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兄の思惑、妹の画策。


 

 

 家出した俺は前もって準備していたから、さほど困らなかった。

 お金も家の金庫から、幾らか拝借していたし。

 問題は寝泊まりする場所だったが、それも能力を使えば難なく解決できた。


 そうして俺は転々としながら、時折家に帰って学園の様子を探っていた。

 分かったのは、聖女が誕生したこと、この国の王太子が聖女にご執心なこと、そして何故か「私」が学園にいること。

 初めて知ったときは驚きすぎて、また別の能力を持つ誰かが現れたのかとすら思ったが、なんてことはない、正体は双子の兄エリックがヴァレンテイナに偽装して学園に潜り込んでいたのだった。

 何故兄がそんな事をするのか、理由が分からなかった。ヴァレンテイナが学園にいると聖女がざまぁされてしまうが、エリックは男だ。ざまぁしたところで隣国の王太子と結婚できるわけでもない。

 もしやエリックの性的対象が男だという可能性も考えたが、そうなると両親が真っ先に気づきそうである。


 謎だらけの情報の断片をかき集めても、何も分からない。

 俺は腹を括る時が来たのかもしれない。

 ──家に帰ること。

 今まで何をしていたかは、能力でごまかせるだろうが、屋敷にいる人数を考えると、かなり困難だと思う。

 ここは一人の女性として、市井の生活を知りたかったから、とか何とか適当な理由をつけて帰るしかないだろう。とにかく、学園がどうなっているのか知りたかった。


 だから俺はキャリーケースを引き摺って今現在、屋敷の入り口にいるのである。長々と回想できたのも、門扉から玄関までクソ長い距離があるからだ。

 城じゃないから門を守る者もいない。

 俺はガラガラとキャリーケースを引き摺りながら、これから待ち受けているであろう、質問攻めを想像して憂鬱になった。


 +++


「まぁ! ヴァレンテイナ! あなたどこに行っていたの!? あなたの身に何かあったのかと、本当に心配したのよ!!」


 母が泣きながら俺を抱きしめる。


「そうだよヴァレンテイナ! 何か不満があったのか? それとも何か悩みでも? 頼むから黙って家を出ていくのはやめてくれ!!」


 父が俺と母を抱きしめる。


「申し訳ございませんでした、お母様、お父様」


 俺はしおらしくしていた。少し離れた場所に兄エリックがいる。彼だけは俺を探るような目つきで見ている。嫌な目だ。

 屋敷の者たちがあれこれと世話を焼く。正直鬱陶しいが、ここは反省しているフリをしなければ。

 両親は深くは尋ねてこなかった。また家出されるかもしれないと思ったのだろう。

 ディナーの時も腫れ物に触るような感じだった。俺にとってはその方が気が楽だった。


 寝室に戻り、荷解きをする。といっても最低限の物しか持っていかなかったから、たいして時間はかからなかった。

 荷解きが終わったのを見計らったように寝室がノックされる。


「エリックだ。少し話がしたいんだが、いいかい?」


 ここで断ると妙な勘ぐりをされそうだったから、俺は「どうぞ」と言って招き入れた。


 エリックは気味悪いほど俺と似ている。双子といっても男女なら二卵性なのに、だ。


「ヴァレンテイナ、戻ってきてくれて嬉しいよ。屋敷の者たちみんなが心配していたんだよ?」


 悲しげな顔で言うが、この男はどうにも胡散臭い。


「じつは市井の人々の営みに興味がありまして……どうしても自分の目で見たかったのです」


「それならそうと言ってくれたら良かったのに。せめて兄の僕にだけでも」


 お前にだけは絶対に言いたくない、と俺は思った。

 エリックは本題に入った。


「僕は両親を説得して、君に変装して学園に入っていたんだ。君がいないと世間に知られるのは、少々外聞が悪いものでね」


「申し訳ございませんでした。お兄様にもご迷惑をおかけいたしまして……」


 ソファーに座ったまま俺は頭を下げる。


「それでヴァレンテイナ、君が学園に入学したくなかった本当の理由はなんだい?」


 そうきたか。意外とストレートだな。


「……学園という閉じられた世界に入るのが怖かったのです。お兄様は学園でお過ごししてどう思われましたか?」


 エリックは腕を組み顎を触っている。


「中々に面白い所だよ。色んな考えを持つ人達と出会えるからね」


 これは本心のようだ。顔つきでなんとなく分かる。


「それは素晴らしい事ですわ。私はその中に入っていくことができるでしょうか?」


 暗に学園に入学したいとほのめかす。


「それはヴァレンテイナ次第だよ。君が心を開けばみんな受け入れてくれるだろう。君はどうしたいんだい?」


「私は市井の人々の生活を身を持って体験いたしました。その経験を将来に活かすために、お父様お母様、そしてお兄様が許して下さるのなら、魔法学園に入学したいと思っております」


 本当は嘘だ。こんなゲームの世界の人間に興味を抱いてどうする? いつ世界がリセットされるかも分からないのに。

 ──世界の強制力。それがどう作用するのかも分からない。そんな不安定な世界で俺ができることなんて、多分何もない。


「ヴァレンテイナの気持ちは分かった。父上と母上に相談して、学園に再度入学できるように校長に相談して貰うよ」


 万が一、隣国の王太子と結ばれそうになったら能力を使って、またどこかに行けばいい。

 俺はそんな軽くて下衆な事を考えていた。




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