まさかのデートのお誘い。
最近、ヴァルくんとよく鉢合わせする。
「コレット嬢、こんにちは」
「はいぃ、こんにちはぁ」
「では」
「ではまたぁ」
こんな感じで、教室を移動するたびに結構な頻度で遭遇する。会うたびに挨拶してくれるから、ヴァルくんは律儀で礼儀正しい人だな、と改めて私は思った。
「いや、どう考えてもアレはわざとコレットに会いに来てるでしょ」
私の右肩からニュッとリアちゃんが顔を突き出してきた。
「なにがぁ?」
「コレットにフォールリンラブなヴァルくんのことだよ!」
「ふぉ〜?」
「要するにコレットに恋に落ちてるってことよ」
反対側からヴィッキーが顔を出してきた。
「だってリオン寮の授業なら私ほとんど把握してるもん! アル様と少しでもお話ししたいからさ。でもね、同じリオン寮のヴァルくんがさっきここを通ったでしょ? おかしいのよ」
「なにがぁ?」
「このやり取り前もした気がするな……それは置いといて、さっきの授業リオン寮は召喚術なわけね、で、私達は魔法史だったわけでしょ? 教室が西棟と東棟で正反対の場所なんだよ? これは、どう考えてもコレットに会いに来てるとしか考えようがないですぜ」
「それ本当なの? だとしたら本気であのヴァルって男子、コレットにこまめに会いに来てるってことじゃない」
「でもぉ、なんのためにそんなことするのぉ?」
私が言うと顔の両側から溜息をつかれた。
「そんなもん、愛しのコレットに会いたいからに決まってんでしょ!」
二人がハモる。
「ヴァルくん、私のこと好きなのぉ?」
「私達何度も言ってんでしょうが!」
リアちゃんが怒鳴る。耳が痛い。
「でもぉ、ヴァルくんみたいな格好いい人ならぁ、私なんかよりもっと素敵な人を選ぶよぉ」
「その素敵な人があんたなのよ!」
今度はヴィッキーが怒鳴る。耳が痛い。
「そうかなぁ……私リアちゃんみたいに可愛くないしぃ、ヴィッキーみたいにスタイル良くないしぃ、ないないだらけだよぉ?」
「ばっか言ってんじゃねーよ! 私の前世の世界には、コレットみたいな人が好きな男の人、割といたんだよ?」
「でもぉ、ここはリアちゃんの世界じゃないよぉ?」
「こんな時だけ正論かましてくんなコレット!」
リアちゃんがグリグリと顎を肩に押し付けてくる。痛い。
「コレット、あんたは可愛いし性格もいい。もっと自分に自身を持ちなさい」
ヴィッキーがグリグリと顎を肩に押し付けてくる。痛い。
「とにかく、あのヴァルくんはかなり引っ込み思案みたいだから、今度会った時はコレットからも何か話題を振ってみな。絶対食いついてくるはずだから。前世キャバ嬢舐めんなよ?」
取り敢えず私は頷いた。そんなこと絶対あり得ないと思いながら。そう、“こんな”私を好きになる人なんていないのに、と。
何かの聞き違いか、人違いか、ヴァルくんは顔を真っ赤にしながら今私の目の前で、とんでもないことを言った。
「その……今度の日曜日に、俺と一緒に街で、その……で、デートというやつをしてくれないか!」
私の思考が一瞬停止する。
デート……ってなんだっけ? リアちゃんが言ってたような気がする。
やっぱり聞き違いかな?
「ヴァルくん、私ただの農家の娘だよぉ? 貴族のご令嬢じゃないよぉ?」
ヴァルくんの瞳がカッと開かれる。
「俺は貴族だからとか、平民だからなどと差別する矮小な男ではない! 君だから俺はで、デートに誘っているんだ!」
私だから……私だから?
「私なんかでいいのぉ?」
「君だからいい!」
「でも私リアちゃんみたいに可愛くないよぉ?」
「人の美醜の価値観はそれぞれだ!」
「でも私ヴィッキーみたいにスタイル良くないよぉ?」
「俺は君のその体だからいいんだ!」
ん?
「いや、違う! 体が目的とかではなく、顔と同じで価値観は人それぞれだと言いたかった!」
真っ赤になってる顔が、これ以上ないくらい更に赤くなってる。こんな私のせいで。
なんだか可哀想になってきた。
「それじゃあぁ、いいよぉ」
私が言うと、ヴァルくんは呆けた顔をする。あれ、なんで固まっちゃったのかな?
ハッとして我に返ったヴァルくんが確認してくる。
「ほ、本当にいいのか?」
「いいよぉ」
「この俺が相手でもいいのか?」
「うん、だからいいよって言ってるよぉ」
「信じられない……この俺が……」
何だか感極まった感じでプルプルしてるヴァルくん。赤くなったりプルプルしたり、忙しい人だな。
「ありがとうコレット嬢!」
私の手を握ってブンブン振るヴァルくん。これはなんの表現だろう?
「それでは日曜日、正門前で八時に待っている!」
それだけ言うと、ヴァルくんは猛スピードで走り去っていった。
忙しない人だな、と私は思った。




