自分を見失わずに生きてください。
三度目の手紙が実家から送られてきた。
内容は勿論馬鹿兄貴のことだ。
兄はようやく海の国から帰ってきたらしい。真実の愛が偽りの愛だと気付いたからだとか言ってるらしい。
予測するに単に振られたか、自分が飽きたからのどっちかだろう。
なんにせよ、バカでも一応跡継ぎが帰ってきたことにはホッとした。
一方私といえば、相変わらずニールスに付き纏われてる。
ただ、以前ほど嫌だと思っていない自分に、時折舌打ちしたくなる。
「今日も君は美しいね。勿論僕も美しいのだけど」
水色の瞳が私の変哲もない暗い茶色の瞳をまっすぐ見つめ返してくる。
「何かいいことがあったみたいだね」
「どうしてそう思うのよ」
「君が何かに喜んでいる時は微かに口角が上がるんだ」
私は両手で口角を押さえた。
「当たっていたみたいだね」
性格悪いわねコイツってば。
「……あのさ、私は私のままで生きていくって決めたんだ」
ニールスは黙って聞いている。
「どれだけ頑張っても、どうにもならない事があるわ。自分を無理やり変えようとしても、結局何にも変えられない。なら私は私のままで世界を変えてみせるわ」
ニールスが私の手を握ってきた。その大胆さに狼狽えてしまう。
慌てて手を引き抜こうとするが、相変わらず力が強くて引き抜けない。
「君は強い女性だね。僕にも君ほどの勇気があれば、化粧をした姿を皆に見せることができるのに」
「いつかニールスもその勇気を手に入れる事ができるはずよ。私の先読みの力は確かなんだから」
ニールスが笑う。
「君は商売人としての先読みの力だろ?」
「日常生活でも生かされるものよ」
ようやくニールスが手を離してくれた。全く心臓に悪い。
「さて、それじゃあ未来の輝かしい自分を作るために授業を頑張らないとね」
背伸びをして深呼吸をする。
「ニールス、あなたの夢は何?」
ニールスは即答した。
「今よりも更に美しくなることかな。それと――」
「なによ」
「君の側にいても胸を晴れる自分になりたい」
私はニールスの言葉に意地悪く返した。
「それじゃあ、今よりももっと背が伸びないとね。私に見劣りするわ」
鞄を抱えて私は廊下を走る。途中先生に怒られたけど気にしない。
これからの事を考えると胸が踊る。
「遅いわよニールス!」
止まらずに走り続けようと思う。馬鹿げた因習も私が変えてみせるわ。
そのためにも今を精一杯頑張らないとね!




