、これに手をかざしてくれ」
方位磁石みたいなものを机の引き出しから取り出した校長がそう言ってきた。
俺は気乗りしないまま手をかざす。
すると針がぐるぐる目まぐるしく回っている。
なんだこれ!? と思っていると、校長は満面の笑顔でふむふむ言ってる。説明してくれよ!
「では次にこれを握ってくれ」
木箱を取り出した校長が箱の蓋を開けると、そこには白と黒の玉が入っていた。なんとなく嫌な予感がする。
俺は差し出された二つの玉を握った。
途端、黒の玉からドロリと黒い液体が溢れ出てきて俺はビックリして玉を手放してしまった。
だが校長が予期していたように、二つの玉を見事にキャッチした。
「ふむ。やはり君は“黒の魔女”だね」
黒の魔女? なんだそれは。
俺の心を読んだように、校長が言った。
「聖女と対になる存在が黒の魔女だよ。あらゆる黒魔法を使いこなし、闇の精霊とも契約できる唯一無二の存在」
「闇の精霊……少し恐ろしいですわ」
校長は微笑む。
「何も恐れることはない。光があるから影がある。影があるから光がある。とても偉大で尊いことだよ」
偉大だろうが何だろうが別にどうでもいい。とっとと入学の手続きを進めてほしい。
「それでは君たちの入学を歓迎しよう。様々な混乱が生じるかもしれないが、君たちなら乗り越えられると信じているよ」
そして俺とエリックは呪文科の教師に学園を案内され、ようやく寮に落ち着く事ができた。
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俺が知りたかったのはゲームの内容がどこまで進んでいるかだった。
王太子、ヴァルター、ニールスが聖女エルリア・フェアウッドの手に落ちていたら、彼女の断罪イベントを俺が止めなければいけない。
エルリアはオルカ寮だから、早々と出会えることはないだろう。
何か手はないだろうか……。
と、悩んでいた俺だったが、俺の望みを叶えたのは兄エリックであった。
「彼女がエルリア・フェアウッド嬢に、アルヴィン・ヴァン・ブレイズだよ」
エルリアはゲームから飛び出してきたかのような程、姿形がゲームと似ていた。己の容姿はさておき、庇護欲を掻き立てられるような可憐な容姿をしている。
そしてその隣にいたのはアルヴィン王太子。ここにいるということは、この可憐な容姿からは想像できない悪女っぷりを発揮して、王太子を落としたのだろう。
「リア嬢、アル、こちらが僕の妹のヴァレンテイナだよ」
「初めまして、と言っても宜しいでしょうか? 私はヴァレンテイナ・ノクティスと申します」
さて、どう出るかエルリアは。
「初めましてー! エルリア・フェアウッドです! よろしくね!」
こちらに手を差し伸べて、満面の笑顔で真っ白な歯を見せて笑うエルリアに、俺は一瞬硬直した。
まず淑女が歯を見せて笑うのはマナー違反だ。おまけに手を差し伸べるなんてあり得ない。
だがしかし、ここで握手を断れば、悪印象を持たれてしまう。俺は渋々エルリアの手を握った──その瞬間。
激しい頭痛が俺を襲う。エルリアも頭を片手で押さえて苦しんでいる。
エリックとアルヴィンが驚いている。
洪水のように流れ込んでくる記憶の欠片たち。
前世で働いてたキャバクラでの出来事、好きだったキャストの女の子、でも死んでしまったあの子──。
「離せ!」
アルヴィンが声を張り上げ、俺とエルリアの手を無理やり引き剥がした。
「な……に、今の……」
酷い二日酔いみたいに、頭がガンガンする。
「あれは……あそこは……」
エルリアが俺を見てくる。
「……あなた、転生者でしょ!?」
とんでもない一言をエルリアが放ったのだった。




