彼女の正体
「君は下がっていろ。まだ騎士団が来ていない。来るまで俺が魔獣を引き付けておく」
「そんなの駄目ぇ! 私も闘うぅ! 私の強さ知ってるでしょぉ!」
「くっ……分かった! コレット・シャルモワ!」
ヴァルくんは間合いを図りながら、人のいない方向へと魔獣を誘導していく。その間に私が一般人を避難誘導させた。
「建物の中に避難してください! 早く!」
魔獣は気が立っていた。荒い息遣い、涎がボトボトと垂れ落ちている。魔力が欲しくて腹が減っているのだろう。
「コレット・シャルモワ!どうか無理だけはしないでくれ!」
「ヴァルくんこそ絶対に無茶な真似はしないでぇ! 私なら大丈夫だからぁ!」
私とヴァルくんは左右に別れて魔獣を挟み撃ちにする。
ヴァルくんが初級魔法を使う。
「旋風!」
風の塊が魔獣にぶつかる。一瞬よろめいたけど、倒れるまでにはいかない。
ヴァルくんは連続で魔法を使った。
「滅びを告げる烈風」
中級魔法が使えるんだヴァルくん。凄い。私とは大違いだ。
「ヴァルくん! 魔獣を足止めして!」
「分かった!」
ヴァルくんは両手を上げて呪文を唱えた。
「天地を喰らう暴嵐!」
上級魔法!? 驚く私の目の前で黒い嵐が周囲のあちこちで巻き起こる。
それらは稲妻を伴って、魔獣を取り囲んでいく。
足止めされた魔獣が四方を取り囲まれて、どうにもならずに魔獣はじっとしている。いや、動けないのだ。
「私が合図したら魔法を止めて!」
「いや、しかし……!」
「お願い!」
苦悶の表情を浮かべてヴァルくんは頷いた。
私は人がいないのを確認し、自分の中にある枷を取り外していく。
体がどんどん軽くなってきた。それと同時に体の皮膚が剥がれて飛んでいく。
中から見えるのは青色の肌。爪は黒く鋭く尖っていく。
顔の皮膚が剥がれ落ちる。それを対面で見ていたヴァルくんの目が大きく見開かれた。
青色の肌に黒い唇、目は血のように赤い。そして額から二本の太く黒い角が生えてきて、赤茶けた髪は漆黒の闇のように黒く長くなる。
尻からは太い尻尾が生えてきて、地面に叩きつけるだけで大地が大きく抉れた。
足は膝から下が獣のように毛が生えていて歪な形をしている。
完全で本当の私は青い肌をした魔族だ。
「魔法を止めろ!」
ヴァルくんが魔法を止めた。魔獣が私の強烈な魔力に気がついてこちらを振り返る。
魔獣が突進してきた。
私は姿勢を低くして、魔獣を迎えうつ。
──ドスンッ!
魔獣の鋭く太い角を受け止める。魔獣が何も考えずに、この私を仕留めようと地面を蹴って押し返そうとする。
「いい根性だ……だが無謀だ」
私は両手に力を込めると、魔獣の鋭い角をかち割った。そのまま右手に魔力を集めると黒い稲妻が走る球体が形成される。
ゴッ! と鈍い音を立てて、魔獣の頭に魔力の塊をぶつける。
メリメリと音を立てて魔力の塊が魔獣の頭を割っていく。
皮膚が破れ黒い血が流れ、それでも止まれない哀れな魔獣は悲鳴を上げながら、体が真っ二つに引き裂かれた。
ドスン、と音を立てて魔獣だった肉の塊が地面に転がっている。
私は顔を上げてヴァルくんを見た。
驚愕の表情の中に悲しげな色を見つけて私は顔を伏せた。
魔獣で避難していた市民たちが集まってくる。
「なんだあの女! 肌が青いぞ!」
「角も尻尾も生えてるわ!」
「魔族だ! 魔族が現れた!」
「殺せ! 殺さないと殺されるぞ!」
私に市場の人たちが石や物をぶつけてくる。当たっても痛くはない。けれど……。
「いい加減にしろ貴様ら!!」
ヴァルくんが大声で怒鳴る!
シンッと静まり返る中、ヴァルくんがまた口を開いた。
「魔獣を倒したのは彼女だ! お前たちは何をしていた!? 何もしていなかった! それなのに彼女を魔族呼ばわりして石を投げつけるなど、言語道断!!」
「ヴァル……くん」
「彼女に感謝すれど、非難するなど恥を知れ!!」
ヴァルくんが私に近寄ってきた。
「コレット、帰ろう」
手を差し伸べられる。私はこの手を取る資格があるのだろうか?
躊躇っていると、ヴァルくんが私の醜い青い腕を掴んで引っ張った。
彼は着ていた上着を私の肩に掛けてくれた。
彼の体温が残る上着に私は泣きたくなった。
本来の姿に戻った私の背は高くなり、ヴァルくんより頭一つ分は追い越している。
そんな些細な事が私の胸に刺さる。
市場を出るとヴァルくんは私の手を握りしめて歩き出した。
学園へと向かっている。
彼は終始無言だった。私達が学園に戻ると、正門の係の人は何か知らされていたのか、無言で私達を通してくれた。
そして中央塔に近付くと、校長先生の姿が見えてきた。
彼はごく自然に私に話しかけてきた。
「やあ、久しぶりだね、コレット・シャルモワ。部屋に戻る前に校長室に来てくれ」
私とヴァルくんはそれに従った。ヴァルくんはずっと私の醜い手を握りしめてくれている。
私が少しでも手を話そうとすると、彼は逃さないとばかりに私の手を握る手に力を込めた。魔族の私なら簡単に振りほどけるのに、何故か私はそれができなかった。
校長室に入ると、何故かリアちゃんとヴィッキーがいた。
二人の顔が驚きで固まっている。
私は二人の顔を見るのが辛くて、俯いてしまった。




