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こちら、ゲームの世界となっております。


 

 

 成長するごとに、俺はこの世界を知ることになる。

 機械が存在しない。簡易的な機械的な物はあるが、あくまで簡易的。基本は魔法で生活のあらゆる面を支えていた。

 幼稚園児くらいになると、自分の容姿がとんでもなく美形だということを知った。

 その頃から俺は様々な教育を施された。

 基本的な魔法の使い方、この世界の仕組み、淑女教育、等々。とにかく尋常じゃない量の勉強をさせられたが、俺の方に問題があった。

 何をさせても一発でできてしまう天才だったのだ。

 だから俺はどの教師にも褒めそやされた。

 兄は俺と違い普通に優秀だった。天才まではいかなかった。そんな兄は幼稚園児くらいになる前に、どこかに連れて行かれて滅多に家に戻ってこなかった。

 俺はこの世界での身の振り方を考え始めていた。このまま行くと確実に誰かと結婚させられる。体は女でも心は男の俺は、それだけは避けたかった。


 そして小学生になる頃、久々に帰宅した兄が俺の肩に触れた。ゾワッと背中が粟立ち、咄嗟に頭を抱えた。兄は──エリックは直ぐに手を離したが、得体のしれない気持ち悪さを感じて、俺はエリックの手首を握って怒りにも似た感情をぶつけた。

 すると奇妙な事が起きた。エリックの顔つきがぼうっとしたと思えば、部屋に入ってきた時と同じ挨拶を繰り返したのだ。そしてまた俺の肩に手を触れようとしたから、俺はその手を払い除けた。

 エリックはぼんやりしたまま己の手を不思議そうに見つめていた。そして部屋を出ていった。


 俺がその能力に気付いたのは、小学生高学年くらいの頃。

 毎日毎日、繰り返される詰め込み教育にうんざりしていた時だ。

 ダンスのマナー教師がとんでもなく嫌な奴だった。ちょっとしたミスも許さない嫌味な中年の女だ。

 うんざりしていた俺はダンスの相手であるマナー教師と躍りながら、どこかに行きたいと考えた。

 するとマナー教師の動きがパタッと止まった。俺はそろりと体を離すと、マナー教師はぼんやりとその場に突っ立ていた。

 何が起こったのか分からなくて、にわかに恐怖し始めた頃、マナー教師がぎこちなく動き出したかと思えば、またダンスの最初からやり直そうとしたのだ。

 俺はまた? と思いながらマナー教師を相手に踊り始める。内心で嫌だ、やめたい、と思っていたら、またマナー教師の動きが止まる。

 そしてしばらくすると、また最初からやり直し。

 もしやと思って、踊るために体に触れたとき、心の中で強く「嫌だ」と思った。そしたらまた動きが止まった。そこで俺はマナー教師に言った。


「ダンスはもう終わったからすぐに帰れ」


 ぼんやりしていたマナー教師が元に戻ると、今日の授業はここまでと言って帰っていった。


 俺は重大な能力を持っていることに気付いたのだ。触れた相手の記憶を忘れさせることと、偽の記憶を植え付けること。

 昔見たSF映画を思い出した。メン・イン・ブラックでペンみたいなのをピカッと光らせてから偽の記憶を植え付ける便利な機械。アレを俺は自力でできるのだ。

 この能力は絶対に秘密にしておこうと決意した。いつかこの能力が必ず役に立つ日がくると信じて。


 +++


 その日は思いの外早くやってきた。

 魔法学園に入学が決まった日だ。まだ年齢的に中学生くらいだった。

 学園のパンフレットを見ていると、妙な既視感を覚えた。──どこかで見たことがある。

 そう思った瞬間、強烈な頭痛に襲われた。


 キャバクラであの子が何のゲームをしているのか知りたくて、聞いてみたことがあった。彼女は嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれた。

 そう、タイトルは「悪役令嬢の恋〜勘違い聖女をザマァしよう!〜」

 あの子がバカっぽいサブタイだよね、と笑ってた。俺は閉店後にアマゾンでゲーム機とそのゲームをポチッてた。だって好きな子がしてるゲームだぜ? 会話のきっかけになるかもしれないだろ?

 そんな邪な思いと共に注文したゲームが届くと、俺は早速プレイした。どんな話題でも即答できるように、細かい所までプレイしたんだ。ストーリーはあの子の言う通りクソだったけど。


 そのゲームの主人公の顔が脳裏に蘇る。

 漆黒の髪に紫色の瞳で黒魔法が使える。何もかもが俺そのものの姿をしていた。魔法まで同じ属性だ。


 ということは、この世界はあのゲームの世界だということか? そうとしか考えられない。

 いや待て、そうなると俺は聖女をざまぁ──断罪しなくてはならなくなる。要するに間接的に聖女を殺すことになる。


 絶対に嫌だ! 俺は殺人者になんてなりたくない! ついでにまだ見ぬ隣国の王太子と結ばれるなんて、もっと嫌だ!

 ……逃げなければ。

 俺の頭に真っ先に思い浮かんだこと。

 俺の能力があれば逃げられるはずだ。いや、何がなんでも逃げなければ。


 そして俺は決行日を魔法学園の入学式の前日にした。

 それは驚くほど上手くいったのだった。




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